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赤い服の少女  作者: Ichiko
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面会

梓の身柄は東京拘置所に移され、収監されたまま公判の日を待つ事となった。


晃一と彩子は面会室の厚いアクリル板に遮られた部屋の向こう側で梓を待った。


『梓!』


刑務官に連れられて部屋に入ってきた梓の顔はだいぶやつれていた。


『お父さん、お母さん、ごめんなさい。』


両親が面会に来たら先ず謝ろうと思い描いていた梓の言葉ははっきりしている。


『渚は……?』


この場に娘の渚はいない。


『渚は今は会いたくないそうだ。』


梓はがっかり項垂れたが、自分が撒いた種なので当然の事だと思っている。


『今は会いたくないと言ったが、渚はお前の事をずっと待っているぞ。渚は今手紙を書いている。』


面会の時に面会者が直接手紙を渡す事は出来ず、郵送された手紙は刑務官が内容を確認した上で拘禁者や受刑者に渡されるのだ。


『梓。お前のした事は決して許されるものではない。』


『はい……。』


『しかし、お前の気持ちはお父さんもお母さんもよく分かっているつもりだ。渚の事は心配しないで、お父さんたちに任せなさい。』


『私たちも渚ちゃんもあなたが1日でも早く刑期を終えて帰ってくるのを待っているから。身体には気を付けてね。』


梓は晃一と彩子に深々とお辞儀をして、自分の収監されている部屋に戻った。


拘置所での未決拘禁者は何もする事がなく暇であるが、お金があれば筆記具や新聞・雑誌、おやつを購入する事が出来る。


ただし、逮捕された時に所持金があるか、現金の差し入れがあればの話で、それらの金は拘置所で預かり、購入した際に代金を差し引かれるのだが、梓は自分が逮捕された時の記事が週刊衆文の最新号に出ているという事を弁護士の加倉から聞かされており、その号を購入して部屋で読んだ。


[赤いロリータ服の少女続報 少女の母の逮捕劇]


そんなタイトルだった。


記事を読むと、先週読んだ逮捕前の記事と同じ記者が書いた様だが、逮捕されたという衝撃的なタイトルの割には梓の事を同情し、好意的に書かれている。


逮捕前の先週に読んだ記事は幼い子どもを残して愛人を殺害した非道な女と忠犬ハチ公の様に親を待つ子どもみたいな書かれ方だったが、今回は母と娘の150メートルを隔てた見えない絆などと書かれ、敷田の殺害も娘のために致し方ないものとの論評で締め括られていた。


この記事を書いた記者が渚の親友の父だという事は梓は知る由もない。



晃一たちの面会から3日後、渚からの手紙が梓のもとに届いた。


[ママへ。わたしはわたしがいじめられていたくしているのをママがたすけてくれたとおもいます。ありがとう。いま、あたらしいがっこうでみさとちゃんという友だちができました。]


渚が慣れない便箋に梓への気持ちを一生懸命書いたのがよく分かる。


『ごめんなさい、渚……。』


便箋には梓の涙が溢れ落ちた。


[それから、こうふでかえでちゃんと友だちになりました。かえでちゃんのパパがきずをなおしてくれると言ってくれました。]


続けて書かれていたのは、スナックローズで客として来た健介が梓との約束を守って渚の傷や火傷を修復してくれるという内容だったが、店では梓の名前ではなくさよという源氏名だったのによく分かったものだと思う。


(先生、ありがとうございます。)


梓は、便箋と封筒を購入し、渚と健介に手紙を書いた。


[なぎさへ だめなママでごめんなさい。今ママは拘置所(こうちしょ)という(ろう)やに入っています。ママはこれから裁判(さいばん)でどれくらい牢やに入るか()まります。しばらくなぎさに会うことはできませんが、いっぱい反省(はんせい)してもどるので、お友だちとなかよくして、おじいちゃんおばあちゃんといっしょにまっていてください。]


[高木先生 この度は渚の傷を治して戴けるとの事、誠に感謝しております。私の様な人を殺めた罪人にたった一度お会いしただけの先生よりこの様な温情を賜り、生涯忘れる事はございません。私は今後、如何なる判決が出ようとも受け入れる所存です。そのため、先生にお会いして直接お礼を申し上げる事は出来ませんが、刑に服しながら先生と奥様、楓ちゃんのご多幸をお祈り申し上げます。西脇梓]


手紙はそれぞれ中身を刑務官がチェックして郵送される。


『なぎ、ママからお手紙来たわよ。』


渚が学校から帰ると、梓からの返事が届いていた。


『お祖母ちゃん、開けて。』


渚も最初に彩子たちの家に来た時に比べたらだいぶ喋る様になっている。


彩子が丁寧に鋏で封を開けると、渚は母の手紙を読んだ。


『なんて書いてあった?』


『ママ、いっぱい反省するから待っててだって。ママの反省が終わったら、また新宿駅に行く。』


『なぎ……。』


渚はあくまで梓と約束をした新宿駅西口地下のあの場所で待つと言い、それまで面会の機会があっても、絶対に会わないと決めていたのである。

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