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赤い服の少女  作者: Ichiko
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渚の七五三

月に一度面会に訪れる晃一・彩子に一緒の部屋にいる睦月が高木健介の娘・楓の実の母だとは言えない。


基本的に、面会時の会話は自由だが、内容は刑務官が聞いていて、事件に関わる内容は制限される。


梓には関係なくても睦月の起こした事件であり守秘義務がある内容だから無理で、渚に書く手紙も同様である。


そうなると、面会時に刑務官の立ち会いがない弁護士の面会しか方法はなく、弁護士の加倉に睦月と楓の事を伝え、晃一たちや渚に楓の事は手紙に書かない様に言ってもらうしかない。


『そうなんですか。よく教えて下さいました。』


加倉は別段驚く事はなく、梓の言う通りに晃一に伝えると答えた。


『受刑者が少ない女子刑務所なら有り得る話なんですよ。梓さんの様な人も麻薬で捕まった人も同じ部屋に入りますから。』


それ以来梓は、手紙が来ても細心の注意を払う様になったが、睦月は梓に聞いてくる。


『最近、渚ちゃんの手紙に楓ちゃんの事書いてくれないんですね。』


『遠くに住んでいるみたいですから。私もそれ以外は知らないので……。』


梓は渚の傷を自費で修復してくれる恩人の健介に仇で返す事にならぬ様隠し通すが、睦月の気持ちを考えると心が痛む。



一方で晃一から楓の事は手紙に書かない様に言われた渚も困惑している。


『ママ、かえちゃんの事嫌いなの?』


『そうじゃないんだ。……楓ちゃんのパパがなぎの傷をただで治してくれるだろ?だから申し訳ないっていう気持ちなんだ。』


晃一は必死に言い訳をするが、ただで傷を治して申し訳ないという気持ち自体小学二年生の渚には理解出来ないのだ。


そんな渚だが、楓と一緒なら辛い治療も我慢出来、治療後は僅かな時間だが二人だけの時間が待っている。


『かえちゃん、去年七五三やったの?』


渚が部屋のタンスの上にある振袖姿の楓が写った写真立てを見付けた。


『なぎちゃんはやらなかったの?』


『うん。ママがいなくなった頃だから出来なかったの。でも、お祖父ちゃんが今年やってくれるって言ってた。』


親友の2人だが、渚の母が刑務所で服役中という事と、楓の両親が実の親ではないという事はお互い伏せている。



『渚ちゃんも今のうちに前撮りした方が良いんじゃないかな?』


美里の父の武司は、衆文社を退職した後フリーペーパーの記者をしながら自宅近くの写真館でカメラマンとして働いている。


『僕も美里の七五三の時は渚ちゃんの事を追ってたからお祝いしてあげられなかったんだよ。』


『私、パパはいないって諦めてたから。』


実際に父親がいない渚にはそんな父娘のやり取りが羨ましい。


『渚ちゃんの七五三写真はおじさんがサービスするよ。お祖父ちゃんにも言ってあるから。今までの罪滅ぼしで。』


『パパ。だったら写真だけで良いからもう一回私の写真も撮ってよ。パパ去年お祝いしてくれなかったんだから。』


武司は苦笑いした。


『分かったよ。美里と渚ちゃんのツーショットを撮ってお祝いしよう。』


渚の七五三写真の前撮りは6月後半の日曜日に武司の勤める写真館で行なわれた。


『いっぱいあるね。』


店内には色とりどりの振袖やドレスが並んでいる。


『なぎちゃんはどんなのが良い?』


『……分かんない。』


本当は好きな赤を基調とした大きな花柄の振袖を着たい渚だが、赤は自ら封印をしている。


『なぎはこれが着たいんでしょ?』


祖母の彩子には見透かされていた。


『なぎちゃん、赤いの似合うから良いよ!』


梓が逮捕された時、美里も赤いロリータ服を着た渚と一緒にいたので渚が赤が好きでよく似合う事は知っている。


『……でも……。』


梓が事件を起こす前、2人で七五三には赤い振袖を着ようねと話をしていたのを思い出さずにいられない。


『着たいんでしょ?赤い振袖を着てママに写真見せてあげなよ。』


美里に説得され渚は気持ちを固めた。


『わぁー、きれい!』


『なぎ、可愛いわよ。』


サイドアップされた髪が赤い着物によく似合う。


『渚ちゃん、手を前に出して。そうそう。顔を少し斜めに。可愛いよ、笑って、チーズ!』


武司に言われるままポーズを取る渚は最初こそ緊張で固い表情だったが、次第にほぐれて来た。


『美里も一緒に入りなさい。』


去年の前撮りには立ち会えなかった武司は、自分で娘を撮影出来る喜びを感じている。


渚と美里は息の合ったポーズを取りファインダーに収まった。


『うん、良いねぇ。さすがに我が娘だ。』


『パパ!』


両親がいない渚の前で言う言葉ではないと、美里から窘められる。


『あっ、ごめん。』


今の生活となって半年以上になる渚はだいぶ精神的に強くなり、少々の事では傷付かない。


『美里ちゃん。私、平気だよ。』


気を遣ってくれてきた人たちを逆に気遣う事が出来る様になっていた。

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