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第46話『風吹く先の神』

 30分ほど休憩した後、再び咲希や羽村と一緒に受験勉強を行なった。

 途中、咲希が古典で分からないところがあるので松雪先生に質問すると、ホワイトボードを使って緊急の課外授業が始まった。僕は英語を勉強していたけど、先生や咲希の会話を聞こえるので学校の教室にいるような感じがした。ただ、4人だけのこじんまりした空間だからなのかそれが楽しくも思えた。



 お昼ご飯はそうめんでさっぱりと。午前中にパンケーキを食べたこともあってか、僕にとってはこのくらいでちょうど良かった。

 昼食で、午後はどう過ごすか話し合ったときに、明日香が気分転換に別荘の周りを散歩したいと提案してきた。それに対して僕と咲希は一緒に行くと即答。

 しかし、常盤さんはもっとスケッチをやりたい、芽依と三宅さん、鈴音さんは夕食のカレー作りや海で遊びたい、羽村は三宅さんの見えるところで勉強したいという理由で行かないことに。9人全員で散歩するのも面白そうな気もしたけど、それぞれやりたいことがあるのならそれをするのが一番いいんじゃないかと思う。

 松雪先生は行くかどうか迷っていたようだけど、旅行でもあるんだからその街を歩かないと旅気分がより味わえないという理由で、最終的には僕らと一緒に散歩に行くことになった。

 明日香や先生の提案で、食休みをしたらすぐに行くことに決まった。食後の運動としても散歩したいとのこと。昨日の夜はバーベキューでお肉をたくさん食べて、午前中にはパンケーキも食べたから、体重が増えるかもしれないって気になるのかな。


「さあ、お散歩に行こうか! いやぁ、風が気持ちいいね」

「そうですね、里奈先生。お散歩にはちょうどいいですね!」

「明日香と里奈先生、気合い入っていますね。日は陰ってきましたけど、熱中症には気を付けてくださいね。あたしも気を付けないとな。走るわけじゃないけれど、朝よりも暑いし」


 午後2時前なので暑さが心配だったけど、天気予報が外れて、雲が広がり始め、風も涼しく思えるようになってきた。散歩するにはちょうど良さそうだ。

 僕らは4人で午後の運動……ではなく、旅先である夏山町の散策を始める。


「潮の香りがする中で歩くのも気持ちいいね。咲希ちゃんは今朝早くにランニングしたんだっけ?」

「はい。毎朝の習慣ですからね。美波にオススメのランニングコースを教えてもらって。潮の香りも感じられて、海沿いの景色も堪能できてとても気持ち良かったです」

「そうなんだ。……咲希ちゃんみたいに、運動する習慣があれば違うかもしれないけれど、私は運動をあまりしないから油断するとすぐに太っちゃうの」

「里奈先生の言うこと分かります! 私も甘いものをたくさん食べてしまうと、すぐに太っちゃうんです! ダイエットしてもあまり痩せないときもあって……」

「分かるよ、それ。でも、明日香ちゃんはまだ若いから大丈夫だよ。私は相当ダイエットを頑張らなきゃ痩せないことが多くなってきたから……」


 あははっ……と松雪先生は力なく笑っている。先生は明日香や常盤さんと同じく油断するとすぐに太ってしまうタイプか。

 僕も甘いものは好きだけど、あまり多く食べないから太ることはないかな。6月まではずっとバイトをしていたのもあるかもしれない。


「ねえ、翼。明日香と里奈先生が痩せにくい理由って、栄養がお腹じゃなくて胸に行っているからじゃないかな。……結構大きいし」

「ど、どうだろうね。ただ、それもあり得るかもね」


 急に耳元で何を囁くかと思えば。咲希は本当に胸が好きなんだな。

 男の僕にとっては答えにくいことだったのでそう言ったけど、意外とその推測が当たっているかもしれない。先生は分からないけれど、明日香は体重が増えたと相談されたことはあるけど、ズボンやスカートがキツくなったって言われたことは全然ないし。胸に可能性が秘められているかも。それは常盤さんも同じだ。

