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赤い服の少女  作者: Ichiko
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塀の向こう側

もらった服を紙袋に詰めて、車は更に東を目指す。


『良い人たちでしょ?』


ハンドルを握りながら知香が渚に聞いた。


『はい。奈々さんも萌絵さんも私たちの憧れなんです。そんな方たちに会えただけじゃなくてこんなに洋服をもらえるなんて。』


渚はまだ興奮している様だ。


『楓がね。渚ちゃんと一緒に着たいって言ったの。社長さんに。こうちゃん楓に甘いから。』


知香は社長の事をこうちゃんと言っている。


『かえちゃん、ありがとう……。』


『私は本当のパパとママの子じゃないでしょ?だからママのお友だちはみんな私に優しくしてくれるの。』


『楓は私たちの本当の子どもでしょ?パパの前で言ったらパパ凄く怒るから。』


知香の口癖は[どんな事があっても楓は私がお腹を痛めて生んだ子]であり、最近楓が少し反抗期になり[本当の子じゃない]と言うのが気にいらない。


『パパ怒らないもん。ママの方が怖いもん。』


実の母娘ではない2人を見て、渚は自分も梓が帰ってきたらこんな風になれるか不安であった。


車は足利から高速道路に入り、栃木インターチェンジで降りた。


『さ、着いたよ。』


渚は梓が収監されてから初めて栃木刑務所にやって来たが、日曜日は面会は出来ない。


『この塀の向こうに、なぎちゃんのママがいるの?』


楓の問いに渚は黙って首を縦に振る。


『刑務所なのに塀は低いし明るい感じね。』


『学校みたい。』


知香も楓も思っていた刑務所のイメージとは違う様である。


渚は塀の先に見える建物の窓の向こうに梓がいるのではないかと思い目を凝らすが、人の姿は見えなかった。


『刑務所ってみんなどんな事をしてるの?』


楓自身、自分の生みの母親が刑務所に入った事は薄々分かっているので、多少なりとも興味がある。


『朝は6時半に起きてご飯を食べたらお仕事するの。いろんな仕事があって出てきてからも困らない様に訓練しているんだって。』


毎月届く梓からの手紙で、渚は刑務所の事はよく知っている。


『なぎちゃんのママは?』


『楓!そんな事聞かないの!』


知香は遮るが、渚は特別気にする様子はない。


『洋裁だって。さっき萌絵さんがやっていたみたいにお洋服とか作っているみたい。』


知香は渚の言葉に一瞬はっと思った。


『風が強いね。渚ちゃん、もうそろそろ帰りの電車の時間になるけど良いかな?』


刑務所の直ぐ傍には思川が流れていて、日光連山から吹く空っ風が冷たく肌を襲う。


『はい。おばさん、今日はありがとうございました。』


3人は車に乗り込み、栃木駅に向かった。


『なぎちゃん、ママのお迎え、私も一緒に行って良いかな?』


刑期満了はまだ一年以上先だが、晃一たちが渚の小学校卒業・中学校入学までの仮釈放を働きかけていていた。


そのため、みんなの話題が仮釈放ありきで進んでいるがまだ何も決まった訳ではない。


『邪魔になるから駄目よ。』


『ママだって行きたいって言ってたくせに。』


また口喧嘩が始まった。


『私は大丈夫だよ。ママ、かえちゃんにもおばさんにも会いたいって手紙に書いてあったし。』


梓は健介とはスナックで会ったが、知香と楓には会っていない。


『分かった。おばさんもなぎちゃんママに会いたいし、お言葉に甘えるわ。』


栃木駅の改札で渚は2人の見送りを受け、新宿行きの特急電車に向かった。



仮釈放は、懲役・禁固刑の3分の2以上(無期刑は10年以上)を経過した受刑者が刑務所内で充分反省・更正をしていると刑務所長が判断した場合に認められ、審査をされる。


審査時に面接を受けるが、内容が食い違ったり再犯の可能性がある場合は仮釈放は認められない他、身元引受人が必要である。


彩子は渚の卒業式の時までに仮釈放を望んでいる旨を面会時に梓に度々言い、弁護士の加倉にも相談していた。


『西脇さんは態度もちゃんとされていて、充分反省をしていますから仮釈放は認められると思いますよ。私の方からもお願いしておきましょう。』


『でも……両親にもだいぶ迷惑を掛けてしまったし、身元引受人までお願いするには……。』


『何をおっしゃるんですか?身元引受人は両親が一番確実なんです。それにお母さんも了承しての事ですから。』


『すみません。渚の卒業式は見たいのですが、仕事の事もあるし、渚を育てていけるか心配なんです。』


いざという時の決断が出来ないのだ。


『もしですよ。ご両親ではなく仕事と住まいを提供してくれる人が西脇さんの身元を引受けると言ったらどうされますか?』


突然、加倉は1つの仮定を持ち出した。


『そんな……奇特な方なんていらっしゃらないでしょう……。』


出所者を支援する企業はあるが、仮釈放から身元引受人となって面倒を見るのは難しい。


『実は是非西脇さんの身元引受人になってうちで渚ちゃんと一緒に住み込みで働いてほしいと言う方が申し出ているんですよ。』


『まさか?』


正に寝耳に水である。


『一度その方とお会いしてみませんか?』


梓はその身元引受人の面会を待つ事になった。


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