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第59話『最後の夜』

 花火が終わり、僕は羽村や月影さんと一緒に後片付けをした。その後は男子が入浴していい時間になるまで自分の部屋で、テレビを点けながらベッドの上でぼうっとしていた。

 男子の入浴時間となったので大浴場に向かうと、そこには既に服を脱いで浴室に入ろうとする羽村がいた。


「おっ、蓮見じゃないか」

「羽村か。そういえば、一緒に風呂に入るのはこれが初めてだったな」

「ああ。一昨日は1人で入って、昨日は……夜遅くに陽乃と2人きりで入った」

「……幸せそうで何よりだよ」


 三宅さんに髪や体を洗ってもらったり、湯船でも体が触れるくらいに隣り合って浸かっていたりしそうな気がする。

 僕は服を脱いで羽村と一緒に浴室へと入る。女子の後だからか、シャンプーやボディーソープの匂いがしっかりと感じられる。心なしか、凄く甘い感じがして。

 洗い場の椅子に羽村と隣り合って座り、さっそく髪を洗い始める。


「花火楽しかったな、蓮見」

「ああ。毎年やっているけど、たくさん人がいたからか今年が一番楽しかったな」


 一昨年も去年も浜辺で花火をやったけど、5人と10人では盛り上がり方が違った気がする。特に最後にやった打上花火は。


「羽村も絶対に今年が一番楽しかったよね。三宅さんがいたから」

「ははっ、ご名答だ。一昨年も去年も楽しかったけれど、今年はそれ以上に楽しかったな。陽乃との仲を深めて、思い出を作るという目標……達成できそうな気がする。もちろん、旅行の後も引き続き追究していきたいが」

「ははっ、そっか。今日も三宅さんと一緒に寝るのか」

「ああ。一昨日、昨日と俺の部屋だったから、今日は陽乃の部屋で寝るつもりだ」


 ということは、昨日の夜に何度か聞いた女性の甘い声っていうのは……あまり深く考えてはいけないな。


「そうか。楽しい夜になるといいな。……今年の旅行は色々なことがあったけど、いつも仲良くしている羽村と三宅さんを見ると安心できたよ」

「そうか。陽乃が聞いたら嬉しがりそうだ。朝霧と常盤の喧嘩を知ったときも、なるべく普段通りに旅行の時間を過ごそうと思っていたからな。こんなにも早く2人が仲直りできて良かった」

「そうだね。でも、明日香と常盤さんは1年のときから仲がいいからね。僕のことが発端で喧嘩しちゃったけど、2人なら絶対に仲直りできると思っていたよ」


 常盤さんは分からないけれど、明日香は時間が解決してくれればいいとも考えていた。明日香は僕のおかげで今日中に仲直りできたと言っていたけど、僕が協力せずとも2人なら仲直りできたんじゃないかと思う。


「蓮見が2人の話を聞いたり、手助けをしたりしなければここまで早く仲直りして、しかも今まで以上に仲良くはならなかったんじゃないか。俺はそう思っているぞ」

「……そうなのかな」


 励ましてくれているのかな、羽村は。

 でも、明日香と常盤さんの喧嘩がなければ、2人の気持ちを深く知ることはできなかっただろうし、何よりも僕が明日香と咲希の告白に対して、何歩も踏み込んで考えられなかったと思う。起きてしまったことはしょうがない。前向きに捉えよう。

 そんなことを考えながら髪と体を洗い、湯船に浸かろうとしたとき、


「あれ、羽村。背中は大丈夫か?」

「えっ?」

「左右の肩甲骨のところに、いくつかひっかき傷みたいなものがあるけれど」


 羽村の背中ある最近できたと思われる傷がいくつもある。そこまで深そうでもないし、痛がるような声を挙げていなかったから大丈夫だとは思うけど。


「そんな傷が付いていたのか。海に入ったときや、さっき体を洗っても全然痛みは感じなかったから気付かなかったよ。まあ、大丈夫だろう。そこら辺に傷が付きそうな原因に心当たりがあるが……気を付けるよ。ありがとう、蓮見」

「いえいえ」


 僕は羽村の隣で湯船に浸かる。


「あぁ、気持ちいいなぁ」

「そうだね。広い風呂はいいね」

「ああ。それに、この大浴場に蓮見と一緒に入らないと、どうも旅行に来たって感じがしなかったからな。今年も一緒に入ることができて良かった」

「ははっ、確かに毎年入っているから、一緒に入らないとどこか物足りない旅行になったかもしれないな」

「ああ。男同士だし、松雪先生が言っていた裸の付き合いってやつも必要だよな。まあ……来年以降、蓮見達と旅行に行くのも難しくなりそうだから、旅行最後の夜にこうして一緒の時間を過ごせて良かったよ」

「……ああ」


 咲希は桜海大学を目指し、羽村と明日香、常盤さんは東京にある大学を目指しているんだもんな。今回の9人……いや、10人でまた旅行に行くことは難しそうだ。


「そういえば、蓮見。あの告白以降はどうだ?」

「……何か、答えが見えそうな気がするよ」


 昨日の夜から色々なことがあったので、明日香と咲希のことについても気持ちの整理が結構できた気がする。


「そうか、それなら良かった。納得できる決断ができるといいな。相談したいことがもしあったら、遠慮なく相談してくれ」

「……ああ、ありがとう。残り1日あるけど、今年も旅行に来て良かったよ」

「そうだな。勉強もできたし去年の俺達に言ってやりたいな。絶対に行くべきだって」

「そうかもね。でも、それを言ったら何かあるんじゃないかと思って行かなそう」

「ははっ、あり得そうだ。行ったとしても、何が待ち受けているんだってずっと警戒しながら過ごす羽目になるか。何が起こるか分からないからこそ、旅は面白いのかもな」


 今年は明日香と常盤さんが喧嘩しちゃったけど、仲直りもできたしより思い出深いものになったということでよしとしよう。

 その後も旅行中の三宅さんとの惚気話を聞かされながら、羽村と一緒に湯船に浸かるのであった。



 いつもよりも長く湯船に浸かったので、自分の部屋に戻るとベッドに直行し、仰向けになってゆっくりとすることに。


「あぁ、気持ちいい……」


 涼しい部屋にふかふかのベッド。今の僕にとっては最高の環境だ。もう11時近くになっているし、歯を磨いてさっさと寝ちゃおうかな。

 ――コンコン。

 うん? 誰だろう?


