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赤い服の少女  作者: Ichiko
29/30

ずっと

『渚ちゃん、見えますか?』


千波が梓に確認した。


『はい。』


あの時と同じ、赤いロリータ服を着た渚が梓の目にはっきり見えて、渚も梓に気付いているはずだ。


このみたち[ななもえ]の一行も交番の前で待っていて、道行く人たちは何の集まりか気になりながら通り過ぎる。


『こうちゃん、目立ち過ぎじゃない?これじゃ感動の再会も半減しちゃうよ。』


演出をしたこのみに知香が苦言を呈する。


『私は梓さんの身元引受人だし、うちの従業員たちも仲間ですから。どうせ知香さんなんか、来るなって言ったらヘソ曲げますよね。』


『うっ……。』


隣で健介も苦笑いをしている。


『ママの負けだね。』


知香はこのみに図星を突かれ、楓にまで言われてしまった。


『あそこにいるの、なぎちゃんのママだよね。』


『うん。』


脇を固める美里と楓は初対面だが、渚の親友で同じろりぽっぷを着ている共通点で既に打ち解けているが、美里は梓が逮捕された時もこの場所にいたので、梓の雰囲気は分かる。


『なぎちゃん、頑張って。』


渚はいつ来るか分からない状態で待ち続けていた時と違い、緊張で顔が強張っていた。


『笑顔、笑顔!』


梓が千波と一緒に少しずつ向かってくるのが見えて、さらに緊張が増したのを2人は察して励ます。


千波は梓から2・3歩下がって歩くと、武司がシャッターを押し始めた。


100メートル、80メートルと2人の距離が近くなり、梓の歩きが少しずつ早足になる。


2人は目を合わせ、渚は前に出ようとするが、我慢して立ち止まって梓を待った。


梓は渚の前に着き、抱きしめようとしたが、躊躇した。


『ただいま。……遅くなってごめんなさい。』


2人には時間というわだかまりがあるのだ。


『……お帰り……。』


5年の歳月は渚の外見の成長だけではない距離があった。


『大きくなったわね。』


『……うん。……ママ、凄く痩せた……。』


もともと痩せ型の梓だが、一緒に暮らしていた時よりやつれて老けている。


『……怒ってる?』


渚が怒った時の頬を膨らます小さい時の癖はそのままなので、梓は渚が自分の事を許してくれていないと感じた。


『……なぎ……。』


渚の目から涙が溢れ、遂に堰を切った。


『……だって、……だって、ずっとママと一緒にいたかったんだもん!会いたかったんだもん!』


梓も涙を流して渚を抱きしめる。


『ごめんなさい。……もう何処へも行かないから。……渚とずっと一緒にいるから!』


時間という2人のわだかまりはようやく解けた。



東京観光をするメンバーと別れ、渚は赤いロリータ服から美里たちと同じ[ろりぽっぷ]に着替え、撮影許可をもらった公園で撮影に臨む。


カメラマンは武司で、レフ板を持つ助手は知香が担当した。


『なんか良い様に使われてない?私。』


いつも恩人と慕われているはずの後輩に上手くあしらわれた格好の知香だ。


『すみません。今日の旅行で予算不足なんです。その代わり夜は期待して下さい。』


社員旅行の名目なので部外者の知香の一家も武司の一家も撮影協力という形でこのみはひよりから予算を引き出したのである。


『子どもたちが喜んでいるから良いじゃないですか?』


ファインダーを覗きながら武司は知香に言った。


梓は晃一と彩子と並んでカメラに収まる渚を見ている。


『昔に比べてずいぶん明るくなって……。本当にありがとうございました。』


『芯の強さはお前と一緒だがな。友だちが出来てなぎはもっと強くなったんだ。美里ちゃんも、楓ちゃんも。』


3人は別の場所で中学生活に臨んでいくが、その強さがあれば何処に行っても大丈夫だと晃一は言った。



その後は原宿の竹下通りで撮影をして、ショッピングなどを楽しんで原宿の駅から直ぐの中華料理の店に入った。


『丸いテーブルなんだ。』


『なぎちゃんはこういう中華初めて?』


『はい。テレビで見た事があるけど。』


渚にとって中華料理というとラーメン屋のイメージしかない。


『梓さん。大丈夫ですか?』


『……はい。』


刑務所の薄味からまだ3日めで、徐々に濃い味に慣らしているとはいえいきなり中華料理は(つら)いかもしれないとこのみは心配したが、この店は中華と言っても広東料理なので比較的食べやすく、子どもたちも喜んで食べている。


『ママ、美味しい?』


『うん。』


毎日刑務所で黙って食事をしながら渚と会話をしながら並んで食事をする日を待ち望んでいたが、なかなか会話が出来ない。


『お酒、大丈夫ですか?』


スナックをやっていてもともと酒は飲めない訳ではないが強くもなく、乾杯は烏龍茶だった。


『暫く飲んでいませんから少しなら……。』


このみは、梓のために薄めのウーロンハイを注文した。


『少しアルコールが入った方が話しやすくなりますよ。』


薄めだが、数年振りの酒はかなり堪える。


が、口数が多くなる事はなかった。


『梓さん。ゆっくりで良いと思いますよ。一緒にいれば少しずつ会話が出来る様になります。うちの楓だって、最初は全然喋らなかったですし。』


『失われた時間を一気に取り返すのは無理だと思います。時間を掛けてちょっとずつで良いんじゃないでしょうか?』


親友の母親である知香と律子に言われる。


隣に座っている渚も意識しているせいか、梓の方を向かず美里や楓と運ばれてくる料理の話ばかりをしていた。


『今夜は2人きりのお部屋ですからここでは話し辛い事も話せるんじゃないですか?』


宿泊するホテルでは梓と渚の2人、ツインルームが用意されているのだ。

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