 痩せるかどうかは別として、歩くことはいい運動であることも事実。旅先の道を歩いているんだし楽しもう。


「ねえ、明日香。散歩を始めたのはいいけれど、せっかく夏山町にいるんだし、どこか観光していこうよ。もちろん、散歩でもあるから近いところがいいな」

「確かに咲希ちゃんの言うように、せっかくだからどこか観光したいな。明日香ちゃんや蓮見君はどこかいい観光スポットは知ってる?」

「一昨年や去年に歩いて行ったところだと夏山神社がいいかな、つーちゃん」

「そうだね。別荘から15分くらい歩いたところにあるから、散歩としてもちょうどいいだろうね」


 あのときは5人全員で行ったな。今みたいに、せっかく旅に来たから散歩がてらにどこかへ行こうと。常盤さんが教えてくれたな。


「夏山神社ってどういうところなの? 翼、明日香」

「大きい神社でお金、健康、勤勉の神様がいるって言われているんだ。参拝するとそれらのことで御利益があるみたいだよ」

「そうなんだ。じゃあ、美波や羽村君だけじゃなくて東京の友達の分もしっかりとお願いしよう。みんな受験が上手くいきますようにって」


 咲希、いい子だな。僕も彼女に見習って友人の受験が合格するようにお願いしよう。去年は5人全員で芽依の高校受験を祈願したっけ。


「あと、神社のすぐ近くにちょっとした鍾乳洞があったよね、つーちゃん」

「そうだね。夏山洞穴っていうところでね。中は15℃くらいで、今の季節だとかなり涼しく感じるところなんだ。中は10分くらいで全部回れるからそこにも行ってみようか」

「うん、行ってみたい! あたし、暗いところとか結構好きなんだ」

「何だか意外だね、さっちゃん。私は苦手な方で、洞穴もみんなが一緒だから大丈夫って感じなんだ」


 そういえば、一昨年や去年に洞穴に行ったときは常盤さんの側から離れなかったな。そして、そのときには芽依が僕にベッタリとくっついていた。

 寒い洞穴の話をしたからなのか、それとも歩いて汗ばんできたからか風が吹くと寒気を感じるな。


「どうしたの、つーちゃん。身を縮こまらせて」

「汗を掻いたからなのか、風が吹くと寒く感じて」

「太陽が雲に隠れちゃっているもんね。つーちゃんが寒いって言ったからか、私も寒く思えてきたよ」

「そうかな? あたしは歩いているから風が吹くと気持ちいいくらいだよ。……あれ、先生も寒いんですか? 顔色があまりよくないですけど」

「そ、そうそう。陽差しがないだけで結構涼しくなるんだなって思っていたの」


 先生はそう言って作り笑いを見せている。普段と比べて顔色もあまり良くないので、先生の様子は時々気にしていた方がいいな。


「それにしても、こうして歩いていると一昨年や去年に歩いたことを思い出すね、明日香」

「そうだね。これまでは晴れて暑かったから、今年が一番歩きやすいかな」

「……羨ましいな。明日香はこういうところでも思い出があって」

「……一緒にいる時間が長いからね。それだけだよ」

「……そりゃそうか」


 明日香と咲希は楽しそうに笑い合っている。


「確か、もうそろそろだよね、つーちゃん」

「ああ。そこの角を右に曲がったところに、夏山神社の境内に行ける階段があったはず」


 記憶を頼りに歩いていくと、ちゃんと鳥居があって夏山神社に行ける階段があった。洞穴もあるからか、観光客がちらほらといる。

 50段ほどの階段を上がると夏山神社の境内に到着する。さすがに階段を上がると体が熱くなるな。


「はあっ、はあっ……何か疲れた」

「明日香ちゃんはきっと、午前中に外でスケッチやっていたから疲れが溜まっているのよ。ただ、私はきっと歳なんだろうなぁ。今の階段で膝に痛みが」

「あたしにとってはいい運動になりましたよ」


 3人それぞれ反応が違うな。咲希や明日香の反応は予想できたけど、先生の関節に痛みが出るのは意外だった。運動不足もありそうだけど、10歳の差は意外と大きそうだ。


「明日香、松雪先生、ちょっと休みますか?」

「だ、大丈夫だよ、つーちゃん」

「私も大丈夫だって」

「……そうですか。でも、2人とも無理はしないでくださいね。咲希もね」

「ありがとう。じゃあ、お参りしましょうか」

「そうね、咲希ちゃん。いやぁ、観光客もいるし、何だか旅行に来たって感じがするな」


 ここに来るのは3度目だけれど、これまでの中で最も旅行気分が味わえている気がする。この4人で来ているからか修学旅行のような気分だ。

 僕らは拝殿の方へと行く。参拝客の列ができていたけど、見た感じでは次の次くらいには拝むことができそうだ。


「こうして並ぶと初詣を思い出すね、つーちゃん、さっちゃん」


 咲希とも一度だけ初詣に行ったことがあるな。あのときは芽依も一緒に4人で行った。


「そうだね。確か、元日の午後に毎年行く神社に初詣に行ったら、凄く長い列になっていた気がするな」

「あぁ、それはあたしも覚えてる。寒かったけれど、晴れていたからかあたし達の番になったときはかなり暑かったな」

「うんうん。あのとき、確か迷子にならないようにずっと4人で手を繋いでいたよね」

「そうだった。特に明日香が迷子になりやすいから」


 あのときの気分に浸りたいのか、明日香と咲希は僕の手をそっと握ってくる。そういえば、当時も2人と手を繋いでいたな。芽依は明日香に懐いていたから明日香の手を握っていたかな、確か。


「咲希ちゃんは2人と10年ぶりの再会だったっけ。それでも、今の初詣の話を聞くと咲希ちゃんも幼なじみなんだなって思うよ」

「先生がそう言ってくれると嬉しいですね。年賀状のやり取りはしていたんですけど、桜海と東京だと結構な遠さがあって。電話もしようと思えばできたんですけど、別れ際に翼に告白して頬にキスしたので、恥ずかしくてできなかったんです。そういう話をしたら本当に恥ずかしくなってきた」

「へえ、意外だねぇ。転入初日に蓮見君に告白して頬にキスするくらいの度胸があるのに」

「他の人にも言われましたけど、それは翼や明日香と再会できた嬉しさのあまり、告白せずにはいられなかったんですって。10年分の想いが溜まっていたので、勢い余って解き放ったというか。告白できたのは、東京にいた友達が練習に協力してくれたというか……」


 咲希は顔を真っ赤にしてはにかんでいる。

 今の咲希の言い方だと、うっかり僕に告白してキスしちゃったようにも聞こえる。ただ、10年ぶりに好きな人と再会すれば、ああいったことをする咲希の気持ちも分かる。


「なるほどね。何となく分かる気がする。同じような経験があるからかな。先生の場合は唇じゃなくて拳が出ちゃったんだけれどね。……さっ、私達の番だよ」


 あのときの初詣に比べるとかなり早く僕らの番になった。

 賽銭して、僕はお願いことをする。

 みんなの受験が上手くいきますように。

 ケガなくこの旅行が終わりますように。

 あと、明日香と先生の疲れが早く取れますように。……このくらいかな。

 拝み終わったので拝殿から離れると、3人はまだ拝んでいた。僕が少なすぎるのか、それとも彼女達が多すぎるのか。涼しく柔らかな風を感じながら彼女達のことを待つのであった。

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