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第48話『海と星空と彼女-前編-』

 ちょっとした観光気分も味わえたので、洞穴から出て僕らは別荘へと戻った。そのときは午後3時半過ぎになっていた。

 すると、別荘の1階にはカレーのいい匂いが広がっていた。今から夕ご飯が楽しみになってきた。

 誰もいなかったのでビーチに向かうと、そこには水着姿になって海で遊ぶ羽村、芽依、三宅さん、鈴音さんと、そんな4人の方を見てスケッチしている常盤さんの姿があった。みんな、僕らに気付くと大きな声で『おかえりー!』と手を振ってくれた。


「ただいま、みなみん」

「おかえり。随分と長い散歩だったけれどどこかに行ったの?」

「うん。夏山神社と洞穴に行ってきたよ」

「今年も行ってきたんだね。咲希、先生、洞穴は寒かったでしょう?」

「かなり寒く感じたよ!」

「寒かったね、咲希ちゃん。そういった場所だからか、観光客もたくさんいたよ」

「あそこは夏山町の人気スポットの1つですからね」


 今までの中では今日が一番多かったかもしれない。夏休み中の日曜日であり、しかもお盆の時期だからかもしれない。


「先生は、落ちてきた水滴に驚いて翼にしがみつきましたよね」

「本当ですか? 明日香や咲希にとって新たな強敵登場じゃない?」

「先生は先生だったよ! つーちゃんと仲睦まじく手を繋いでいる感じだったけど……」

「なるほどねぇ。昨日の夜は蓮見君の部屋で寝たそうですし、先生って何だかんだ蓮見君のことが好きそうじゃないですか」

「私は教師だし、蓮見君のことは3年連続で面倒見ている可愛い生徒としか思っていないよ。それに、手を繋いだのは蓮見君からのご厚意あってのことだし」

「へぇ……」


 常盤さん、先生のことを見ながらニヤニヤしている。絶対に何か変なことを考えているな。

 洞穴で落ちてきた水滴を怖がっていたときや、僕と手を繋ぐときの先生は可愛らしかったな。


「そういえば、みなみんは何をしているの? 4人の方を見ていたけれど」

「デジカメで写真を撮って模写していたんだ。楽しんでいるみんなを見ていれば上手に描けそうな気がして。特に鈴音さん」

「な、なるほどね。楽しそうな気持ちが絵にも現れるかもしれないもんね」


 目の前に立たせてデッサンしようとは思わなかったのかな。ただ、それだと遊ぶ時間を割いてもらうことになるから、写真を撮って模写する形にしたのかな。鈴音さんは可愛らしい人だし、創作意欲を掻き立てられたのかもしれない。


「明日香達はどうするの? 勉強する? それとも、みんなと遊ぶ?」

「僕は……勉強しようかな」

「私も旅行に来てからあまり勉強できていないから勉強するよ」

「あたしは……遊ぶ! 午前中は頑張って勉強したんだし!」

「ふふっ、それもいいと思うよ、咲希ちゃん。私は水着に着替えて、昨日と同じようにサマーベッドでのんびりしようかな。気分次第では咲希ちゃん達と遊ぶかも」

「じゃあ、勉強するのは僕と明日香だけになるのか」

「そうだね。今はそんなに暑くないから、みんなの様子も見られるようにコテージで勉強しようか」

「おっ、いいね。じゃあ、そうしよっか」


 僕は明日香と一緒にコテージで勉強することに。外に出て潮風を感じながら勉強するのも悪くないな。たまに明日香の分からないところを教えたりもしたので、結構充実した時間となった。



 夕ご飯は芽依、三宅さん、鈴音さんが作ってくれたチキンカレー。3人で作ったこともあってか、家のカレーとはちょっと違ったけど安心感もあって。もちろん、とても美味しいので満足だ。

 たくさん作ったということで、僕と羽村は1回おかわりした。ただ、ここで咲希の大食いぶりが発揮。彼女だけは3回おかわりして、明日香と芽依以外の人を驚かせていた。また、これだけ食べてもお腹は壊さないし太らないと言うと、明日香、常盤さん、松雪先生に羨ましがられていた。

 今日もお風呂は女性達が先に入ることになったので、僕は夕飯の後片付けをしたらすぐに自分の部屋に戻り、受験勉強をすることにした。

 昨日とは違って、酔っ払った松雪先生が部屋に乱入することもなく、勉強はかなり捗った。気付いたら、男性が入ってもいい時刻から30分以上も経っていた。

 勉強を終わらせて大浴場に行くと、今日も羽村はいなかった。男性の入浴時間になってから大分経っているからかな。もしかしたら、羽村は真夜中に三宅さんと一緒に入浴しているかもしれないけど。

 ゆっくりと入るのも好きなので、1人もいいけど……今朝、明日香や咲希、常盤さんと一緒に入浴したこともあってか寂しくも思えた。

 お風呂から出て、自分の部屋のある2階へ上がろうとしたとき、


「外で話すの? みなみん」

「うん。せっかくこの別荘に来たんだし。それに、雲も取れて星空も綺麗だから」


 リビングの方から明日香と常盤さんの声が聞こえてきたのでそっちを見てみると、寝間着姿の2人がリビングからコテージの方に出て行くのが見えた。普段だったらあまり気にならないけれど、常盤さんの目が真剣そうだったので、明日香と何を話すのか気になって仕方ない。

