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赤い服の少女  作者: Ichiko
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身元引受人

加倉との面会から一週間後、身元引受人を買って出たという人物が面会に来た。


『はじめまして。株式会社ななもえの社長をしております今井このみと申します。』


このみはにこやかに挨拶をしたが、社長の割に貫禄やオーラの様なものはまるで感じられず、女子大生くらいに見える。


『社長……さんですか?』


『社長らしくないとよく言われてます。私自身、社長なんて柄に合わないと思っていますから。ななもえという会社は私の中学時代の先輩二人がデザイナーとして立ち上げたティーンエイジャーの女の子向けのブランドで、今子供たちの間では結構人気があるんです。』


このみから簡単に会社の説明を受けたが、初めて聞いたブランドである。


『実は私、高木知香さんの後輩で、先程のデザイナーは高木さんの同級生なんです。梓さんのお話は以前より高木さんから聞いていまして、何か力になれないかと思っておりました。』


『高木先生の奥さまから?』


『先日、あいにく私は不在でしたが渚ちゃんが高木さんと一緒にうちに来てくれました。その後のお話で、梓さんがこちらで縫製の訓練をされている事、出来れば渚ちゃんの卒業式までに仮釈放を希望されている事を聞いて、是非私が身元引受人となってうちで働いて戴きたいと思った次第です。』


このみが身元引受人を買って出た理由を説明する。


『非常にありがたい事ですが、身元引受人は両親がなると言ってくれていますから。』


急成長している会社の社長とはいえ初対面の知らない相手より肉親の方が身元引受人に適しているのは誰でも思う。


『でも、ご両親の住む街ではあなたの過去をみんな知っていますよね。渚ちゃんもご両親も今までかなり耐えてきたと思われますが、梓さんがその街に住めばもっと辛く厳しい環境になるはずです。それより梓さんの事件を誰も覚えていない街の方が暮らしやすいと思います。私はお二人の住まいも渚ちゃんの学校も、全てバックアップ致します。』


ななもえは少人数のスタッフでやり繰りをしていたが、刑務所でスキルを上げた梓を強力な即戦力として迎え入れたいという思惑もあったのだ。


『誰も事件の事を知らない街……。』


『何れにしても仮釈放はこれから申請する段階なので、その申請が認められ、仮釈放までは何ヵ月も掛かるでしょうから、早めに決めなくてはいけません。』


最初に身元引受人の審査や住まい、仕事の環境が整っているかの審査があり、初めて申請が認められる。


申請すると先ず保護観察官による予備面接があり、数ヶ月後地方更生保護委員会による本面接で仮釈放が妥当であるかが判断されるが、予備面接の後、本面接の前に懲罰があるとマイナス査定になるし、予備面接と本面接の内容が違ったりすると反省しているのかが疑われてしまうのだ。



このみは、刑務所を出るとその足で八王子に向かった。


『は~い。』


『私、株式会社ななもえの今井と申します。』


晃一・彩子にも事前に電話で身元引受人になると伝えていたので直ぐに彩子はこのみを居間に通した。


『この度は大変申し訳ございません。渚にも高い服をたくさん下さりまして。』


『いえいえ。大した事ではありません。それより、出所してからが本当の更正ですから、私はそのお手伝いをするだけです。それに、渚ちゃんにも私たちのお仕事を手伝ってもらいたいので。』


渚に仕事を手伝わせるとはどういう事だろうと彩子は思った。


『ただいま。』


渚が学校から帰ってきた。


『なぎ、洋服をくれた社長さんよ。』


『こんにちは。たくさんの洋服、ありがとうございました。』


彩子に紹介され、渚は緊張しながらお礼を言う。


『こんにちは。今日はうちの服着てないの?』


渚は量販店で買った安いトレーナーとパンツという格好だ。


『すみません。あんな高い服は普段は着れません。』


『残念ですね。洋服は着てこそ価値があるんです。クローゼットで飾るものではありません。渚ちゃん。この前あげた服で一番気にいったの今着ておばちゃんに見せてもらえるかな?』


渚は彩子の目を見てから自分の部屋に行き、2着あるワンピースに着替えて降りてきた。


『うん、可愛い。手を頬に当ててみて、足を少し曲げて。』


このみは渚にポーズを取らせ、自分のスマホで撮影しその写真を彩子に見せた。


『どうですか?可愛いでしょう?渚ちゃんにはうちのモデルになってもらいたいんです。撮影で使った服はそのまま渚ちゃんに着てもらいますので勿体ぶらず着せてあげて下さい。』


渚は抜きん出て美人という訳でなく何処にでもいるちょっと可愛い小学生だが、このみはだからこそ良いと言う。


『うちのコンセプトは[みんな可愛くなあれ。]です。美人過ぎるモデルでは意味ないんです。梓さんが作った服を渚ちゃんが着て、それを売り出すのが私の仕事です。私が責任をもってお二人を支えます。』


彩子は、このみに梓と渚を任せてみようと思った。

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