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第77話『試験本番』

 年も明けて、高校3年もついにラストの3学期となった。

 ただ、桜海高校の生徒は大学への進学希望が多く、受験シーズンでもあるので3年生の登校日は10日もない。なので、もちろん授業や期末試験は行なわれない。基本的に自宅学習と試験という日々を送ることに。



 1月19日と20日。

 僕らにとって最初の大きな試験であるセンター試験が行なわれた。第一志望の国公立大学の試験にはもちろんのこと、滑り止めで受験する私立大学にもセンター試験の結果によって合否が決まる入試形式があるので、僕にとってとても大切な試験だ。

 とても寒かったけど、2日とも体調も万全な状態で受験することができた。自己採点だけれど、メインである理系の教科と英語はどれも満点に近く、国語と地理と日本史も9割以上正解していたのでまずまずかな。

 羽村はもちろん受験した全教科満点らしく、明日香と常盤さんは8割から9割前後、咲希は教科によってばらつきがあるものの、一番低かった数学でも7割は取れているらしい。

 そんな結果だったこともあって、僕と羽村はセンター利用試験受験した滑り止めの私立大学は全て合格し、明日香、咲希、常盤さんもいくつか合格することができた。これでひとまずは安心かな。



 その後も受験勉強と、入試を受ける日々を送っていく。だからなのか、あっという間に平成最後の冬が過ぎ去っていった。



 3月4日、火曜日。

 僕の第一志望である東都科学大学、明日香と常盤さんの第一志望の日本芸術大学、羽村の第一志望の東京国立大学の試験日は明日。僕らはそれぞれの大学の近くにあるホテルに、受験生応援プランを利用して4人一緒に東京へやってきた。明日は1日中入試ということもあって、2泊3日の東京の滞在となる。

 東京国立大学は23区内、東都科学大学と日本芸術大学は郊外の武蔵原市にあるため、羽村とは途中で別れ、僕ら3人で同じホテルに泊まることになった。ちなみに、部屋は3人隣同士だ。


「さすがは東京のホテルだね。シングルでも豪華な感じがするよ」

「そうだね、明日香。23区も凄いけど、このくらいの郊外の方が桜海市出身の人間にとっては気持ちが落ち着くよね」

「うんうん。ただ、郊外といっても、お家はたくさんあるし、駅の周りには高いビルがたくさんあるし、さすがは東京だよね」


 第一志望の大学の試験が翌日に控えているというのに、ホテルに到着して間もなく明日香と常盤さんが僕の部屋に遊びに来た。今、2人は温かい緑茶を飲みながら談笑している。


「2人とも……のんびりとしているね」

「桜海から東京まで3時間近くかかったし、東京は人が多いから疲れちゃって」

「前日に来て良かったよね。前日だし、疲れがあるときはゆっくりとしてリラックスするのが一番だと思うよ、蓮見君」

「……まあ、疲れが溜まって体調を崩したら元も子もないか。僕も温かいコーヒーを飲んでゆっくりとしようかな」


 僕も羽村と一緒に、イベントで東京には何度も来たことはあるけど、さすがに疲れはある。今日は軽く勉強するだけにして早めに寝るか。

 ホテルの備品として置かれているインスタントコーヒーを淹れ、僕はドレッサーの椅子に座る。こうしてくつろぐと明日香の言うように、シングルの部屋なのに結構広く思えてくる。


