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第76話『秋疾風』

 2学期になると、体育以外の授業は受験に向けた内容となっていった。

 理系学部を第一志望に決めた僕は、文系科目と英語は学校の授業を中心に、理系科目については通信教育の教材を中心として対策を取る形に決めた。また、松雪先生のおかげで、数学や物理、化学の先生からたまに受験対策のプリントをいただいた。本当に有り難い限りである。

 定期的に模試を受けて、自分の位置がどのくらいのところにあるのかを確認するようにした。

 最初こそは、合格率が20%以下であるE判定という最低の判定が出てしまった。けれど、少しずつ上がってきて、やがてA判定を安定して取れるようになった。そのことに安心してきたけれど、油断してはいけない。

 羽村は生徒会の仕事がありながらも順調に進んでおり、咲希も最初は不調だったけども、冬に近づくにつれてようやく合格ラインに届いてきたそうだ。美術大学志望の明日香と常盤さんも2人で協力しながら受験対策をしているとのこと。



 そんな受験勉強が中心の生活なので、一昨年や去年よりも時間の流れが速く感じた。暑かった気候もいつしか涼しくなり、寒いと思えるようにもなった。平成最後の秋はあっという間に過ぎ去った。

 ただ、そんな秋も盛りだくさんであり、文化祭や体育祭という学校のイベントや、咲希の誕生日については勉強のリフレッシュも兼ねてしっかりと楽しんだ。

 あと、11月の初め頃には生徒会選挙が行なわれ、会長選挙では三宅さんが当選し、見事に新しい生徒会長となった。これによって羽村は新生徒会役員に仕事の引き継ぎを行ない、生徒会を引退した。



 冬になるといよいよ受験の季節がやってきたと感じるけど、年内は明日香の誕生日やクリスマスがあって。

 あと、明日香と常盤さんが出品した『あなたの好きな風景コンテスト』で、常盤さんの描いた別荘からの風景の絵が優秀賞、明日香の描いた僕の絵が審査員賞、桜海川の絵が佳作を受賞した。クリスマスパーティーではそれらのお祝いもした。



 大晦日には明日香や咲希、芽依、鈴音さんと一緒に紅白などの年末特番を見ながらまったりと過ごし、2018年は静かに終わったのであった。



 1月1日、火曜日。

 今日から2019年がスタートする。個人的には大学受験がある。世間的には遅くとも4月末には平成という時代が終わり、新しい時代が始まる。重要な転換期と言える1年となりそうだ。

 今日の桜海市は朝からよく晴れている。雨や雪が降る心配は全くないとのこと。幸先のいいスタートになりそうかな。

 今日は午後に明日香や咲希達と一緒に、近所の桜海神社に初詣に行く予定だ。一昨年や去年は僕、明日香、常盤さん、羽村、芽依の5人で行っていたけれど、今年は咲希、三宅さん、鈴音さん、松雪先生、凛さんの10人で行くことに。

 今年はしっかりと神様にお願いをしないと。あと、毎年恒例のおみくじ……去年の夏山神社に続いての凶は避けたいところ。

 それまでは明日香や咲希と3人で僕の部屋で受験勉強をすることに。


「ううっ、新年早々勉強だなんて……」

「受験生だからね。少しでもいいから毎日勉強する方がいいと思うよ、さっちゃん。それに午後にはみんなで桜海神社に初詣に行くんだし」

「……そうだね。昨日は夕方くらいから、みんなでお喋りしたり、紅白見たり、年越しそばを食べたりしていたもんね。それに、午後はみんなでお出かけだから、せめてお昼までは勉強頑張りますか」

