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赤い服の少女  作者: Ichiko
12/30

逮捕の後

翌日、渚は彩子に連れられて登校し、職員室で彩子が瑞希に報告する。


『そうですか。渚さん。辛いでしょうが、頑張って下さいね。』


クラスメイトたちはひとまず瑞希が抑えたので今は落ち着いているが、梓が逮捕された事で再び炎上するかもしれない。


『先生。私、みんなに言う。』


あまり自分から積極的に話さない渚が口を開いた。


『みんなにって……。』


『お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも強くなれって言ったから……私、みんなに昨日の事言う。』


彩子も頷く。


『先生。是非渚にお話をする機会を与えて下さい。私も見ていますので。』


『分かりました。私も渚さんのバックアップをします。』


3人は始業の鐘と共に教室に向かった。


『起立!気をつけ!おはようございます!』


日直の号令による挨拶が終わり、全員が座る。


(渚ちゃん、頑張って!)


美里も渚の話をしっかり聞こうと思い注目する。


『おうちで聞いて知っている人もいると思いますが、西脇さんから昨日の事のお話があります。……西脇さん。』


瑞希と渚は目を合わせ、渚は小さく首を振る。


『…………。』


静寂が教室を包んだ。


『……私のママは昨日、刑事さんに逮捕されました。……ママは人を殺して逃げていたけど、私に会いに来て捕まりました。ママが殺した人は、うちに来ていつも私を苛めていました。……私はいっぱい怪我とか火傷をしたけど、ママはいつも私を守ってくれました。だから、ママは私のためにあのおじさんを殺したんだと思います。人を殺すのはいけない事だから、ママは牢屋に入ります。……でも……でも……私はママが大好きです!……私はママが牢屋から出てくるまで、ずっと待っています!』


渚の話に泣き出す生徒もいて、渚の思いはクラスに伝わった様だった。


『渚ちゃん……。』


美里も泣いている。


彩子も、心の中で渚を誉めていた。



『なぎちゃん、もうここには来ないんですよね。』


昨日の緊張から解放された新宿西口地下交番では春彦がため息を付く。


『あれ?村木くんってロリコンだったの?』


相変わらずまつりにからかわれる。


『ちげーよ。ちょっと寂しいけど……。』


『そうね。出来ればなぎちゃんのお母さん、捕まらないでずっと逃げていてくれたら良かったかもね。』


『警察官が容疑者を捕まらないでほしいなんて言うんじゃない!』


まつりの一言に小山田が渇を入れたが、交番全体の活気が一気に失われてしまった様だ。


『あの……。』


一人の女性が尋ねて来た。


『どうされました?』


『昨日、ここで逮捕された西脇梓さんの事で聞きたいんですが……。』


そう質問したのは高木健介の妻である知香だった。


知香は病院で忙しい健介の代わりに甲府から来たのである。


『そういうのはここでお話する事は出来ませんから、捜査本部のある早稲田警察署に行って戴けますか?高田馬場駅から歩いて5分くらいで行けますので。』


春彦は知香に丁寧に説明し、知香は会釈をして早稲田署に向かった。


『私、甲府で刑事さんが来た時に店にいた高木健介の妻で高木知香と申します。』


『はい。……え?高木さんの奥さま……?』


千波が応対したが、知香の顔を見て驚く。


『何か?』


『失礼しました。……スナック[ピーチ]の松崎友子さんから聴取をした時、高木さんの奥さまの話をしていたと聞いたものですから。』


知香が性同一性障害の元男性という話で盛り上がっていた事を聞いた千波は、その本人を目の当たりに見て驚いていた。


『私が性同一性障害っていう話ですか?手術を受けたのはもう7、8年くらい前ですから。』


それにしてもどこから見ても女性にしか見えない知香を見て、千波は本来の仕事を忘れている。


『あ、それで西脇容疑者の事を聞きたいというのは?』


『あの日、主人が西脇さんに娘さん……渚ちゃんが虐待されて受けた傷を治すと約束したんです。それで、渚ちゃんのご住所をお聞かせ戴けないかと……。』


健介は梓との約束を果たすために知香に託したのだ。


『申し訳ございませんが個人情報ですし、被疑者のご家族ですからこちらから教える訳には参りません。ですが、高木さんが宜しければ、こちらから渚さんのところに高木さんのご連絡先とお伝えする内容を教える事は出来ます。』


手間は掛かるが仕方がない。


『分かりました。主人の名刺と、渚ちゃん宛の手紙です。これを渡して戴けますか?』


『お受け致しました。必ずお渡しします。』


『それと……。』


知香はもうひとつメッセージを付け加える。


『渚ちゃんにうちの娘の楓と是非友だちになってほしいと伝えて戴けますか?うちの楓も実の母親から虐待を受けて、傷や火傷がたくさんあります。同じ辛さを味わった子しか分からない思いを共有出来るのではないかと思うんです。』


『分かりました。一緒に伝えます。』


千波は知香が帰ると直ぐに自宅に戻った彩子に連絡をした。

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