第23話『メッセージ』
終礼が終わったとき、教室を出ようとする羽村に無理はするなと伝えると、彼は普段と変わりない様子で分かったと言うだけで教室を後にした。
明日香と常盤さんはいつも通り部活の方に行き、僕は咲希と一緒に下校する。
「羽村君、朝よりはマシになっていたけど、あまり元気がなかったね」
「ああ。羽村にとっては重大なことだったからね……」
それでも、羽村は今日も生徒会の仕事をするために、三宅さんのいる生徒会室へと向かった。三宅さんのいる中、いつも通りのことをしっかりとこなそうとする羽村は凄いと思う。彼が生徒会長で良かったと思っている。
「元気になるといいね。……前途多難な感じもするけど」
「……うん。三宅さんはこれまで通りの関係でいようと言ったそうだけど、生徒会室は何とも言えない空気に包まれそうだな」
「そうだね。生徒会の仕事はあるとはいえ、フラれた相手と一緒と同じ空間にいるっていうのは居辛いかも。それは三宅さんの方にも言えるだと思う」
「きっと、三宅さんも、羽村から告白されて色々なことを考えた上で返事をしただろうからね」
咲希に告白の返事を待たせている僕と違って偉いと思う。今も隣で歩いてくれて、時折笑顔も見せてくれる咲希に対して罪悪感が。
「もしかして、あたしの告白のことを考えてる?」
「……うん。告白した羽村も、それに対してすぐに返事をした三宅さんが偉いと思って。まだ僕は気持ちが固まっていないというか。待たせちゃってごめん」
「気にしないでいいよ」
そう言うと、咲希はその場で立ち止まり、優しい笑みを浮かべながら僕のことを見つめる。
「転入早々の告白も、試験前のあの日にしたキスも、翼のことが大好きだっていう意思表明だからね。ただ、翼に約束してほしいのは、いつになってもいいから、決断したことを翼の言葉で聞かせてほしいってことなんだ。その決断が、あたしと恋人として付き合うっていう内容だったら一番嬉しいけれどね。ただ、あたしが告白したことで翼を悩ませていたとしたら、本当にごめんなさい」
咲希は申し訳なさそうな表情をして深く頭を下げる。
「咲希が謝る必要はこれぽっちもないって。ただ、自分の想いを言葉にした羽村や三宅さん、もちろん、咲希も偉いなって思ってさ。僕もしっかりと決断して、咲希に伝えるから。いつになるか分からないけれど、咲希との約束はきちんと果たすから」
そのとき、咲希がキスしたときのはにかんだ顔と、僕の頬にキスをしたときの明日香の照れた顔が頭をよぎる。本当に……可愛らしくて魅力的な女の子達が側にいると思う。
「……うん、分かってるよ。その間もあたしらしく、翼と楽しい時間を過ごしたいって思ってる。さっ、今日もどこかでお昼ご飯を食べる?」
「そうだね。それで家に帰ったら受験勉強するかな」
「真面目だね、翼は。たまには、勉強はあまりせずに息抜きしてもいいんじゃない?」
「それもいいかもしれないね。でも、咲希とこうやって一緒に帰ったり、お昼ご飯を食べたりするのは楽しいしリラックスできるよ。あとは教室で明日香や羽村、常盤さん達と一緒に話しているときとか」
先月まではそれに加えてバイトをしているときが、受験勉強のいい気分転換にもなっていた。それは鈴音さんと一緒だったからかもしれないけれど。
「そう言ってくれるのはとても嬉しいな。もし、翼かあたしの部屋で2人きりだったら、今ごろ翼をベッドに押し倒しているところだったよ……」
「そうなったら、僕はベッドの上で咲希に何をされるのかな」
「それは、そのときになってみないと分からない……って、声に出ちゃってたの?」
「思いっきり出てたよ」
正直に事実を伝えると、咲希は見る見るうちに顔を真っ赤にして、
「ううっ、凄く恥ずかしい! 厭らしくてごめんなさい!」
そう叫んで思い切り走り始めてしまった。
僕もすぐに追いかけるけれど、思った以上に咲希の脚が速いので、追いつくまでに時間がかかってしまうのであった。
咲希と一緒にお昼ご飯を食べているときも、一緒に受験勉強をしているときも、羽村から連絡が来るかどうか何度も気になった。当然、それは咲希にも言えることで。ただ、昨日と同じように羽村から連絡は来なかった。
