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第33話『旅行前夜』

 僕にとって高校最後の夏休みがついに始まった。ちなみに、今年の夏休みは平成最後の夏休みとなる。


 僕と咲希は桜海駅の近くにある学習塾で開催される夏期講習に通う日々。僕もまだ暫定だけど、咲希と一緒に国公立の文系向けの講座を受ける。


 羽村も同じように、桜海川駅の近くにある学習塾で難関大学向けの夏期講習を受けている。ただ、彼はたまに生徒会関連で学校に行き、三宅さんと一緒に生徒会の仕事をしているようだ。


 明日香と常盤さんは9月が締切りの絵画コンテストに作品を提出するため、平日を中心に桜海高校に行って製作をしている。明日香は文系学部と迷っていることもあり、部活との両立がしやすいように通信教育という形で受験勉強に取り組んでいる。ちなみに、明日香は僕をモデルにした絵画の制作も始めたとのこと。どんな絵になるか楽しみだ。


 芽依は課題をやり、茶道部の活動に参加し、クラスや部活での友人や先輩と一緒に遊ぶなど高校最初の夏休みを謳歌している。部活動に参加していると、旅行が楽しみなのか松雪先生が1学期のときと比べて更に可愛くなっているらしい。


 大学になると7月の下旬まで講義があり、そこから科目によっては期末試験が行なわれるとのこと。ただ、最終課題としてレポートを提出する科目もあるため、鈴音さん曰く、受験生だった去年よりは楽とのこと。バイトの方は夏休みから高校生の女の子が新しく入ってきて、マスター達と一緒に仕事を教えているらしい。



 それぞれがしっかりと夏の日々を過ごしていることもあってか、あっという間に夏休みの日々が過ぎていくのであった。



 8月10日、金曜日。

 気付けば、毎年恒例の夏の旅行が翌日に迫っていた。

 今日も僕は夏期講習に参加したけど、お盆が迫っている時期もあってかいつもよりも受講生が少なかった気がする。咲希も旅行の準備をするために、今日は講習には参加せずに明日香や芽依、常盤さん、三宅さん、鈴音さんと買い物に出かけた。

 旅行に必要なものを予めまとめていたので、僕は夕方に講習が終わってから、駅前の店で買って家に帰った。今年は夏休みに入ってからずっと夏期講習に通っていたから、ようやく旅行間近の独特の高揚感を抱くようになってきた。


「あっ、おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま。駅前で、旅行に必要なものを買ってきたよ」

「そうなんだ。私も明日香ちゃんや咲希ちゃん達と一緒に買い物に行ってきたよ。楽しかったなぁ」

「そっか、良かったね。みんなも楽しそうだった?」

「うん! 特に水着を選んでいるときは一番楽しそうだったよ」


 そういえば、常盤さんの別荘にはプライベートビーチがあったな。一昨年も去年も着いたらすぐに海で遊んだっけ。行くメンバー全員が受験生ではないし、遊びも大切だと思うので今年も着いたらさっそく海で遊ぶんだろうな。


「お兄ちゃん、私達の新しい水着姿を楽しみにしててね」

「うん、分かったよ」


 今の言い方だと、明日香や咲希達も新しい水着を買ったようだ。明日香や芽依、常盤さんの水着姿は去年も見ているので分かっているけど、他の4人はどんな感じなのかな。咲希と先生はスタイルが良さそうだし、鈴音さんは胸が凄そうだな。三宅さんは……羽村の彼女なのであまり考えない方がいいな。


「今、みんながどんな水着姿になるのか想像してたでしょ」

「……咲希もそうだけど、初めて一緒に旅行へ行く人もいるからね。それに、みんな可愛くて綺麗だし」

「ふふっ、そうだね。咲希ちゃんは綺麗になったし、三宅先輩と鈴音さんは可愛らしい女の子だし。里奈先生は綺麗な大人の女性だもんね」

「やっぱり先生も海に入るのかな」

「うん。部活に行ったとき、ひさしぶりに海で遊ぶのが楽しみだって言っていたよ。今の自分に合う水着を買いに行かなきゃいけないって」

「そうなんだ。シー・ブロッサムで旅行の話をしたとき、先生が一番楽しそうにしていたよね」


 学校ではもちろん先生らしくしっかりとしているけど、プライベートになると少女らしさが垣間見える。


「そうだね、お兄ちゃん。先生もいるし、勉強頑張ってね」

「うん。でも、みんなと一緒に楽しい旅行ができればいいなって思うよ。高校最後の夏だし、このメンバーで行くことができるのってそうそうないかもしれないから」


 羽村は東京の大学を目指し、常盤さんは美大を目指している。2人とも合格できたら桜海市を離れることになるんだ。もしかしたら、明日香だって。そう思うと何だか寂しくなってくるな。


