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第40話『酔いどれ淑女』

 コテージでの夕食のバーベキューはとても盛り上がった。

 一昨年や去年と同じように、僕は焼いたり炒めたりすることばかりやっていたけれど、


「つーちゃん、あーん」

「……美味しい」

「翼、こっちも食べてよ」

「……これも美味しい」


 という感じで、今年は明日香や咲希を中心に肉や野菜を食べさせてくれたので、結構お腹いっぱいになった気がする。明日香は以前も食べさせてくれたけど、今年ほど積極的ではなかったな。

 そんな常盤さんは主に芽依や鈴音さんと楽しそうにしていた。芽依が架橋になってくれたのか、常盤さんは鈴音さんとも仲良くなっていて。


「宗久会長、わ、私も先輩達のように食べさせたいです」

「おっ、いいじゃないか。やってみよう」

「では。あ、あ~ん……」

「……うん、美味いな。何だかこうしてもらうと、付きっきりで看病してくれたときのことを思い出すな」

「私もそのときのことを思い出していました」

「陽乃もか。じゃあ、お礼に俺からも食べさせてほしい。はい、あ~ん」

「あ~ん。……とっても美味しいです。幸せです」

「……俺も幸せだよ、陽乃」


 羽村と三宅さんは一緒にいる僕らまで幸せにさせてくれるくらいにいい雰囲気だ。鉄板とどっちが熱いのかと思えるくらいに熱く思えて。この旅行中に熱くなりすぎて、2人が熱中症になって倒れてしまわないかどうか心配。

 松雪先生は夕方にスーパーで買ったお酒を呑みながら、明日香や咲希達とワイワイ話したり、羽村と三宅さんを見て涙を流したり、僕にベッタリとくっついてきたりと様々な表情を見ることができた。僕としてはそんな先生がとても面白く思えた。

 みんな楽しそうに、幸せそうに夕ご飯を食べていたな。準備した人間の1人としてはとても嬉しく思う。

 Aチームが準備をしたので、後片付けはBチームがやってくれることになった。なので、僕はその様子を見ながらリビングのソファーで食休みをした。



 夕食を食べたらお風呂だよね、という話になったけれど、さすがに全員で入るわけにはいかないので、例年通り時間で区切って男女別々に入ることに決めた。

 もちろん、先に入るのは女性から。今は午後8時半なので、午後10時までが女性の入浴時間にして、それ以降は男性が入ることに決まった。


「とりあえず10時まで勉強するか」


 今日は海でたっぷりと遊んで、夕方からは料理ばかりしていたからな。少しでも勉強しておかないと。

 僕の泊まる部屋である202号室に戻り、ドレッサーで受験勉強をする。ここなら高さもちょうどいいし、椅子の座り心地もいいので部屋で勉強するときはここでやろう。

 そういえば、隣の201号室は羽村の部屋。今は静かだけど、もしかしたら、毎晩色々な声が聞こえてくるかもしれない。そのときはイヤホンをして音楽を聴くかテレビを点けておけばいいか。

 普段とは環境が違うけれど、結構捗るな。出発してから今日はずっと誰かと一緒にいたので、1人で静かな時間を過ごすのが初めてだからなのもありそうだ。それとも、さっき淹れたコーヒーが美味しいからか。気持ちよく勉強できている。


「芽依も去年は部屋でこういう風に勉強をしていたのかな……」


 去年は芽依が中学3年生だったから、1階の会議室で芽依の受験勉強の時間を設けたっけ。主に僕と羽村が芽依からの質問に答える形で。ただ、高校生メンバーは芽依に勉強を教えるだけでなく、夏休みの宿題をやっていた。

 今年は大学受験もあってか、受験対策プリントを渡された教科もあるけど、課題としてやらなければならないものは1つもない。それもあってか、これまでは夏期講習を軸にして受験勉強に集中できている。芽依や三宅さんは課題が出されているだろうけど、今日の様子からして……持ってきてないだろうな。旅行だしそれでいいと思う。

 ――コンコン。

 うん? ノック音が聞こえたな。

 部屋にある時計を見ると、針は午後10時過ぎを指していた。時間はしっかりと決めたけれど、誰かが知らせに来てくれたのかな。

 一応、スマートフォンを確認してみると、旅行メンバーで作ったグループトークに明日香と羽村からメッセージが送られていた。


『女性はみんなお風呂から出ました。つーちゃんと羽村君、入って大丈夫です』


 10分くらい前に明日香からメッセージが送られており、その直後に、


『分かった。連絡ありがとう』


 という羽村からのメッセージが送られていた。勉強に集中していたからか、全然気付かなかったな。僕も分かったと送信しておこう。そういえば、一昨年や去年もこういうやり取りをしたっけ。

 ――コンコン。

 あっ、誰かを待たせているんだった。まずいまずい。


「待たせてごめんなさい」

「翼君は焦らせるのが好きなんですかぁ?」


 扉を開けた先に立っていたのは、酔っ払っている松雪先生だった。Tシャツに短パンって……これが先生の寝るときの服装なのかな。てっきり明日香や咲希だと思っていたので、とても意外に思えた。あと、一番来たら面倒臭そうな人が来ちゃったなぁ。


「今、酔っ払っているから面倒臭そうとか思ったでしょ」

「そんなことは全然思っていませんよ。それで、僕の部屋に何か用ですか? 先生の部屋は隣の203号室ですよ」

「部屋を間違えたら何度もノックしませんよぉ。翼君のお部屋に来たいと思ってここに来たんですぅ」

「……そうですか。じゃあ、中に入ってください」

「お邪魔しま~す」


 先生、楽しそうな様子で僕の部屋に入ってきた。先生が右手に提げているスーパーのレジ袋にはお酒とか入っているんだろうな。


「翼君、お勉強していたんだ。……げっ、数学は自信ない」

「受験生ですから、旅行中でも少しは勉強しておこうと思いまして」

「そうなんだ、偉いねぇ」


 よしよし、と先生は僕の頭を優しく撫でてくれる。そのときに先生からお酒の臭いがしてくるな。バーベキューのときもビールやワインをたくさん呑んでいたし、相当酔っ払っているんだろう。