 僕は2人に気付かれないように外に出て、2人の後を追うことにした。

 雲は取れたけれど、夜だからかそんなに暑くないな。風が吹くと午後よりも涼しく感じるほどだ。常盤さんの言うとおり綺麗な星空だ。


「……って、見とれている場合じゃない」


 明日香と常盤さんのことを追いかけているんだった。2人はコテージを降りて、プライベートビーチの方へ向かっている。


「うわあっ、綺麗な夜空だね、みなみん。桜海よりもよく見えるよ」

「周りにある建物がうちの別荘以外にはあまりしかないからね。冬だともっと綺麗に見えるときがあるんだよ」

「へえ、そうなんだね!」


 2人はそんなことを話しながら浜辺を歩いている。ただ、2人の先には常盤さんがスケッチで使っていたサマーベッドとビーチパラソルがあった。あそこに行くのかな。


「そこに座って、ゆっくりと話そうよ」

「……うん」


 僕の予想通り、そのサマーベッドに2人は腰を下ろした。

 僕は更衣室のすぐ近くから2人のことを見ている。ここなら、何かあってもすぐに隠れることができそうだ。2人の表情が分かるのでいい場所だな。しばらくはここから2人のことを見ていよう。


「ここからの景色、みなみんがコンテストに出品する絵と同じだね」

「さすがは明日香! その通りだよ。明日香には前にも話したことがあるけれど、ここからの景色が本当に好きなの。小さい頃に家族でこの別荘に遊びに来て、高校に入学してからは明日香達と一緒に来て。楽しい思い出がいっぱいあって本当に大好きで」

「そっか。そういえば、みなみんは今年もみんなでここに来ることを反対しなかったよね」

「うん。去年、別荘から帰るとき、来年は受験生だから旅行はないかもねって話したけど、実際に3年生の夏になったら行きたいっていう気持ちが出てきて。だから、蓮見君や羽村君から旅行の話題が出たときは正直嬉しかった」


 そのきっかけは、羽村が三宅さんのことで悩んでいるのに、僕が勘違いしてこの旅行のことを相談したいのかって発言したからだけど。明日香の言うように、常盤さんはみんなで旅行に来ることに一度も反対しなかったな。


「別荘に来て、ここでみんなが楽しそうに遊んでいる姿を見たとき、今年も来て正解だったって思っているの」

「ふふっ、そうなんだ。何だか意外。さっちゃんは昨日からずっと楽しそうにしているから、この旅行を満喫しているなって思ったけれど」

「咲希のことはあたしも同じことを思った。初めてだからか本当に楽しそうだよね。転入してからもいつも明るくて。さすがは10年間、東京で学生やっただけのことはあるなって思った。背も高くて美人だから、女子校で女の子に告白されるのも納得できて」

「素敵だよね、さっちゃんは。凄いなって思うこともたくさんあって。羨ましいなって思うことも……たまにあって」

「……幼なじみで、同じ人を好きになると色々と思うことはあるよね」


 常盤さんは明日香の頭を撫でる。


「今年は9人で来ることができたけど、来年以降にこのメンバーで来ることはできなくなりそうだね。羽村君は東京の大学を第一志望にしているし、みなみんは美大志望だから桜海を離れるんだよね」

「うん。第一志望は東京にある日本美術大学だから、受験が上手くいけばあたしも来年の春からは東京だよ」

「……そうなんだね。日本美術大学は私も選択肢にあるよ。美術系に進むならそこが一番いいかなって思ってる」


 ここから通える美大はないから、いっそのこと東京に行こうと常盤さんは決断したのかもしれない。そして、明日香も美術系に進むなら常盤さんと一緒に東京に行く可能性がかなり高いんだ。


「明日香は……進路はどうするの? まだ絞り切れていない感じ?」

「……うん。文学も大好きだし、絵画も大好きだから。本当はみなみんやさっちゃんみたいに志望校まで決められれば一番いいとは思うんだけど、まだ迷っているんだ。2つまでは絞り込めているんだけれど」

「……そっか」


 迷っている、という言葉を聞いたときなぜだかほっとした。自分と同じだからだろうか。それとも――。


「明日香が迷っているのは、どっちも大好きだからってだけ? 咲希や蓮見君のことが気になるからっていうのもあるんじゃない? 咲希は桜海に行くって決めているし、蓮見君はまだ決め切れてはないけど、今のところは桜海の文学部が第一志望らしいし」


 僕とは違って、明日香は美術部に入っていて、絵を描くことは大好きだとこれまでに何度も言っていた。僕らの進路希望も考慮すれば、常盤さんが迷っているのは僕や咲希が関わっていると思うのは当然なのかも。

 少しの間、穏やかな波の音だけが聞こえる時間が続いて、


「……正直、それもあるかな……」


 明日香は常盤さんのことを見ながらそう言った。しかし、その言葉はどこか別の方へと向いているような気がして。


「……そっか。……そうだよね。2人のことも考えちゃうよね」

「うん。ごめんね、はっきりとした考えがまだ言えなくて」

「気にしないでいいよ。でも、あたしのわがまま……言っちゃうけれど」

「うん」


 すると、常盤さんは明日香のことを抱きしめる。

 明日香はそれに驚いた様子だったけれど、すぐにいつもの落ち着いた笑みを浮かべて両手を彼女の背中に回した。


「あたしはこれからも明日香にしたい。明日香が大好きで、あたしも大好きな絵画について同じキャンパスで勉強したいの。できれば、大学以外でも一緒にいたい……」

「み、みなみん……?」

「……ごめんね。もう我慢できない。あたしの大切な気持ちを伝えたくて、明日香と2人きりになって、ここまで連れてきたんだよ」

「……うん」


「あたしは1年生のときから明日香のことが好きです。あたしと恋人として付き合ってくれませんか」


 常盤さんは想いを口にすると、明日香にキスしたのであった。

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