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赤い服の少女  作者: Ichiko
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再会の準備

ななもえの社員旅行当日になり、梓を加えた8人は2台の車に分乗し新桐生駅前の駐車場に乗り付けた。


『はい、お弁当。』


このみが手作りのおにぎりとおかずが入った弁当を渡す。


『このみちゃん作ったの?塩大丈夫?』


『まだ言ってる。梓さんと一緒に作ったし、大丈夫です。それより萌絵さん奈々さん、眠くないの?』


2日間仕事をしないで出掛けるので2人は前日から徹夜で作業をしていたのだ。


『電車の中で寝てるから大丈夫よ。』


『もう。それじゃ意味ないでしょ!』


電車の振動は徹夜明けには心地よい揺りかごの感じで、2人は次の停車駅である藪塚に着いた時には寝てしまった。


『何しに行くんだか?』


『まあ寝かせてあげましょ。』


呆れ返るこのみとひよりだが、一方の梓はおにぎりを持ったまま動かなくなっている。


『梓さん、どうしました?』


陶子が心配そうに顔を覗いた。


『……怖いんです……。』


『怖いって……?』


『渚が……本当に待ってくれているのか……。5年も放ったらかしにしていた母親を待ってくれるって勝手に思っているだけなんじゃないかと思って。』


踞りながら梓が胸の内を明かす。


『何言ってるの?渚ちゃん、あんなにお母さん帰ってくるの楽しみにしていたがね?大丈夫、自信持とうよ。』


五月は普段は標準語を話しているが、興奮すると部分的に上州訛りが出る様だ。


『そうだよ。こうやってみんなが背中を押しているんだから頑張んなさい。』


38歳の梓にとって唯一の年上である陶子は包み込むように梓に言った。



一方、八王子では渚が赤いロリータ服を着て準備している。


『ちょうど良いみたいね。』


初めて袖を通した時は少し大きめだったが、良い感じで成長している様だ。


『でもこの格好で外に出るの恥ずかしい。』


小学一年生ならいざ知らず、六年生には真っ赤なひらひらのロリータ服を着て街を歩くのは抵抗がある。


『止める?』


『でも、この服で待っているって決めたから着ていく。』


思えば小学一年生の時、遠くからでも分かる様に母が着せたものと同じ色とデザインで、その上からコートを着た。


『さあ、行こうか?』


ちょうど美里たちもバス停で待っていた。


『おはようございます。今日は記者ではなく美里の友人とお母さんのために撮影します。』


武司は今は地元紙の編集と写真館のカメラマンを掛け持ちしているだけだが、昔取った杵柄で記者の血が騒いでいるみたいだ。


『美里ちゃん、可愛い!』


美里もロリータ服を着ているが、薄い緑がかった灰色のコートで、中は見えないが白の甘ロリらしい。


『先週、頼んでもいないのに突然ななもえから届いたんです。今日は是非うちの子にも着てほしいって……。』


このみからの無償のプレゼントだ。


『これ、[ろりぽっぷ]っていう新しいシリーズなんだって。』


『知ってる。私、撮影で着たから。』


以前、ななもえでもロリータ服のシリーズはあったが、今渚という専属モデルを獲てヒントとなり、萌絵が新たにデザインしたのが[ろりぽっぷ]であり、渚も赤いドレスの上のコートは[ろりぽっぷ]である。


一行は梓たちより早く、新宿駅に到着した。


思い出の西口地下交番にはもう世話になったお巡りさんはいない……はずだったが、少し頼りなさそうな新米警官からだいぶ()()()なった村木春彦と私服の芳賀まつりが出迎えてくれた。


『村木さん。いつぞやは大変お世話になりました。』


『いえ。私もご連絡を戴き嬉しく思っています。今は西新宿署の内勤で、今回上司から特別に任務の命令があり驚いていました。』


『お姉さん、婦警さん辞めたの?』


『そ。このお兄さんと結婚したから。』


今は村木まつりとなっている。


『どうもごぶさたしております。』


健介と知香、[ろりぽっぷ]のコートを着た楓の一家も交番前にやってきた。


『先生、本当にありがとうございました。おかげで渚もこんなに明るくなりました。知香さんも今井さんを仲介をして戴き、申し訳ございません。』


『いえ。うちの楓も渚ちゃんのおかげで助かっていますから。』


時計は11時を指し、人波が増えてきた。


『そろそろ来ると思います。水を差す様で申し訳ございませんが一般の歩行者の妨げにならない様にお願いします。』


武司は記者時代と同様、柱の影でカメラを構えて待っている。


渚はコートを脱いで梓と別れた時と同じ赤いロリータドレス姿になり、案内板の前に立ち、脇の交番の前で美里や晃一たちが見守っている。


渚の準備が整った頃、梓は逮捕された150メートル先の位置に到着した。


『西脇さん。仮釈放、おめでとうございます。』


『刑事さん?!』


梓に手錠を掛けた中田千波である。


『今、私は西新宿署にいて、副署長という面倒な仕事をしていますが、おかげで今回晃一さんから今日渚ちゃんとここで再会するという報告を直接戴きました。交番には当時渚ちゃんと面識のある警官を配置しています。』


春彦に命令をした上司が千波だったのだ。


全ての準備が揃い、梓はこれから渚を迎えに行く。

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