表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い服の少女  作者: Ichiko
3/30

取り調べ

翌日、渚は早稲田警察署の捜査本部に呼ばれ、取り調べを受けた。


『あんな小さい子が取り調べだなんて。』


彩子は憤る。


『仕方がないじゃないか?渚は梓の事を一番よく分かっているのだから。』


取り調べは1時間足らずで終了し、渚は中田千波という女性刑事に付き添われて出てきた。


『西脇さん、どうも申し訳ございませんでした。渚ちゃん、しっかりしてとてもえらかったです。』


『そりゃどうも。』


しっかりしているという事はそれだけいろいろ聞かれて喋らされたのだろうと、身内としては穿った見方にはなってしまう。


『ところで西脇さん。渚ちゃん、殺された被害者からかなり体罰を受けていたみたいですが、ご存知でしたか?』


『いや、梓とそのなんとかっていう男の関係とか私たちは何も知らなかったからな。』


『そうですか。渚ちゃんの証言によると、殺された敷田は度々梓容疑者のマンションを訪れ、渚ちゃんに暴力を振るっていた様なんです。』


『それが梓がそいつを殺した理由なのか?』


もしそうなら情状酌量という目も出てくる。


『まだそうとは言い切れませんが、梓容疑者が渚ちゃんを守りたい一心で犯行に及んだという可能性は充分あります。出来れば早く自分から出頭してほしいのですが。』


明確な動機があっても逃亡を続けていれば状況は不利になる。


『渚のためにも、私たちは協力は惜しみません。刑事さん、出来るだけ早く、梓を捕まえて下さい。』


晃一と彩子は捜査本部を出ると、渚を連れて児童相談所に出向いた。


『この娘の母親の事なんですが、昨日早稲田で起きた殺人事件で逃亡している容疑者なんです。』


『え?』


担当した職員はさすがに初めてのケースだったので絶句した。


『出来たら、たった一人の孫であるこの()を娘の代わりに育てたいと考えています。』


『この場合、親族里親という制度が適用されます。一度児童相談所で渚ちゃんを保護し、西脇さん夫妻に託す形になりますね。』


職員は冷静さを取り戻し、晃一たちに説明する。


『という事は、今すぐ引き取る事は出来ないのですか?』


『いえ。渚ちゃんが今虐待を受けているなど生命の危険がある様なら預りますが、渚ちゃんが一番安心出来るのは西脇さんのご自宅の様ですので、そのまま手続きを進めていきたいと思います。』


『ありがとうございます。なぎ、今日からお祖父ちゃんお祖母ちゃんの家がなぎの家だ。』


ほっとした晃一は渚に一緒に暮らす事を伝えた。


『うん、分かった。』


まだ年端のいかない子どもが抱えるには残酷過ぎる運命だが、晃一も彩子も少しでも渚の負担や気持ちを軽くしたいと願っている。


住んでいたマンションは警察の取り調べが終わった時点で引き払う事となり、許可を得て渚の服や勉強道具などを搬出した。


児相からは正式な決定が出るまでは住民登録を移さない様に言われているが、もう今まで通っていた小学校に通う事は出来ないので、転校手続きと担任への挨拶だけを先にする。


『西脇さんも大変ですね。渚さん、別の学校に行っても頑張ってね。』


担任の先生は渚を励ましている様だが殺人者の子の厄介払いが出来て良かったと顔に書いてある様だった。


『児相からの許可がないと八王子の学校にも行けないな。』


どのみち手続きを遅くしても元の学校には通えないので、暫く渚は宙ぶらりんの状態になってしまう。


『お祖父ちゃん……。』


『どうした、なぎ?』


『お願いがあるんだけど……。』


もともと口数の少ない子どもの渚は祖父母におねだりをした事はなく、これが初めてである。


『学校に行くまで、毎日ママを待っていたいの。』


『ママを待つって、どこで?』


『地図のところ。』


渚の言う地図とは、新宿西口地下の交番の脇にある案内板の事だ。


『なぎ。なぎの為とはいえ、ママは人を殺しちまったんだ。あそこで待っていてもママは来ないんだぞ。』


『だって、直ぐ戻るってママ言ったんだもん!ママとの約束だから待っていたいの。』


普段無口なだけに一度言い張った時の強情さは梓に似ていると晃一は思い、彩子は涙を流した。


『そうか……。なぎの気持ちは分かった。先ずはお巡りさんに相談して、それからルールを決めよう。お祖父ちゃんの言ってる事分かるか?』


『うん。』


言い出したら訊かないが、自分の言い分が通れば素直さも持っている渚であった。


『先ずは交番のお巡りさんに必ず挨拶をする事。疲れたら遠慮しないで休ませてもらえ。行くのは11時から3時まで。お祖父ちゃんかお祖母ちゃんも一緒に行くけど、一人で行っては駄目だ。言う事聞けるか?』


『うん、分かった。』


渚自身、再び梓が戻ってくるとは思っていないだろうけれど、そこに見えない母と娘の絆があるのではないかと晃一は考える。


次の日から渚は赤いロリータ服を着て、新宿駅の地下で再び母の梓を待つ事になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