「どうしたの? お兄ちゃん。何だか疲れた感じだけど」

「今日は夏期講習に行って、買い物もしてきたからね。普段よりも疲れたかな。明日からの旅行のためにも、今夜は早めに寝ないと」

「そうだね。お兄ちゃんって昔から旅行の前日でもぐっすりと眠れるよね」

「楽しみな気持ちはあるけれど、意外と眠れるかな」

「いいなぁ。私はあまり眠れないかも。お兄ちゃん、今夜は一緒に寝てもいい? そうしたらぐっすりと眠れるかもしれないから」

「うん、いいよ」


 芽依も明日香と同じように僕の腕を抱きしめて寝る癖がある。そのことでぐっすりと眠れるのであれば、兄として協力しないわけがない。


「ありがとう、お兄ちゃん。大好き!」


 今の一言で、仮に芽依と一緒にいたことであまり眠れなかったとしても許そう。別荘に行くまでの間に眠ればいいわけだし。

 夕ご飯を食べ、僕は旅行の準備をする。去年よりも1日多い4日間だし、勉強道具も持っていくから荷物が多くなる。ただ、今年は電車ではなく先生の運転するレンタカーなので荷物が多くなっても大丈夫かな。


「お兄ちゃん、お風呂上がったよ」

「うん」

「旅行の準備はどう?」

「終わったよ。明日から旅行だし、お風呂に入ったら今日は寝ようかな」

「そっか。じゃあ、お兄ちゃんの部屋にいてもいい?」

「いいよ。芽依の方は旅行の準備はできてる?」

「夕方には終わったよ。それに、別荘の近くにはコンビニやスーパーもあるし、何か必要になったら買いに行けばいいかなって」

「確かにそれは言えてるな」


 一昨年や去年も食べ物や飲み物、花火を買いに行ったからな。旅行中だとそういった買い物も楽しかったりする。

 僕はゆっくりとお風呂に入って疲れを取る。そういえば、別荘には大浴場があったな。

 部屋に戻ると、芽依がベッドの上でスマホを弄ってゴロゴロとしていた。


「あっ、お兄ちゃん。明日香ちゃんや咲希ちゃん達も準備が終わって、あとは寝るだけだって」

「そっか。みんな元気に旅行に行くことができそうで良かったよ」

「うん。じゃあ、あたし達も寝よっか」

「そうだね」


 ベッドライトだけを点けた状態にして僕は芽依と一緒にベッドに入る。その際に芽依にしっかりと腕枕される状態に。明日香のときはさすがにドキドキしたけど、芽依だとさすがにそんなことはないな。非常にゆったりとした気分だ。


「明日から楽しみだね、お兄ちゃん」

「ああ」


 どんな4日間になるのだろうか。今年は初めて一緒に旅行に行く人もいるのでとても楽しみだ。


「あと、話が変わっちゃうんだけど」

「うん」

「……お兄ちゃん、咲希ちゃんだけじゃなくて明日香ちゃんにも告白されたんだよね。私にとってはようやく……って感じだけど。どっちと付き合うとか決めたりしてるの?」

「……2人とも素敵な女の子だからね。まだ、決められてないよ」


 夏休みに入ってからも夏期講習があるからか、咲希の方が一緒にいる時間が多い。それもあってか、明日香はたまに僕の家に泊まりに来て一緒に受験勉強をする。2人とも好意は示してくるけど、変に迫ってくることもない。僕のことを大切に想ってくれているのが伝わってくるのだ。


「明日香ちゃんは可愛くて、咲希ちゃんは綺麗で。それで、2人とも素敵だもんね。どっちかがお義姉ちゃんになると嬉しいなぁ。どっちもお義姉ちゃんっていうパターンも私は大歓迎だよ!」

「2人のことが好きだもんね、芽依は」


 もしそうなったら、僕よりも芽依の方が2人のことをしっかりと愛することができそうな気がする。


「どんな答えでも、2人にはしっかりと伝えないとダメだよ」

「うん、それは僕も肝に銘じてる。明日からの旅行で、そのことについてしっかりと考えることができればいいなって思ってる」

「そっか。お兄ちゃんにとって納得できる答えが見つかるといいね」

「そうだな」


 もちろん、旅行を楽しむことが第一だけれど。いつか笑って話せるような旅行になればいいなと思っている。


「よし、じゃあそろそろ寝よっか」

「そうだね、お兄ちゃん。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 芽依がゆっくりと目を閉じると、程なくして可愛らしい寝息が聞こえてきた。旅行前夜は眠れないって言っておきながらさっそく寝ているじゃないか。ただ、ぐっすりと眠ることができるのはいいことだ。妹の寝顔の可愛さは昔から変わらないな。きっと、平成の次の時代になっても、この可愛らしさは不滅だろう。


「……おやすみ」


 芽依の温もりや匂いを感じながら、僕も眠りにつくのであった。

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