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第26話『陽だまりの少女』

 昇降口に行くと既に三宅さんが到着していた。僕らはすぐに靴に履き替えて彼女のところへと向かう。


「三宅さん、お待たせ」

「あっ、蓮見先輩。こんにちは。えっと、そちらの女子生徒さんは……」

「ええと、先月の初めに僕や羽村のクラスに転入してきた有村咲希っていうんだ。10年くらい前までこの桜海市に住んでいて、小学校のときのクラスメイトだったんだよ」

「なるほど、あなただったんですね。羽村会長が言っていたクラスに転入した女子生徒さんというのは。初めまして、2年3組の三宅陽乃です。生徒会の副会長をやっています」

「初めまして、3年1組の有村咲希です。よろしくね、陽乃ちゃん」

「よろしくお願いします。有村先輩」


 咲希と三宅さんは握手を交わした。こうして見てみると、2人の雰囲気が似ているなぁ。髪の色や髪型が一緒だったら姉妹に見えるかも。


「あたしのことは名前でいいよ、陽乃ちゃん」

「……では、お言葉に甘えて。……さ、咲希先輩」

「可愛いなぁ、えへへっ。転入してあまり経っていないから、桜海高校の子から先輩って言われるのは初めてだよ」


 咲希はデレデレとした様子で三宅さんの頭を優しく撫でる。そういえば、芽依は昔から知っているから先輩ではなくちゃん付けで呼んでいるな。一度だけ芽依が先輩呼びしたけれど、どうやらそれはカウントしないようだ。


「咲希もその……諸々の事情は分かっているから、彼女も一緒に話をしてもいいかな?」

「……はい、いいですよ。ただ、他の人に話を聞かれずに、ゆっくりと3人で話せる場所がいいです」


 これから羽村から告白されたことについて話すからな。そりゃ、他の人に聞かれたくはないよな。


「分かった。そうなると、シー・ブロッサムも止めておいた方がいいかもなぁ。平日の昼過ぎは空いているけど、もちろん全くお客様がいないわけじゃないし。マスターも信頼できる人だけれど……」

「ごめんなさい。3人の方が気持ちも落ち着いていいというか。図々しいとは思いますが、蓮見先輩か咲希先輩のどちらかのお宅がいいです。私の家は桜海駅から2駅離れたところにありますから、交通費かかっちゃいますし。あと、蓮見先輩のお宅には1年生のときに、羽村会長や明日香先輩、美波先輩と一緒に何度か行ったことがあります」

「じゃあ、翼の家がいいんじゃない? 知っている場所の方が落ち着いて話すことができそうだし」

「そうだね。じゃあ、僕の家に行こうか」


 芽依もクラスの友達と一緒に、桜海駅近くのカラオケに行って夕ご飯くらいにならないと帰ってこないそうだし。

 羽村がこれを知ったらどうなるかと思ったけれど、三宅さんは何度も僕の家に行ったことがあるし咲希も一緒だ。事情を話せば分かってくれるだろう、たぶん。


「その前に、一つだけお二人に訊きたいことがあるんですけど」

「うん? 何かな、陽乃ちゃん」

「えっと……お二人って付き合っているんですか? とても仲が良く見えるので」

「ち、違うよ! 付き合ってないって! ただ、翼と恋人として付き合っているように見えるのは嬉しいし、付き合いたいって思っているけどね!」


 あははっ、と咲希は顔を赤くしながら笑っている。


「ということは、付き合ってはいないんですね」

「そうそう。告白はしたけど、返事を待っているところ。急な告白だったし、翼にはゆっくりと考えてもらうことにしてもらってる」

「なるほどです。私、てっきり蓮見先輩は朝霧先輩と付き合うと思っていました。仲がいいようですし、夫婦って言っている生徒もいるくらいですから。蓮見先輩が気になる子もいたんですけど、朝霧先輩がいるからダメだろうって諦めてました」

「そうなんだね」


 夫婦って呼ばれているのは知っているけど、僕が気になる子がいたっていうのは初耳かな。明日香は部活、僕もバイトがあったけど、それらがなければ基本的には一緒にいるからなぁ。


「明日香は可愛い女の子だし、翼にとって一番付き合いの深い女の子だからね。夫婦って呼ばれていることも納得だね。ふふっ、早く翼の家に行こっか。ジメジメして暑いから」

「そうだね」


 僕は咲希や三宅さんと一緒に自宅に帰る。そういえば、咲希が転入してきてから、1人で家に帰ることってほとんどないな。


「お邪魔しまーす」

「お邪魔します。今年度になってからは初めてですから、ちょっと懐かしいですね。それでもちょっと緊張しますね」

「大丈夫だって、陽乃ちゃん。翼は襲ったりしないから」


 そんな咲希は、2人きりだったら押し倒すかもしれないって言ったことがあるけどね。


「咲希は三宅さんと一緒に僕の部屋に行ってて。僕は冷たい麦茶を持っていくから」

「うん、分かった。さっ、行こっか。陽乃ちゃん」

「はい」


 咲希は三宅さんの手を引いて僕の部屋へと向かっていった。そんな咲希がとても凜々しい。前の高校で彼女に惚れる子がいたのが納得できたような気がした。

 3人分の麦茶を持って自分の部屋に行くと、中では咲希と三宅さんが談笑していた。


「お待たせ」

「ありがとうございます。部屋に入ったら、前に来たときに先輩が作ったゲームをやらせてもらったことを思い出しました」

「そうだったね」


 中学のときに作ったパズルゲームとか、高校生になってから作った羽村原案のギャルゲーとか。当時は暇つぶしにいいかもと思って作り始めたけれど、絵を描いたり、音楽を創ったりするのはかなり楽しかったな。熱中しすぎて寝不足になったときもあった。


