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赤い服の少女  作者: Ichiko
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動機

西脇梓は高校を卒業後、家を出て水商売の世界に身を置いていた。


最初は簡単に高収入が得られるからという甘い考えだったが、次第に自分はこのままで良いのか悩み始める。


だが、優しい両親の元を飛び出した梓には帰る場所はなく、そのまま新宿の街で自分の居場所を探し続けていた。


梓は貞操だけは守り続けていたが、ある日出会った客に惹かれ初めての朝を迎えたが、その男性は二度と梓の店に来る事はなかった。


『すみません、体調が優れなくて……。』


店を休みがちになった梓は病院で妊娠と診断される。


軽い気持ちで親元を離れ、たった一度の夜で子どもを宿るというのはあまりにも不運で残酷だが、梓は中絶ではなく出産を選んだ。


『そんな身体で仕事が出来る訳ないだろう?明日から来なくて良いよ。』


梓は身籠ったまま無職となり途方に暮れたが、そんな時に店の客だった男性に声を掛けられた。


『梓ちゃん、店を辞めたんだって?これからどうすんの?もし良ければ知り合いがスナックのママを探しているみたいなんだけど、働いてみない?』


そう声を掛けてくれたのが敷田啓吾である。


梓は、敷田の事は特別感情を抱いていなかったが、そんな敷田の言葉に甘え、渚が生まれると直ぐにスナック[フェアウェイ]のママになった。


『お父さん、お母さん、今までごめんなさい。娘の渚です。』


梓は晃一と彩子に詫びを入れ、夜は渚を2人に預けて店に出たが、仕事が終わると八王子の実家に渚を迎えに行き、どんなに眠くても昼間は渚と共にいた。


渚は成長し一人で留守番をする様になったが、渚はたまに来る敷田に懐かず、次第に暴力を振るわれる様になる。


『止めてよ!なんでなぎを叩かなきゃいけないの?』


『このガキの目が気にいらねぇんだよ。あいつの血が混じっているからな。』


敷田は渚の父親と知り合いだった様だが、どんなに梓が尋ねてもその男の素性を話す事はなく、渚は敷田が来る度に暴力を振るわれていた。


『なぎ、ごめんね。』


梓は渚を連れて何度も逃げ出そうとしたが、母娘2人が着のみ着のままで生活が出来るほど世間は甘くない。


その日は他に客が居らず、梓と敷田の2人きりの状態だった。


『いいかげんあのガキなんとかしろよ。』


敷田がトイレに向かうその時、梓は包丁で敷田を刺した。


『梓……お前………。』


敷田は絶命し、梓は我に帰る。


(やってしまった……。)


父親のいない渚のためにここまで一人で頑張ってきたが、渚に手を掛ける敷田を許す事は出来ず、梓は発作的に凶行に及んだのである。


(なぎ、ごめんね。)


渚が待つマンションへの道はとてつもなく長く感じたが、何度も心の名かで渚に謝りながら、梓は歩いた。


『なぎ、出掛けるから直ぐに仕度して。』


マンションの自室に戻った梓は、母の帰宅を待っていた渚にタンスから赤いロリータ服を出した。


『ママ、何処にいくの?』


『……良いから急いで。』


不思議がる渚を梓は急かした。


『ママ、出来た。』


梓は渚の服を整え、急いでマンションの部屋を出る。


(もう敷田は発見されたかしら?このまま渚と一緒にいてはいけない。)


新宿で降り西口改札を出た梓は、交番の前を過ぎて大きな案内板の前で止まった。


『なぎ、ここで少し待っていてくれる?直ぐ戻るから。』


(ここなら警官が直ぐになぎを保護してくれるだろう。)


梓はまだ自分が捜査の対象となる前に渚と別れる事にした。


『うん、分かった。』


(なぎ、ママを許して。)


そう思いながら梓はJRの改札を抜けていった。



『なぎ!』


八王子に住む祖父母は、娘の梓が被疑者となり早稲田署で聴取を受けていたが、その最中に孫の渚が新宿西口地下交番で保護されたという連絡を受け、パトカーで渚を迎えに来た。


『渚ちゃん。お祖父ちゃんお祖母ちゃんが来たよ。』


まつりは疲れて眠っていた渚を起こす。


『なぎ、ひとりでよく頑張ったな。』


祖父の晃一に抱き締められ、渚はそれまで我慢していた涙を流した。


『辛かったろう。えらいえらい。』


他に身寄りのない渚は、祖父母に引き取られる事になる。


『お巡りさん、うちの娘と孫が大変ご迷惑を掛けました。渚にはよく聞かせますが、1日も早く梓を見付けて下さい。宜しくお願いします。』


晃一と彩子が深々と頭を下げた。


『渚ちゃん、ばいばい。』


『……ありがとう、お姉ちゃん。』


渚はまつりに礼を言い、祖父母と一緒に交番を後にした。


帰りの電車の中で安心しきった渚は、祖母の彩子に寄りかかって眠る。


『これからどうしましょう?』


『梓は人の道を少し外れてしまったが、根は優しい子だ。人殺しをするなんてよくよくの事情があったのだろう。梓が逮捕されて刑を全うするまで渚はうちで預かろう。』


晃一の判断に彩子も頷いた。

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