「うん! その意気だよ! 初詣の期間は神社にはいくつか屋台も出店されているし。毎年、甘酒を呑むのが恒例なんだよね、つーちゃん」

「そうだね。お参りして、おみくじ買って、その後に甘酒って流れでね。咲希って甘酒は大丈夫?」

「うん、好きだよ! 寒い日に飲むと美味しいよね。私も初詣のときに何度か買ったことはあるよ」

「じゃあ、今年もその流れにしようか」


 それで、咲希は甘酒以外の屋台でもたくさん買いそうだ。たこ焼きやチョコバナナ、鯛焼きなどもあるし。

 午後に初詣という予定もあるからか、3人での受験勉強はとても捗った。そのおかげもあってか、あっという間にお昼となり、昼食のために一旦別れた。

 それから小一時間ほど経ってから、初詣のために僕の家の前に集まった。これから羽村達と会うために、待ち合わせ場所である桜海駅へと向かい始める。


「そういえば、美波達が待っている桜海駅にこうして4人で行くのって、あの花火大会のとき以来かな?」

「多分、そうだね。お兄ちゃんが明日香ちゃんに告白したあの日以来だね」

「そう言われると何だか照れちゃうな。あの日からもう4ヶ月半も経つんだ。つーちゃんとは幼稚園からずっと一緒だから、もっと前から付き合っているみたいだよ」

「ふふっ、幼なじみならではの言葉だね。2人の仲が順調そうで何よりだよ」

「おかげさまで、つーちゃんと仲良くやってます」


 そう言うと、それまでは手を繋いでいた手を離し、そっと腕を絡ませてきた。晴れているけれど寒いので、このくらいくっついてくれると心地よいな。

 明日香の温もりに嬉しさや愛おしさなどを感じながら歩いて行くと、いつの間にか桜海駅が見え始めていた。


「あっ、みなみん達がいるよ」

「本当だ」


 待ち合わせは午後2時で、ちょっと早いかなとは思っていたけれど、桜海駅には既に常盤さん達がいた。花火大会のときとは違って人もまばらなので見つけやすい。和風のメイド服姿の月影さんがいるので余計に。向こうも気付いたのか、僕らの方に向かって手を振ってきた。

 6人の顔がはっきりと見えたところまで近づいたとき、彼らは僕らの方に向かって一列で並んでいることが分かった。


「羽村、あけましておめでとう。……どうしたんだ、みんなで横一列に並んで」

「ふふっ……それはだな。じゃあ、蓮見達が来たので、さっき常盤が言ったように……せーの!」


『新年明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!』


「ビックリした! こちらこそよろしくー!」

「よろしくお願いします!」


 羽村達からの新年の挨拶に、咲希と芽依が楽しそうに返事をしていた。

 咲希と同じようにビックリしたけど、みんなで一緒に元気よく言うとまるで小さい子が挨拶してくれているような気がして、ほっこりとした気分に。あと、羽村か先生が発案者かと思ったら常盤さんが思いついたことだったんだ。


「私もビックリしちゃった。みんな、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 明日香と僕が言ったことで、全員が新年の挨拶を言ったことになる。だからなのか、みんなその場で頭を下げていた。僕もそれに連れられて頭を下げる。お正月じゃなければ、何をやっているのだろうかとじっと見られそうだな。