しかし、夕方に羽村の様子を気にかけていた松雪先生から電話がかかってきたので、事の顛末を簡潔に説明しておいた。すると、先生は「人生色々とあるものだな……」と落ち着いた口調で言って、先生も羽村のことを気にかけるとのこと。
明日、少しでも元気になっている羽村と学校で会えるといいな。今日観たアニメのこととか他愛のない話ができれば何よりだ。
7月11日、水曜日。
今日は昨日以上に雲が広がっており、陽差しは全く届いていない。雨は降らない予報になっているだけマシだけど、纏わり付くような蒸し暑さはキツい。
今日も明日香や咲希と一緒に学校へと向かうと、常盤さんがいたけれど羽村の姿はなかった。
「そっか……蓮見君のところにも連絡はなかったんだ」
「うん。連絡がないってことは、羽村なりに何とかやれているって信じたいけど……昨日は、フラれて傷心していたから連絡がなかったから、心配ではあるよ。一言でも入れるかべきなのかどうか迷って、結局声をかけられなかった」
「難しいところではあるよね。ただ、彼も普段通りの生活を送るようにするって言っていたから、あたし達が特に言わなくてもいいのかもね」
「……そうかもしれないね」
やはり、とりあえずは見守って、羽村から相談されたり、あからさまに様子がおかしかったりしたら、僕らが動けばいいのかな。
「ねえ、美波。何だかんだで羽村君のことを気にかけているようだけど、もしかして?」
「そ、そうなの? みなみん」
「いや、そんなことは全然ないから。あたしはクラス委員長だし、みんなで遊びに行ったり、旅行に行ったりする仲のいい男友達の1人ってだけだよ」
2年生までは明日香、常盤さん、羽村の4人で夏の旅行だけではなく、遊びに行ったりしたな。明日香や羽村の家だけではなく、常盤さんの家にも何度か行ったことがある。常盤さんの家は……豪邸だったな。
「あと、あたしにとっては、蓮見君も羽村君と同じポジションだから。だから、明日香も咲希も安心して大丈夫だからね」
「ははっ、そうなんだね」
「もう、みなみんったら……」
爽やかに笑う咲希と頬を赤らめて恥ずかしそうにする明日香。言葉一つでも受け手が違うだけでここまで反応が違うと面白いな。
――プルルッ。
うん? スマートフォンが鳴っているな。ただ、僕だけじゃなくて明日香達のスマートフォンも同じだ。
さっそく確認してみると、僕、羽村、明日香、咲希、常盤さんのグループトークに羽村からメッセージが1件入っていた。
『高熱と頭痛と鼻水と多少の喉の痛みがあるから、今日は学校を休む』
羽村、体調を崩してしまったのか。告白の結果によるショックで体にも影響が出てしまったのかな。
『分かった。松雪先生には僕らから言っておく。ゆっくりと休んで。お大事に』
というメッセージを送信した。それがきっかけになったように、明日香、咲希、常盤さんが羽村の体調を気遣うメッセージを次々と送信した。
「つーちゃん。羽村君、大丈夫かな……」
「体調を崩しちゃったからね。原因は……きっとあのことだと思う。今はゆっくりと休むのが一番だと思うよ」
「……そうだよね」
体調を崩してしまったけど、これで三宅さんと一時的にでも距離を置くことができる。体調を回復させるのが第一だけど、これをいい機会に気持ちの整理が少しでもできればいいな。
「はーい、朝礼やるから席ついてー」
気付けば、もう朝礼の時間になっていた。松雪先生が教室に来ている。
「松雪先生。さっき羽村から連絡があったんですけど、体調を崩したので今日は欠席するとのことです」
「うん、分かった。実はさっき、彼の親御さんからその旨の連絡があったよ。生徒会顧問にもそれは伝えたから大丈夫」
「分かりました」
きっと、羽村のことだから自分からも生徒会メンバーには欠席したことを伝えているだろう。羽村が体調を崩したことを知って、三宅さんはどう思っているのだろうか。
羽村のいない中、今日の授業が行なわれた。ただ、中には期末試験を返却する教科もあり、羽村が100点だったこともあって、欠席していても存在感を示したのであった。




