表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/83

第45話『パンケーキ』

 午前10時半過ぎ。

 休憩をしようと会議室を出ると、甘い匂いが広がっている。キッチンには芽依、三宅さん、鈴音さんの3人がいるので、何かスイーツを作っているのかも。


「あっ、お兄ちゃん! 休憩しているの?」

「うん、そうだよ。いつの間にか結構時間が経っていたからね。それよりも、何だか甘くていい匂いがするけれど、3人でどんなスイーツを作っているの?」

「シー・ブロッサムで翼君に教わったパンケーキと」

「芽依ちゃんのアイデアで、抹茶の和風パンケーキです! 先輩!」


 鈴音さんと三宅さんはドヤ顔でそう言ってくる。

 鈴音さんがいるのでシー・ブロッサムのパンケーキは分かるけど、まさか芽依考案で抹茶の和風パンケーキまで作っているとは思わなかった。確か、ここ夏山町の特産品の一つがお茶の葉なんだっけ。茶道部に入部してすっかりと抹茶が緑茶にハマったようである。松雪先生も喜びそうだ。


「うわあっ、何だか甘い匂いがする!」

「ああ、どこかのスイーツ店に入ったかのようないい匂いだな」

「このリビングの雰囲気だと、蓮見君がバイトしていた喫茶店のようにも思える」


 確かに、シー・ブロッサムも落ち着いた内装だったな。それもあって、コーヒーや紅茶を飲みながら長い時間滞在していたお客様もいた。


「僕がバイトで鈴音さんに教えたパンケーキと、芽依考案で抹茶のパンケーキを作っているんですって」

「へえ、そうなんだ! 美味しそうな匂いを嗅いだらお腹空いてきちゃった」

「俺も勉強したら小腹が空いたな。どちらのパンケーキも食べてみたいところだ」

「先生は抹茶のパンケーキが気になるかな、やっぱり」


 3人とも、甘い匂いがするからか自然と表情も柔らかくなっていくな。


「もちろん、みんなに2種類作るね!」

「そうですね。ただ、できれば宗久会長には私が作りたいです……」

「もちろん、羽村さんの分は陽乃先輩に任せるつもりです! 愛情を込めてパンケーキを作って、そして食べさせてあげてください!」

「た、食べさせるところまで?」

「ははっ、もちろん自分で食べることはできるけれど、一口でいいから陽乃が食べさせてくれると俺は嬉しいな。数多の漫画やアニメを観て、料理やお菓子を食べさせるシーンに憧れを抱いていたからな」

「……会長がそう言うのであれば。でも、その分……楽しみにしていてくれないと許しませんよ。私、頑張って作りますから!」

「ああ、とても楽しみにしているぞ」


 付き合い始めてからは安定して仲のいい2人だけど、個人的にはお熱いと感じる時期も過ぎて微笑ましく思えてきた。ほっこりするというか。


「じゃあ、僕、明日香と常盤さんを呼んでくるので、みなさんは先に食べていてください。また作っている途中みたいですけど」

「うん、分かった」


 僕はコテージに繋がる扉から外に出る。さすがに外は蒸し暑いな。確か今日の最高気温は33℃だったか。明日香も常盤さんも熱中症とかになっていないといいけれど。

 弱めだけど風が吹いているので潮の香りもしてくる。こういうところでも旅行に来たんだなと感じさせてくれる。

 確か、コテージや浜辺に行って風景をデッサンするって言っていたな。まずはコテージを回ることに。


「おっ、明日香」

「つーちゃんだ。休憩?」

「うん、そうだよ」


 明日香はすぐに見つかった。別荘の屋根で日陰になっているところなので、風さえ吹けば割と過ごしやすそうな場所だ。


「芽依達がパンケーキを作っているんだ。勉強班もついさっき休憩を初めて、みんなでパンケーキを食べようって話になったんだよ」

「そうだったんだ。そういえばもう10時半とかなんだ。近所の風景をスケッチしていたらあっという間に時間が過ぎちゃった」


 明日香のスケッチブックを見せてもらうと、ここから見える近所の風景と少し遠くに見える山が描かれている。


「何だか意外だな、こういう町の風景を描くなんて。コンテスト用には桜海川の絵とシー・ブロッサムでの僕の絵だからかな」

「そうだね。この夏山町ののどかな町の風景が好きで。今年はまだないけど、一昨年や去年は近所を散歩したり、アイスやかき氷を食べたりしたじゃない。あのほんわかとした雰囲気が忘れられなくて」

「そっか。まだ、今日入れて3日あるし、今年も散歩できればいいな」

「そうだね。雨は降らないみたいだから散歩したいかも」

「うん。あと、ここは日陰だけれど、体調は大丈夫?」

「大丈夫だよ。水分はちゃんと取っているし。じゃあ、中に入って休憩しようかな」

「常盤さんは僕が連れてくるよ。彼女がどこでスケッチしているか分かる?」

「浜辺の方でスケッチするって言っていたよ」

「ありがとう。じゃあ、行ってくるね。9人分だからまだ作っている途中かもだけれど、もう食べているかもしれない」

「分かった、つーちゃん」


 常盤さんは浜辺に行っているのか。海はとても綺麗だし海の風景をメインにスケッチをしているのかな。

 プライベートビーチに行ってみると、端の方にスケッチをしている常盤さんがいた。ただ、熱中症対策なのかビーチパラソルを立てて、日陰の部分に置かれたサマーベッドに座って作業している。こうして見てみると、常盤さん……優雅な女性に見えるな。財閥の令嬢らしい雰囲気があると改めて思った。