「みんな、思ったよりも早く付いたから、新年一発目に何か蓮見達に面白いことでもしようと思ったんだ」

「それで、みんな横一列に並んで、蓮見君達が来たら、一斉に新年の挨拶を元気に言ったらビックリさせることができそうだって提案したの」

「新年っぽくて良かったよね、陽乃ちゃん」

「ええ、楽しかったですね!」

「私も楽しかったですよ。ただ、美波様のご提案ですから、全力で協力しなければと思いました」

「確かに、大人になってからあんな感じで挨拶することってあまりないですからね。言い方が小学生っぽかったですけど」


 何だかんだでみんな楽しんでいるな。彼らのことを見ていると、今年はいい1年になりそうな気がしてくるよ。

 僕らは桜海神社へ向かい始める。


「2018年もあっという間に終わったな、蓮見」

「ああ。去年は特に色々とあったからね。楽しい1年だったよ」

「そうだな。特に忘れられない1年になったな。そういえば、昨日は朝霧や有村達と一緒に過ごしたんだったか?」

「うん。僕の部屋で、5人で紅白を観たり、年越しそばを食べたりしたよ。羽村は確か……三宅さんの家で年を越したんだっけ?」

「ああ、将来の妻の実家で年越しさせてもらったぞ。楽しかったな、陽乃」

「……そうですね。2018年は終わる瞬間まで本当に楽しかったです……」


 三宅さんは笑顔を見せてくれているけど、とても顔を赤くなっている。いったい、2人はどんな風に年を越したんだか。


「そっか、私、将来の旦那さんのご実家で、年を越させてもらったんだ……」


 明日香も頬を赤くしてニヤニヤしている。年越しの瞬間はいつも、どちらかの家で一緒に過ごしていたけれど、今回の年越しは恋人になってから初めてだもんな。


「みんな楽しそうだったのね。あたしも、お酒で酔っ払った凛さんと里奈先生を相手するのは楽しかったなぁ。2人ともあたしに甘えてベッタリしてきてさ」

「それは……ご苦労様でした、みなみん」

「いやいや、2人とも可愛かったから全然苦じゃなかったよ」


 そのときのことを思い出しているのか、常盤さんはとても楽しそうな笑みを浮かべている。

 松雪先生……夏の旅行をきっかけに月影さんと仲良くなったけれど、一緒に年を越したのか。同年代のいい呑み仲間になったのかな。

 やがて、僕らは桜海神社に到着する。さすがに元日の昼過ぎということもあって、老若男女のたくさんの参拝客が。若い女性だと着物を来ている人もいるな。長い参拝客の列に並ぶことに。


「いやぁ、いいですなぁ。巫女さん。陽乃に似合わないと思わないか?」

「似合いそうな……気がするね」

「巫女さん姿の淑女達が、どこか人気のないところで、声を必死に押さえながらも絡み合っているかもしれないって考えると……胸が躍ってくる」


 えへへっ、と羽村は笑う。試験が目前に迫っているのに今年もブレないな、この男は。

 御守売り場やおみくじ売り場などに、アルバイトなのか巫女服姿の女性が何人もいる。彼女達がみんな黒髪ということもあって、特に明日香や芽依、三宅さんは似合いそうな気がするな。

 巫女服姿の女性がいると、和風であるけれどメイド服姿の月影さんが気になってしまう。彼女の見る参拝客もちらほらいるし。それだけならまだしも、間違えられて何か手伝わせられそうな気がしてならない。


「どうかしましたか、蓮見様」

「えっと、その……気を付けてくださいね。スタッフさんと間違われないように」

「ふふっ、ありがとうございます」


 そう言って笑う姿は女子大生のようにしか見えなかった。

 陽差しがあるので並んでいると、温かさを通り越して熱く思えてくるほどに。穏やかに吹く風が気持ち良く感じる。


「今年はしっかりと拝まないといけないね、つーちゃん」

「そうだね。僕らにとって大事な一年になるからね」


 明日香の場合、受験よりも僕と一緒にいられることの方を第一にお願いしそうだ。

 ようやく僕らの順番となった。末広がりにご縁がありますように、という縁起を信じ、お賽銭箱に5円玉を8枚入れる。


「3年生がみんな第一志望の大学に合格しますように。明日香と一緒に生活できるようになりますように。あと、健康に過ごすことができますように」


 願い事を呟いて僕は拝殿を後にした。すると、御守売り場の近くには明日香や常盤さんの姿があった。


「つーちゃん、どんなことをお願いした?」

「みんなの受験合格と、健康でいることと、明日香と一緒にいられることだよ」

「……私と同じだ」


 明日香はとても嬉しそうな笑みを僕に見せてくれる。これが2人きりの場所だったら迷いなくキスしていたところだ。お願いしたけれど、全ては僕らの頑張り次第。叶えられるように頑張ろう。

 みんなの参拝が終わると、僕らはおみくじを引くことに。その結果、明日香と同じで大吉だった。さすがに、去年の夏の僕のように凶を引く人はおらず。

 おみくじの後は恒例の甘酒タイム。この独特の甘さがたまらない。明日香はもちろんのこと、咲希も美味しそうに呑んでいた。そんな咲希はやっぱり、たこ焼きやチョコバナナなどの屋台を回り始めていて。食べ物系は10軒もないのでコンプリートしそうな勢いだ。

 2019年はいい1年だったと思えるように、今年も頑張っていこう。いや、今年はより一層頑張っていこう。明日香の手を強く握りながらそう思うのであった。

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