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赤い服の少女  作者: Ichiko
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転校

渚が交番の脇で梓を待つ様になり一週間が経ったが、梓が現れる事はなかった。


『忙しいのに、すみませんね。』


毎日晃一か彩子が付き添いに来ると渚が案内板の前で立っている間は交番の中で待っているが、人通りの多い交番には道を尋ねる人がひっきりなしに来るほか、痴漢や引ったくりといった犯罪の被害者が駆け込む事も多い。


『良いんですよ。お母さんを見付けるためですし、渚ちゃんが私たちには癒しになりますから。』


最初は奇異の目で通行人たちに見られていた渚だったが、通勤で毎日通るビジネスマンからは次第に声を掛けられる様になり、渚はアイドル的な存在になりつつあった。


『児童相談所から連絡がありまして、私たちが渚の親族里親として正式に認められました。週明けから渚の八王子の小学校に通う事になりますので、これからは日曜日だけ伺います。今まで、お世話になりました。』


学校は土日休みであるが、梓と渚が別れたのは日曜日だった事もあり、休みだからといって連日来る訳にもいかないので、話し合いの結果日曜日の4時間だけ引き続き立つ事にしたのだ。


『なぎちゃん、学校も頑張ってね。』


もう慣れ親しんだまつりたちは渚の事をなぎちゃんと呼んでいる。


『うん。』


梓の実家である晃一・彩子の自宅は八王子駅からバスで15分ほどの川を渡った先の住宅街にある。


八王子へは中央線の方が早いが、晃一たちは始発駅でJRより安くて一本待てば必ず座れる京王線でいつも往復していた。


晃一は渚を先に座らせてから自分も隣に座るがまだ3時過ぎなら慌てなくても座れないという事はない。


電車は新宿を発車すると暫く地下の区間は音がうるさいが、坂を上がり地上に上がると静かになり、通常に会話が出来る環境になったところで晃一は渚に尋ねた。


『なぎはママに早く捕まってほしいと思う?それともずっと逃げていてほしいと思う?』


『……分かんない……。渚、どっちでもママと一緒には入られないんだよね。』


子どもには少し残酷な二者択一だった。


『ごめんな、なぎ。ママはお前のためとはいえ人としてやってはいけない事をしてしまったんだ。だからお祖父ちゃんもお祖母ちゃんもママには早く捕まってほしいと思っている。ママは刑務所で反省しなきゃいけないけれど、ちゃんと反省すれば早くなぎと一緒にいられる事になるんだ。』


『……うん。』


理屈では分かるが、それでも渚には梓が塀の中に入ってしまって会えなくなる複雑な気持ちを拭い去る事は出来ないのだ。


バスに乗って、自宅に戻ると彩子が待ち構えていた。


『お帰りなさい。なぎ、疲れているでしょうけど、お洋服買いに行きましょう。』


住宅街の近くにはチェーン展開をしている衣料品の店もある。


住んでいたマンションから渚の服は持ち出していたが、翌日から新しい学校に通う渚のために多少洋服は揃える必要があるのだ。


衣料品店は日曜日の午後は、駐車場に入りきれない車が出るほど混雑をしているが、幸い自宅から歩いても行ける距離で、彩子は渚と会話を楽しみながら歩いた。


『なぎはどんな服がほしい?』


『……分かんない……。』


祖母に遠慮しているのか、ほとんどの返事は[分かんない]である。


『なぎは赤い色が好きなんでしょ?赤いお洋服にしようか?』


『……やだ……。』


渚は大好きな赤を否定した。


『どうしたの、赤がいやって?』


『……赤はママと一緒の時に着る服だから。』


いつも赤が似合うと言ってくれた梓が帰ってこない状態では赤は着たくないのだ。


『ごめんね。』


彩子はなるべく淡い色を基調とした服を渚に選び、渚もそれで良いと特に嫌がる事はなかった。



週が明け、渚は彩子に連れられ向かった転校先の八王子市立中野小学校はかなり古い校舎だが、都内の学校とは違い校庭やたら広い。


『一年3組担任の宇野瑞希と申します。事情は伺いました。出来るだけ渚さんが普通に学校に通える様配慮致します。』


『宇野先生は若いけれど子どもたち一人一人の気持ちに寄り添って生徒にも親御さんたちにも信頼されています。どうか安心してお任せ下さい。』


担任となる瑞希は校長の作田も太鼓判を押すほどだから、大丈夫だろうと彩子は安堵する。


『宜しくお願いします。』


『じゃ、渚さん。教室に行きましょう。』


『はい。』


渚は静かに返事をして瑞希と共に古びた廊下を歩いて教室に向かった。


瑞希が教室に入ると直ぐ日直が号令をする。


『きり~つ、気を付け、おはようございます!』


『おはようございます!』


一年生も2学期後半になるとかなりしっかりしている。


『今日から一年3組に新しい友だちが加わります。西脇さん、挨拶をしてくれる?』


『新宿の高田小学校から来ました西脇渚です。』


渚が自己紹介をすると教室内は少しざわめいた。


『今和田さんの班が5人だし隣の机が空いているから和田さん、宜しくお願いね。』


『はい、分かりました。』


渚は和田美里の隣の空いた席に座り、美里に軽く会釈をする。


『宜しくね、西脇さん。』


美里は明るく渚に挨拶を返した。


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