8.スキル
「《魔術火力強化》:《炎の絨毯》」
感心している場合ではありません。近づかれれば不利になるのは私の方。修道僧の戦い方なんて知りませんからね。
「《純魔力障壁》《三重》、《炎の壁》」
炎に包まれた相手の間合いまであと一歩と言うところで物理障壁を三重にして張り、飛び退るながら炎で壁を張ります。
「《炎の槍》《三重》、待機」
体中から煙を出しているゴブリンが《炎の壁》を突き破って現れた時に叫びます。
「一斉掃射!」
全ての《炎の槍》はゴブリンの胸に寸分違わず突き刺さりましたが、それでも突進をやめません。
「流石ですね」
「グギィァアア!」
ゴブリンが伸ばした拳を屈んで避け、短剣を持っていない左手を地面についてそれを軸にしながら回し蹴りを胴に叩き込みます。
足に痺れが走る中、胴に触れている右足に力を入れ、その反動で後方宙返り、体勢を立て直します。
「ハァッ!」
「ギィァ!」
私が短剣を突き出すと、その腕を軸にしてゴブリンの左手が旋回し、私の腕を極めます。
「痛ッ!」
即座に肘の関節を外し、右腕を引き抜きながら、至近距離で魔術を放ちます。
「《爆発》!」
爆風を諸に浴びて双方とも吹き飛び、再び一定の距離が生まれようとしますが、それを許してくれるような相手ではありません。右手の短剣を順手で握りなおし、腰の二本差しからもう一方の短剣を抜き取り、左手に逆手で構えます。
「グァァアアアア!」
砲弾のごとく飛び出してきたゴブリンを屈み込みながら半身になって避け、擦れ違い際に右手の短剣をゴブリンに突き刺します。
ゴブリン自身の速さと私の力で短剣は容易くゴブリンの腹に突き刺さりましたが、私の腕は跳ね飛ばされ、それに巻き込まれて私も大きく体勢を崩されます。
「《霧》」
辺り一帯を霧で覆い尽くしてゴブリンの視界を遮り、その隙に体勢を立て直します。
霧を晴らすのはこの魔術で。
「《風の爆発》、待機。《爆発》」
少し離れた場所に魔術を叩き込み、爆風で霧が晴れると、すぐにその場を離れます。
「爆発!」
背後に展開しておいた『風属性』魔術を爆発させて前方に体を押し出し、前に回って受け身を取ります。
先程までいた場所を振り返ると、丁度ゴブリンが背後からそこに向かって拳を振り抜いていたところでした。
上手くいきましたね。
「グギィ!」
ゴブリンが私を見つけて唸り声を上げます。
ふふふ。私の作戦勝ちです。では、次は私の番ですね。
「《炎の槍》《四重》、《火炎・弾》《二重》」
一息に魔術を放ってから、MP回復ポーションを飲み干します。
「《純魔力障壁》、《亡者の手》」
障壁を張ってからゴブリンに遅延効果を付与します。
揺らめく透明の障壁の向こう側で先程放った魔術が着弾する様子が見えます。
土煙で見えなくなり、やがて出てきたゴブリンは既に満身創痍と行っても良い状態でした。
これは、勝ちましたね。
「グガァア!」
ゴブリンが雄叫びを上げますが、弱い犬ほどよく吠えるもの。所詮は負け犬の遠吠えです。
「グゥガアッ!」
「なっ!?」
突然ゴブリンの巨体が赤く光り出したかと思えば、地を蹴って砲弾のように飛び出してきました。
「……諦めの悪い」
あの速度では障壁を突破されてしまいますね。
「《純魔力障壁》《四重》」
障壁を五重にし、MP回復ポーションを飲んでから魔術を連続して放ちます。
「《火の弾丸』》《四重》、一斉掃射」
火の弾丸がゴブリンを蜂の巣にすべく高速で射出されますが、体を覆っている赤い光がその威力を吸収します。
『火属性』吸収ですか。なら。
「《風の弾丸》《水の弾丸》《土の弾丸》、一斉掃射」
全ての属性の弾丸が飛んでいく中、ゴブリンは一枚目の障壁を貫き、二枚目を破り、三枚目に罅を入れ、漸く止まりました。