「はーい」


 ゆっくりと扉を開けると、そこには枕とスマートフォンを持った寝間着姿の明日香と咲希が立っていた。


「明日香、咲希、いらっしゃい」

「こんばんは、つーちゃん」

「旅行最後の夜だから3人で寝ようって話になってさ。翼、いいかな?」

「うん、いいよ。僕、歯を磨いてくるから2人は適当にくつろいでて」

「分かったよ、つーちゃん。お邪魔します」

「お邪魔しまーす」


 明日香と咲希を招き入れて、僕は洗面所に行って歯を磨くことに。

 そういえば、朝寝をしたときの夢では、制服姿の明日香と咲希にベッドに押し倒されて、色々なことをされそうになったな。あれが正夢になることは……あるのかなぁ。個人的にはベッタリとくっついてもいいので、3人でぐっすりと眠りたいものだ。2人が来てくれて嬉しいし。

 歯を磨き終わって部屋に戻ると既に電灯が消えていた。そして、


「つーちゃん、おかえり」

「ほらほら、こっちおいでよ」


 明日香と咲希はベッドの上で寝そべりながらそう言ってきた。咲希は僕のことを手招きしているし。何もないとは思うけど、今の2人を見たらドキドキしてきた。ベッドの側にあるライトがそうさせているのかな。

 ベッドの中に入り、明日香と咲希に挟まれる形に。仰向けになって横になると、すぐに2人が僕の腕を抱きしめてくる。ちなみに、左が明日香で右が咲希。柔らかさの違いはあるけれど、温もりと甘い匂いはさほど変わらない。本当に心地よい。安心できる。2人とも可愛らしい笑みを浮かべて僕のことを見てきている。


「翼と一緒に眠るのって初めてだからドキドキするよ」


 僕のことを抱きしめながら寝たことはあったけど。


「そうだね。しかも、明日香と同じベッドで3人で眠るのも初めてだ」

「ベッドが広いのは知っているから、この旅行が決まったときからずっと、つーちゃんとさっちゃんと3人で寝たいなって思っていたんだ。だから、凄く嬉しい」

「夢が叶って良かったね、明日香。あたしも凄く嬉しいよ」


 明日香と咲希はさっきよりも更に可愛らしい笑みになっていく。昼前に2人のことが大好きだと告白したこともあってか、凄くドキドキしてきたぞ。


「あたし、桜海に帰ってきてから翼と一緒に眠るのが初めてだからかドキドキしてきちゃったよ」

「そ、そっか。初めてだと緊張するよね」

「私はつーちゃんと何度も寝たことあるけどドキドキしているよ」

「そうなの? 明日香はすぐに眠ることが多い気がするけど」

「それはつーちゃんのお部屋のベッドだからだよ。今は旅先で、さっちゃんと3人だからさ。……そう考えると、私もさっちゃんと同じか」


 小さい頃に一緒に眠ったことはあったけど、あのときは芽依や明日香のお兄さんも一緒だったからな。こうして3人だけで眠るのは初めてかも。


「ねえ、翼。寝る前におやすみの……キスしてもいい?」

「……いいよ」

「じゃあ、さっちゃんの後に私もおやすみのキスしたい」

「うん、いいよ」


 咲希、明日香の順番でおやすみのキスをしてきた。そのせいか、何だかさっきよりもドキドキしてしまって眠れる自信がない。


「ヤバい、翼とキスしたらかなりドキドキしちゃって眠れる自信がない」

「さっちゃんも?」

「……僕だって同じだよ」


 明日香も咲希も同じだったか。そういえば、両腕から伝わってくる2人の心臓の鼓動が凄いな。


「あははっ! 2人も同じなんだ」


 急に咲希が声を挙げて笑い始めた。なので、咲希の顔を見てみると楽しげな笑みを浮かべる。


「ここまで気持ちが重なっていると逆に面白いよ。そう思うと、緊張が解けてきた」

「ふふっ、確かに。3人でベッドに横になって、つーちゃんにキスしたらドキドキするのは当たり前かもしれないけれど、何か面白いね」


 咲希と同じように明日香も普段の落ち着いた優しい笑みを浮かべるように。ドキドキもそうだけれど、笑いも伝染するのかな。

 ただ、いつもの2人の笑顔を見ていると、僕も自然と落ち着いてきたな。


「じゃあ、寝るか」

「うん。今夜はいい夢が見られそうだよ」

「あたしも。あっ、あたしは明日も早朝ランニングするから、先に起きるね」


 てっきり、僕と明日香が一緒だから明日くらいはゆっくりと起きるかと思ったけど。この町を走るのは気持ちいいと言っていたし、最後に走りたいのだろう。


「分かった。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい、つーちゃん、さっちゃん」

「おやすみー」


 そ明日香がベッドライトを消すと、程なくして明日香と咲希の寝息が聞こえてきた。今日も色々なことがあったから2人とも疲れが溜まっていたんだな。


「……おやすみ」


 明日香と咲希のおかげで、初めてベッドで長い時間眠ることができそうだ。2人の温もりや匂いを感じながら僕も眠りにつくのであった。

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