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赤い服の少女  作者: Ichiko
20/30

成長

[ママへ 渚は三年生になりました。 もうびょう院には行かなくていいのでおじいちゃんからならい事をしなさいと言われました。

私はお手紙を書く字がじょうずになりたいのでしゅう字をならいたいと言いました。]


梓が逮捕されてからの1年半に渡り、健介の手で一緒に治療を受けた楓が健介と共に引っ越してしまった事、最後に発作が起きた楓から攻撃を受けたが後で仲直りをした事などを書きたい渚だったが、手紙で楓の事は書いてはならないという言い付けを守っていた。


その元凶である関根睦月は出所の日が近いらしい。


日本の法律では児童虐待は量刑が重いとはいえず、虐待致死は殺人に等しいのではないかという世論があるが実際はかけ離れていて、梓より睦月の方が懲役ははるかに短いのである。


もっとも睦月にとって懲役という刑罰より、唯一の娘の楓を引き離され何処の誰か分からない里親に引き取られ、一生会う事が出来ない方が辛い罰なのだ。


高木楓が睦月の実の子どもだと勘付いている梓は、出所したら睦月は自分の娘を捜し回り、自分を通じて楓に辿り着きそうな悪い予感に襲われている。


『睦月ちゃんは刑務所から出たらどうするつもりなの?』


『お金もないし、親元には帰りにくいから住み込みで働く場所を探していきます。前に一緒の部屋だった和歌子ちゃんから温泉旅館で働かないかって誘われているの。』


温泉旅館の仲居が出所者の受け皿というのはよく言われるが必ずしもそうでもなく、最近は新卒の若い仲居や外国語に堪能な高学歴の中途入社も多い。


が、一部では前科があっても更正のために受け入れる旅館やホテルもある。


『そうなの。良かったね。』


仕事に一生懸命になればストーカーをする暇もないだろう。


睦月がこれからどう生きていくかはまた別の機会に書きたいと思うが、梓は同年代の話し相手である睦月が出所する事で、この先どうすべきか考え始めた。


(私は出所したらどうすれば良いのだろう?お父さんたちの世話になる訳にはいかないし、渚も中学生くらいだと1日も早く仕事をしなきゃいけない……。)


もともと高校を卒業してから水商売の世界に身を投じていた梓には、履歴書も満足に書けないのだ。


生活に困って再び刑務所に戻る様な事になれば、それこそ渚には顔向けが出来ない。


梓が出したひとつの結論は、とにかく刑務所内では真面目に刑務官の言う事を守ろうという事である。


もともと根は真面目な梓だが、刑務所の中では様々な罠や妬みがあり、優等生はそのターゲットにされやすい。


真面目な態度を続けていれば階級が上がり、優遇されて刑期を全うする前に仮釈放される事も可能だが、やっかむ他の受刑者から足を引っ張られる事もあるという。


幸い、梓の回りにはそんなひねくれた受刑者がいない様だが、気を緩めず1日も早く出所する……印象が良くなれば就職も多少有利になると考えた。


梓は、渚への手紙に今まで書く事を禁じていた楓の話を解禁した。


[渚へ 三年生進級おめでとうございます。ママも字が上手くないので、渚に負けないよう、きれいなお手紙を書ける練習をします。渚の傷が治ったのはママもとても嬉しいです。でも楓ちゃんに会う機会は少なくなってしまいますね。楓ちゃんのパパやママに会ってお礼がしたいです。渚も身体には気を付けて、頑張って下さい。 ママ]


この手紙を読んだ渚が返事を書いて梓のもとに届く頃には睦月は出所した後なので、楓の事は書いても大丈夫だよという暗号(サイン)である。



[ママへ 楓ちゃんはおひっこししました。さい玉のふか谷というところで、甲府よりとおいです。楓ちゃんはけがややけどだけじゃなく、心のびょう気だそうです。八王子に楓ちゃんと楓ちゃんのパパとママが来たときに楓ちゃんはびょう気のせいでわたしのへやのものをめちゃくちゃにしてしまいました。わたしは楓ちゃんをおこりましたが、びょう気のせいときいてゆるしました。まえみたいに楓ちゃんに会いに行けませんが、おじいちゃんは楓ちゃんもてん校すれば渚みたいにたくさん友だちが出きるよと言ってました。それから、三年生になったのでおじいちゃんがスマートホンを買ってくれたので楓ちゃんとラインをはじめました。 渚]


睦月が出所した後に届いた渚の手紙は楓との事を母に伝えたくて堪らない渚の気持ちが手紙に溢れ出ていた。


(それにしても渚がスマホなんて……。お父さん、孫に甘くないかしら。)


渚や楓が持たされたのは保護者が子どもの居場所が分かる子ども用のスマートフォンで、小学三年生くらいのスマホ所有率は4割近くだが、刑務所の中にいる梓は手紙くらいでしか渚の成長が分からない。


(渚も成長しているのかしら。)


時の流れは塀の中と外では明らかに違うのである。



それから3年の月日が流れ、渚は六年生になっていた。

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