「先生、もしかしてその袋に入っているのはお酒ですか?」

「うん。ビールにサワーだよ。翼君は呑んじゃダメだよぉ」

「……呑みませんって」


 先生はベッドの横にある椅子に座って、レジ袋から取り出したビールを呑む。教え子が泊まっている部屋でお酒を楽しむとは、教師としてどうなんだろうな。行きの車の中で彼女が言っていたように、今は教師ではなくて27歳の女性として考えた方が、こっちの気が楽かもしれない。


「あぁ、ビール美味しい! それで、翼君はまだ勉強するの?」

「お風呂にはもう入っていいと明日香からメッセージが来ましたし、キリのいいところまでやったんで今日はいいかなと」

「そっかぁ。まあ、そこにベッドもあるし、これから先生が保健の特別授業をしてあげてもいいんだけどね。免許はないけど」

「じゃあ、止めておきましょうか」

「でも、翼君が私とそういうことをしたいと思ったらいつでも言ってきてね」

「……それ、色々な意味でまずい発言ですね」


 まあ、普段の松雪先生がとてもいい人なので、今のことは学校に言うつもりは全くないけれど。

 僕はベッドの中でも先生のすぐ目の前の場所に座る。


「でも、どうして僕の部屋なんですか? 特に海では常盤さんや鈴音さん、芽依と仲良くしていたのに」

「可愛い女の子の部屋に行きたい気持ちもあるよ。お風呂で明日香ちゃんや咲希ちゃん達の体を拝めたからね。でも、海に行ったら昔の彼氏と付き合っていたときのことを思い出しちゃって。もちろん、あんな奴と比べたら翼君の方がかっこいいし素敵だけどね! それに、翼君の顔を見ると安心するから……」

「へえ、可愛いところもあるじゃないですか」

「か、可愛いって……何だか照れちゃうな」


 そうは言いつつもどこか嬉しそうな様子で椅子から立ち上がり、僕のすぐ横に座って体をベッタリとくっついてくる。


「今夜だけは翼君を私の男にしてあげる」

「それはどうも」

「何だか嬉しそうじゃないね。じゃあ、私が翼君の女になる。だから、私と一緒に旅行の思い出作りしちゃう? もしかしたら、別のものができちゃうかもしれないけど」


 すると、先生は僕のことをベッドの上に押し倒してくる。そのことで先生の柔らかさや温もり、匂いが強く伝わってきて。彼女のとろけた表情がとても可愛らしくて。


「翼君となら……私……」


 そう言って、先生は僕の胸の中に顔を埋めてしまった。この気持ち良さそうな寝息と、どっしりと重みは……先生、眠っちゃったのかな。


「しょうがない」


 ベッドはここにあるんだし、とりあえずはここに寝かせておくか。先生が寝ている間にでも、お風呂に入ることにしよう。

 今の体勢から何とか抜け出し、松雪先生をベッドに寝かせる。その甲斐もあってか先生は気持ち良さそうに寝ている。

 お風呂に行くときに羽村を誘おうと思ったけど、もしかしたら三宅さんとの時間を楽しく過ごしているかもしれないし止めておいた。大浴場で会ったらそのときは適当に駄弁ろうと思う。

 大浴場に行くけど、羽村の姿はなかった。10時半近くになっているのでもう入っちゃったのかな。それならそれで1人でゆっくりとしよう。

 髪と体をさっさと洗って湯船に浸かる。


「あぁ、気持ちいい……」


 この広い湯船を1人締めできるのは何だかいい気分だな。先生の話だと、女性はみんな一緒に入ったのだろう。この広さなら7人でもゆったりと浸かれそうだ。


「酔っ払った先生は可愛かったな……」


 教師としてはまずい言動がいくつもあったけど、それは酔っ払ったからだと考えておこう。普段からご飯を作ってほしいとか言ってくるけど。

 結局、羽村が来ることもなく僕はお風呂から出た。

 202号室に戻ると、今もなお先生はベッドの上で爆睡中。ただ、お風呂に入る前とは違って寝相が変わっており、暑いのかふとんもはだけていた。Tシャツがめくれてお腹は丸見えだ。


「先生、これじゃ風邪引いちゃいますよ」


 ここまで気持ち良く寝ていたら、無理に起こすわけにはいかない。気付かれないようにTシャツを元に戻して、ふとんを再び掛ける。

 先生と一緒に眠るわけにはいかないし、交換という形で先生の部屋のベッドで眠るのも気が引ける。誰かの部屋にお邪魔するのもちょっと。


「そうだ、空き部屋が1つあった」


 205号室は誰も使っていないんだ。

 部屋を出て205号室の前まで行ってみるけど、


「ダメか……」


 使っていない部屋の扉は施錠されていて当然か。体を横にしてゆっくりとできそうなところは、リビングのソファーくらいか。


「おっ、意外といいじゃないか」


 ソファーはふかふかで気持ちいい。クッションもあるからこれを枕代わりにしよう。冷房もそこまで強くかけなければ風邪も引かずに済みそう。クッションはいくつもあるし抱きしめたら温かそうだ。

 今は午後11時過ぎで普段よりも早いけど、今日はもう寝るか。


「おやすみなさい」


 クッションを抱きしめるとこれが意外と気持ち良くて。程なくして眠りにつくのであった。

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