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赤い服の少女  作者: Ichiko
10/30

和解

武司は律子、美里と一緒に渚の家を訪ねた。


『はい。』


『渚ちゃんと同じクラスで親しくさせてもらっています美里の父で和田武司と申します。私、週刊衆文の記者をしておりまして、今回渚ちゃんの記事を書いたのは私です。知らなかった事とはいえ、大変ご迷惑をお掛け致しました。』


3人は深々と頭を下げる。


『まあわざわざすみません。寒いですからどうぞお上がり下さい。』


彩子は3人を居間に招いた。


『これ、お口に合うか分かりませんが……。』


武司が買ってきた菓子折りを彩子に差し出す。


『そんな気を遣わなくても良いですよ。今、渚を読んで来ますから。』


お茶を淹れ終わった彩子は2階に作られた渚の部屋に行き、渚を連れてきた。


突然訪れた美里とその両親に戸惑いを見せる渚は、居間の扉を半分開けた状態で硬直する。


そんな渚の前で武司は正座になり、渚に土下座をした。


『渚ちゃん、ごめんなさい!渚ちゃんと美里に辛い思いをさせてしまいました!』


戸惑う渚は、そのまま硬直しているが、彩子が代わりに答える。


『和田さん、頭を上げて下さい。この子の母の梓が人を殺めてしまったのも、この娘が梓を待って毎週新宿駅で待っているのも事実ですから。私たちは渚に現実から目を背けない様、お話をしており、渚にはどんな事があっても強く生きてほしいと願っています。そうでしょ、なぎ?』


『……うん……。』


渚は祖母の言葉を受け入れるしかない。


『だったら、美里ちゃんに謝りなさい。』


『……み…さとちゃんの事……嘘つきって思ってたのごめんなさい……。』


蚊の鳴く様な声で渚は謝った。


『私の方こそごめんなさい。これからもずっと友だちでいて良い?』


美里の問いに渚は頷くだけだったが、それだけで充分気持ちは伝わった。


『私からもこれから宜しくお願い致します。寒いので今日はお鍋にしようと思っているんですが、もうすぐ主人も帰って参りますし、ご一緒に如何ですか?』


彩子は和田一家を夕食に招き、一度目は断った武司と律子だったが、2度目は応じるしかない。



こたつの上にカセットコンロと土鍋が乗せられ、帰って来た晃一は武司のグラスにビールを注ぐ。


『和田さんはなんでも飲める口かな?』


『は、はあ。かなり鍛えられました。』


大事な娘と孫娘を記事に仕立て上げた武司は恨まれても仕方がないが、思わぬ歓待に武司も律子もたじたじである。


『うちの奴にも聞いたと思うが、渚はこれから一人で強く生きていかなければならないので、あなたの記事くらいは簡単に乗り越えなきゃならないのです。だから逆に感謝しているんですよ。』


そんなものなのだろうか?


『幸いにも、美里ちゃんは渚の事を大変気にかけてくれている様ですし、この先もずっとお付き合い願えれば心強いと思っています。』


『しかし私は、渚ちゃんにも美里にも悲しみを背負わしてしまいました。妻にもそんな仕事は辞めてしまえと言われたばかりです。』


大人の事情で割り切れない部分もある。


『せっかくのキャリアだ。辞めるのは勿体ないが地元のフリーペーパーとか写真館の仕事くらいなら気負わずに出来るんじゃないですか?そういう仕事で良ければいつでも私が世話しますよ。給料はかなり低くなるが。』


『そうなっても、私も働くから。言い出したのは私ですからね。』


晃一の仕事斡旋話には律子の方が乗り気になった。


『分かりました。今すぐは難しいですが、前向きに検討致します。』


晃一は恐縮しながら答えた。


『時に和田さん。明後日は渚の誕生日なんだが、美里ちゃんを連れて一緒に新宿駅に来てみませんか?』


晃一が変えた話題は、渚が立つ新宿駅への誘いである。


『刑事さんたちも私たちも、もしかしたら渚の誕生日である明後日、梓が現れるのではないかと思っている。あなたはまだ週刊衆文の記者だ。あなたの書いた記事で他社にスクープを取られては面白くないだろう?もし、梓が現れたらあなたに撮ってもらい、記事を書いてもらいたいんだ。』


『そんな事が……。』


武司の気持ちは記者魂と美里の親の狭間で揺れた。


『梓がその場で逮捕されたとしても、渚にも美里ちゃんにもその目で焼き付けてほしい。それがこれからの2人の人生にきっと役に立つはずなんだ。和田さん、お願いだ。』


武司は晃一の必死の頼みに覚悟を決める。


『分かりました。』


『奥さんもご一緒にお願いします。』


『私はうちに残ります。』


律子の答えは晃一と違った。


『旦那の仕事場に女房が行く事は出来ません。それと……、せっかくの渚ちゃんの誕生日ですから、夜はうちに寄って下さい。今夜ご馳走になったお礼といってはなんですが、お詫びを兼ねて渚ちゃんのお祝いをさせて下さい。私はみんなが帰ってくるまで準備をしてお待ちしています。』


律子が渚の誕生日パーティーをしてくれるという発言に一番喜んだのは美里だ。


『渚ちゃん、うちで渚ちゃんのパーティーやるって!お祝いしよ!』


食事中、強張っていた渚の顔が少し緩んだ。

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