「常盤さん」

「蓮見君、どうしたの? スケッチが気になった?」

「それもあるけど、今、みんな休憩に入って、芽依達が作ったパンケーキを食べようって話になっているんだよ。明日香にも話したよ」

「そうなんだ。確かにいい時間だし、あたしも休憩しようかな」

「うん。ちゃんと日陰を作って水分も取っているみたいだけど、体調の方はどう?」

「大丈夫だよ、ありがとう」


 常盤さんも大丈夫か。2人とも熱中症対策をしているみたいだし、僕の心配のし過ぎなのかな。まあ、元気そうで何よりだ。


「ここからだと、海も山もちょっとだけれど別荘も見えるんだね。そういえば、この景色、1学期に見せてもらった絵と似ているような……」

「覚えていてくれたんだね。嬉しいな。ここから見える景色とほとんど同じ。あのときにも話したかもしれないけど、小さい頃から何度も来ていて大好きな景色だからね。色々な思い出の詰まった場所だからスケッチしたいと思ったの」

「そうなんだね」


 色々と思い出しているのか、常盤さんは頬を赤らめながらにっこりと笑った。コンテストに出品する絵としても描いているからか、


「じゃあ、別荘に戻ってパンケーキを食べよっか」

「そうだね」


 僕は常盤さんと一緒に別荘に戻る。すると、僕ら以外は全員リビングにいて、明日香、咲希、先生、羽村は既にパンケーキを食べ始めていた。


「会長。クリームたっぷりですよ。はい、あ~ん」

「あ~ん。……うん、凄く美味しいぞ」


 約束通り、三宅さんは羽村にパンケーキを食べさせているな。見ていて本当にほのぼのとする光景だ。


「あっ、みなみんとつーちゃんが戻ってきた。先にパンケーキいただいているよ」

「さすが、鈴音先輩が監修しているパンケーキは美味しいです!」

「芽依ちゃんの考案した抹茶のパンケーキもなかなか美味しい」


 みんな、パンケーキを楽しんでいるようだ。


「翼君と美波ちゃんの席に座って。パンケーキ、もう少しで焼けるから」

「つーちゃんはこっちで、みなみんはこっちね」


 明日香は両隣にある椅子を軽く叩く。みんなが今座っている席、朝ご飯のときと変わっていないけれど、明日香にとってこれが一番いいのかも。

 僕は明日香と咲希の間にある椅子に座る。すると、すぐに芽依と鈴音さんがパンケーキを持ってくる。


「はーい、シー・ブロッサム流パンケーキと」

「抹茶の和風パンケーキになります」

「ありがとう」


 バターが乗っかり、はちみつがかかっているパンケーキはシー・ブロッサム流と言える。オーソドックスなパンケーキだけども。

 抹茶のパンケーキの方は粒あんとホイップクリームが乗っかっている。こっちも美味しそうだ。


「いただきます」


 まずはシー・ブロッサム流のパンケーキを一口食べる。


「うん、美味しいです」

「良かったぁ。バイトのとき以上に緊張したからさ」

「ははっ、そうですか。たぶん、材料がお店のものと違うと思うので、味に多少の違いがありますけど、美味しいことには変わりないです」

「そう言ってくれるとほっとするよ」

「このパンケーキを食べると、蓮見君がバイトしていたときに明日香や羽村君と一緒にお店に行ったことを思い出すな」


 そういえば、僕がバイトをしているときにみんなが店に来てくれたことが何度もあったっけ。そのときはパンケーキやパフェのスイーツはもちろん、ナポリタンやハンバーグなどの料理を作ったこともあった。みんな美味しそうに食べてくれたな。


「お兄ちゃん、抹茶のパンケーキも食べて!」

「うん、分かった」


 抹茶のパンケーキを食べるのは初めてだ。あんこやクリームがあるけど、まずはケーキだけを一口食べよう。


「……おっ、こういう味なんだ。これもなかなかいい」


 パンケーキの持つ甘味と抹茶の苦味のバランスがちょうどいい。甘いのがあまり得意ではない人にもオススメできそうだ。

 あんこやクリームを付けて食べるとまた違った味わいになる。色々な味を楽しむことができて楽しい。


「うん、美味しい! よく考えたね、芽依」

「ありがとう、お兄ちゃん。今日はスイーツを作るって話を聞いてから、抹茶を使ったスイーツを作りたいなって思っていて。鈴音さんや陽乃先輩に相談して、こうして抹茶のパンケーキを作ることができたんだ」

「そうだったんだね」


 三人寄れば文殊の知恵という言葉があるけど、まさにこういうことを言うのかな。


「つーちゃん、その……食べる?」

「うん」

「じゃあ、あ~ん」

「あ~ん。……美味しいね」

「あたしもやろう。翼、あんことクリームをたっぷりとつけた抹茶のパンケーキだよ。はい、あ~ん」

「あ~ん。……美味しいけど、これはかなり甘いな」


 羽村と三宅さんの様子を見たときに明日香と咲希もやりそうだなと思ったけれど、案の定そうしてきたか。見ている分には微笑ましいけど、実際に食べさせられるとちょっと恥ずかしいな。

 その後は、全員でパンケーキを楽しむのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お気に入り登録、評価、感想、レビューなどお待ちしております。よろしくお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