そこを弾丸が襲います。
「グギァ!」
「やはりですか」
ゴブリンの体表に全て弾かれます。
ゴブリンはそんなことを意に介せず、三枚目の障壁を殴り飛ばし、四枚目を蹴り割り、五枚目を体当たりで破ります。
「え?」
私は短剣をゴブリンの背中に突き立てましたが、短剣はゴブリンの体を滑り、傷一つ付けませんでした。
「……それはないでしょう」
全力で後方に飛びながら『呪術』を掛けます。
「『呪術:付与効果反転』」
本来ならば長ったらしい詠唱をして、それでもHP不足というような高位な呪術を詠唱破棄してさらにHPに負担を掛けているので、当然私の少ないHPで足りる筈がありません。
即座に暁のHP回復ポーションを飲み干します。効果時間は20秒。その間はずっとHPが100ずつ回復するものです。
「もう一回!」
右手の短剣をゴブリンの胸目掛けて投げつけます。
呪術は基本的に、外見変更などの特殊なものでなければ一見してわからないのが特徴なので、ゴブリンは自分の身に起きた異変に気付いている様子がありません。
「グギャッ!?」
短剣はゴブリンの胸に吸い込まれるように突き刺さりました。
左手の短剣を右手に持ち替えます。
突然の事態に動揺して立ち尽くしているゴブリンへ向かって飛び出し、短剣で頸を薙ぎます。胸に刺さったままの短剣を右足で蹴って押し、反動でバク転、ゴブリンの間合いの外まで出てから、魔術を放ちます。
「《魔術火力弱化:炎の絨毯》」
私の火炎耐性では《炎の絨毯》の本来の威力は防げないので、威力を殺して魔術を展開します。
「グギァ」
まだまだ行きますよ。
ゴブリンの胸板を横一文字に斬り、左足を軸に回転しながら右踵を叩き込みます。顔目掛けて短剣を突き出し、直前で右手を下げてそれを防ごうと顔の前に持ってきた腕の下にギリギリ隠れていない頸を突きます。引き抜かれた短剣に少量の血が付きます。あまり深くは刺せませんでしたか。
私の腹目掛けて飛んできた前蹴りは半身になって避け、ゴブリンの胸に刺さった短剣を右手の短剣の柄頭で押し込みます。
「グゥ」
左手でアッパーカットを繰り出し、上がった喉を右手の短剣で再度切り裂きます。
血が噴き出し、私の右手が赤く染まります。
「血は落とすのが大変なので、汚さないで欲しいのですがっ!」
左足を振り上げてゴブリンの胸に刺さった短剣を蹴り上げ、返す足で短剣を落とします。中央に空いた穴を起点に縦に切られた胸から血が噴き出し、私の顔を赤く染めます。この調子だと、おそらく服も染色されているでしょう。
「あなたは、どこまで私を汚せば気が済むのですか」
「グギッ!?グギャオギャオ!」
「問答無用っ!」
ゴブリンが抗議のような声を上げますが、ここで畳み掛けなければ勝機はないでしょう。
技量としてはあちらの方が上ですからね。今回は心理戦で優位に立てたので勝てそうです。
右手の中で剣を回転させ、逆手に持ちます。
「ハァッ!」
ゴブリンの頸へと短剣を叩き込み、気が付きます。
そういえば、これは殺し合いではありませんでしたね。
ギルドへ戻ると、優男さんがソワソワしながら待っていました。犬に『待て』を教え込む時は、このような気分なのでしょうか。
「おや、優男さん、上手く街へ帰れたようですね」
「き、君か。大丈夫だったか? かなり強そうに見えたが」
少し慌てた様子の彼に、思わずクスリと笑ってしまいます。
本当、何も知らないって幸せですね。すぐにこの街の中も安全とは言えなくなるのに。
「ええ、あのゴブリンとは話を付けてきたので大丈夫ですよ」
「は、話って、通じるのか?」
「普通は通じないはずなのですがね」