「……うん、美味しい」


 ホテルのコーヒーだからか、普段、家で飲むコーヒーよりも美味しく感じる。


「ここまであっという間だったね、つーちゃん、みなみん」

「そうだね。でも、まだ受験が終わっていないからか、もう春になって、あと1ヶ月もしないうちに新年度になることが信じられないよ」

「蓮見君の言うことも分かるなぁ。みんな、滑り止めの大学はいくつか受かっているけど、本命の大学の試験はまだだもんね。そういえば、咲希の桜海大学の試験も明日だよね」

「そうだよ。みんな……明日が勝負だね」


 桜海駅を出発するとき、咲希とはエールを送り合った。そのときの咲希の表情はとても勇ましかった。水泳の大会に挑むときも同じような顔をしていたのかな。

 みんな、模試では第一志望の合格判定はA……80%以上の確率で合格すると判定されている。ただ、その結果を受けても油断せずに、明日の試験に挑みたい。


「もし、明日香と蓮見君が合格したら、この街で同棲するわけだ」

「……そうなるね。頑張らないといけないね!」

「そうね。あたしも明日香と一緒にキャンパスライフを送れるように、明日は頑張ろうね」


 やる気スイッチが入ったのか、明日香は最近の中では一番の煌びやかな笑みを浮かべている。

 僕も明日香も東京にある私立の大学にも合格したけれど、お互いに第一志望の大学に合格した上で明日香と一緒に暮らし始めたい。


「僕らは違うところに受験するけど、明日は5人みんなで受験しよう。5人みんなで合格しよう」

「そうだね、つーちゃん」

「蓮見君の言う通りだね。みんなで合格して、高校を卒業しましょう」


 僕は常盤さんと握り締めた右手をコツンと当てて、明日香には熱いキスを交わした。


「絶対に合格して一緒に暮らそう、明日香」

「うん! ……さすがはつーちゃん。たくさん元気もらっちゃった」

「良かったね、明日香。目の前でキスを見せつけられて、あたしはドキドキしたけどね」

「……私もドキドキしてる」


 そう言って笑い合っている明日香と常盤さんはとても可愛らしい。2人とも同じ大学でキャンパスライフを送ることができるといいな。

 僕も明日香にたくさん元気をもらった。明日は……頑張らないと。

 その後、3人でホテルの近くの定食屋さんで夕食を食べて、明日の試験のために今夜は早めに眠るのであった。



 3月5日、火曜日。

 試験当日は青空が広がっていた。

 そのことで爽やかな気分になった僕らは、キャンパスの方向が違うのでホテルのエントランス前で明日香や常盤さんと別れた。

 去年の夏までの僕のままだったら、こうして1人で受験会場に向かうのは不安だっただろう。

 ただ、今は違う。絶対に合格して、この大学で充実したキャンパスライフを送ろうと前向きに強く思えるようになった。それも明日香や咲希達のおかげでもあるけれど。



 そんな気持ちを抱いて、僕は第一志望である東都科学大学理学部情報科学科の試験を受けることに。

 今まで積み上げてきたものを全て使って。試験科目全ての問題に挑んだ。

 試験は非常に手応えがあって、全く分からないという問題は一つもなかった。

 きっと合格できる。4月からは大学生になり、このキャンパスに通うことになるだろう。そう思いながら、試験会場を後にしてホテルに戻った。

 先にホテルに戻っていた明日香や常盤さんはちゃんとできたのか、満足そうな表情を浮かべていた。咲希や羽村からも『バッチリだ』というメッセージをもらって。後は結果を待つだけか。きっと大丈夫だ。そう信じよう。

 その日の夜は、明日香が僕の部屋にやってきて、一緒に眠るのであった。



 それから数日が経ち、大学のホームページで試験結果を確認することに。受験番号とパスワードを入力して結果を確認すると、


『合格』


 僕の名前と一緒に、僕が見たかったその2文字がしっかりと表示されていた。ただ、見間違いかもしれないと思って母親に確認してもらうと、嬉しそうな表情で抱きしめられたので本当に合格できたのだと分かった。

 第一志望の大学に合格したことをメッセージで伝えると、明日香や咲希、常盤さん、羽村はもちろんのこと、先生や鈴音さん、三宅さん、芽依、凛さんなどから続々と祝福のメッセージが届いてきた。

 明日香、咲希、常盤さん、羽村……みんな、第一志望の大学に合格した。そのことに安心し、とても嬉しく思った。僕らは4月からそれぞれの場所に行くんだ。


 僕らの受験が最高の形で終わったとき、桜海市には温かな春の空気がやってくるようになっていたのであった。

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