「……色々とすみません。会長とあたしのことで先輩方にご迷惑をかけてしまいまして。きっと、今日も受験勉強をする予定だったんですよね」

「三宅さんの言うとおり、咲希と2人で勉強するつもりだったよ。でも、君や羽村のことが気になるからね」

「翼の言うとおりだよ。それに、期末試験が終わったこともあって、学校でも受験勉強をさせてくれる教科もあるからね。あと、陽乃ちゃんと羽村君が気持ち良く夏休みを迎えられるように一役買いたいと思って」

「……先輩方がそう言ってくださって安心しました。ありがとうございます」


 三宅さんは笑みを浮かべ、僕らに頭を下げた。このままの流れで本題に入るとするか。ただ、どうやって話題に切り込むかが悩みどころだけれど。


「あの……蓮見先輩、咲希先輩。羽村会長の体調はどのような感じですか? 昨日と今日、生徒会のグループトークに、体調を崩したから欠席するとメッセージはもらったんですけど。気にはなるんですが、メッセージを送りづらくて」

「昨日の放課後、咲希と一緒にお見舞いに行ったんだ。熱があって、だるさとかもありそうだったけど、趣味とかの話をしたときは楽しそうだったよね」

「そうだったね。お見舞いで買っていったスポーツドリンクも飲んでたし、カステラもちょっとだけれど食べてた。そのときはちょっと元気になったけれど、1日経っても熱が下がらないから休むって今朝、メッセージが来たの」

「そうでしたか。今の時期はあまり仕事も多くないですし、3年生の副会長もいますから問題なくやれていますけど、会長がいないのは寂しいとみんな言っていました」


 30人くらいいるクラスでさえ、普段とは違う雰囲気になるんだ。5人のうちの1人、しかも会長がいない生徒会にとっては寂しいよな。


「会長が体調を崩した原因はおそらく……私でしょうね。いえ、絶対に私です」

「……そんなことないよ、陽乃ちゃん」


 咲希は涙を流す三宅さんに寄り添い、彼女の頭を優しく撫でている。三宅さんの涙は羽村への罪悪感からなのか。それとも――。


「羽村は三宅さんを好きになった。三宅さんに告白した。ただ、フラれた。それからあまり時間も経たないうちに体調を崩した。それは確かに事実だね」

「翼……」

「でも、三宅さんを想う羽村の気持ちは変わったどころか、告白する前よりも強くなっていると本人も言っていたよ。君のことを諦められないって。そうなるほどに好きだからこそ、色々と考えて体調を崩したんだろうと言っていたけれど。昨日、お見舞いに行ったときにそう言ってた。咲希と僕がその証人になるよ。ね、咲希」

「もちろん!」


 きっと、羽村は今もその想いを抱き続けて静養していることだろう。もしかしたら、夢の中でナース姿の三宅さんにまた看病してもらっているかもしれない。


「ありがとうございます、蓮見先輩、咲希先輩。ちょっとは元気になりました」

「それなら良かったよ、陽乃ちゃん」

「……でも、羽村会長……諦めないんですね、私のこと。そうですよね、漫画やアニメで好きなキャラクターと出会うと、とことん愛する人ですからね」

「次元を問わず一番好きなのは陽乃ちゃんって言っていたよね、翼」

「そうだね。親友として誇らしく思ったほどだ」


 フラれて体調を崩しても、揺らぐことのない想いを誰かに言うことができるなんて。立派な人間だと思うし、尊敬もできる。僕に足りないものを、羽村はしっかりと持っているような気がしたから。


「何だか、人づてに自分への想いを聞くのって結構恥ずかしいですね……」


 三宅さんは顔を真っ赤にしてはにかんでいる。そんな彼女がとても可愛らしい。羽村のことを嫌っているようには見えないな。むしろ、羽村と気持ちが重なっているとも思えるくらいだ。


「そうですか。私への想い、変わっていないんですね。会長は……」

「そうだよ。羽村はきっと今も君のことを想い続けているだろう」


 どうやら、三宅さんに羽村の現状について理解してもらえたようだ。


「三宅さんは羽村君のことをどう想ってる? やっぱり、彼が告白してくれたときのように恋人じゃなくて、先輩後輩として、生徒会の仲間をとして付き合いたい?」


 僕と同じようなことを考えたのか、咲希はすぐ側から三宅さんのことを見つめ、そう問いかける。

 その後、少しの間、静かなときが流れた後、


「……そうした方が一番いいだろうって思っています」


 三宅さんは小さな声でそう言った。


「へえ、先輩後輩、生徒会の仲間として付き合う方がいいって想っているんだね。そっか、やっぱり羽村君のことは嫌いなんだ……」

「咲希、何を言って――」

「そんなことありません! 大好きに決まっているじゃないですか! だから、告白されても……あっ」


 咲希に向かって大きな声を挙げる三宅さんだったけど、自分が口にした言葉がどういうものなのか気付いたのか我に帰る。

 咲希は優しい笑みを浮かべる。


「ようやく、陽乃ちゃんの本音が聞けたね。ごめん、キツく言っちゃって」

「……気にしないでください。でも、ずるいですよ……」


 三宅さんは涙を流しながら、首をゆっくりと横に振った。そんな彼女のことを、咲希がごめんと何度も呟きながらそっと抱きしめる。

 三宅さん、ずっと本音を隠しているとは思っていた。告白したときに精一杯の笑顔を作っていたと羽村に言われてからずっと。


「大好きだから、恋人として付き合いたくないんです。東京の大学への進学という羽村会長の目標を邪魔してしまいそうだから……」

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