ゴブリンの方を殺しそうになった時はヒヤリとしましたが、手持ちのポーションと私の魔術、そして彼のスキルで事無きを得ました。その後は、数体ゴブリンを狩って終了にしました。
これが今のステータスです。
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名前:ケイデン・ベネット
性別:男(? )
種族:人間
年齢:16
レベル:1→2
カルマ値:3《中立》→-8
クラス:短剣使い
SP:0→1
ステータス欄
HP:130/130
MP:240/240
STR:113→121
AGI:580→584
DEF:507→514
MAG:436→440
ENT:258→259
HAN:26→28
スキル欄
『呪術Lv.13』『歩行Lv.24』『看破Lv.3』『鑑定Lv.10』『火属性魔術Lv.15』『水属性魔術Lv.14』『風属性魔術Lv.17』『土属性魔術Lv.14』『光属性魔術Lv.18』『闇属性魔術Lv.12』『剣術Lv.15』『体術Lv.15』『短剣術Lv.20』『不意打ちLv.19』『回避Lv.19』『跳躍Lv.18』『錬金術Lv.10』『氷雪魔術Lv.2』『雷電魔術Lv.2』『偽装Lv.2』『模倣Lv.1』
称号欄
男の娘:女の子のようにかわいらしい男の子。効果:女と間違えられる確率上昇《極大》、変声期が来ない。
神を恨むもの:一定期間神を恨むと取得。善に属するものと対峙した時、相手のカルマ値が高ければ高いほど、恐怖耐性上昇、魅了耐性上昇、混乱耐性、与ダメージ上昇、被ダメージ減少。
シュタイン辺境伯爵長子(妾):爵位継承権は持っているものの、妾腹のため、爵位は継承できない。有事の際には旗印として祭り上げられる可能性《極大》。
裏切り者:何で裏切ったの! 道を踏み外さないで!
速度の鬼:むちゃくちゃ速い
耐性欄
『状態異常耐性』『火炎耐性』『流水耐性』『疾風耐性』『土壌耐性』『氷雪耐性』『雷電耐性』
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レベルが一つ上がり、スキルポイントを一つ入手しましたが、もう何に使うかは決まっています。
《SP1を消費してスキル『言語学』を獲得しますか?》
……はい。
《SP1を消費してスキル『言語学』を獲得しました》
これのスキルレベルが上がることで、魔物や亜人などの知性のある敵対種族の言葉がわかるというのです。
本当はもっと欲しいスキルなどがあるのですが、これが今必要なスキルなので取得しておきました。
「優男さん、依頼は達成しておいたので、私はこれで」
「……その、優男さんって言うのはやめてくれないか」
「はぁ」
「僕の名前はリョウスケだ」
「そうですか。でも、これでもう会うことはないんですし、いいじゃないではありませんか」
「そんな悲しいこと言うなよ」
「ふふっ。冗談ですよ」
「なんだ、びっくりした」
あながち冗談ではないのですけどね。
「では、これより所用があるので」
そう言ってギルドの扉に手をかけると、優男さん改めリョウスケさんが心底不思議そうに聞いてきました。
「どこ行くんだ?」
「これからその用事を済ませてこようと思いまして」
「ここで落ちればいいじゃないか」
落ちる? 渡り人の言葉でしょうか。
おそらく彼は私が渡り人だと思っているはず。ならば、用事とは渡り人の世界の話と捉えられているはずです。ということは、『落ちる』とは、渡り人の方達の世界に帰る言葉でしょうか。
「その前に、さっきの戦いで武器を駄目にしてしまったので、買い換えようかと」
「ああ、そう言うことか」
真実の欠片もない真っ赤な嘘を信じた彼は、納得してくれました。
その『所用』も真っ赤な嘘なのですが。
……もう帰ります。