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第19話『電波男も青春男』

 例年とは違い、2018年の7月はとても暑い幕開けとなった。

 ロシアで開催されているワールドカップ。日本は決勝トーナメントに進出し、1回戦が期末試験1日目の未明に行なわれた。もちろん、鈴音さんも一緒に観戦した。告白とか色々あったけど、それまでと変わらず明るく元気な様子で安心した。

 未明の試合を観戦したことにより、興奮と眠気がある中で期末試験の1日目の科目を受けることになった。それはクラスの半分以上の生徒や松雪先生も同じ。先生なんて試験監督中に教卓でウトウトして、教卓や黒板に頭をぶつけていたほどだ。



 全体を通して期末試験はどの科目もよくできたと思う。ただ、羽村もいつも通りできたということなので、どんなに良くても僕は学年2位なんだろうな。常盤さんも不安な教科は一つもないとのこと。

 明日香や咲希は直前の勉強会の効果があったのか、赤点の心配をすることがないくらいにはできたようだ。芽依も僕の教えた数学がバッチリだったとメッセージが来た。みんな、何とか期末試験を乗り越えられたようで何よりである。

 期末試験の最終日の放課後は、打ち上げも兼ねてみんなでシー・ブロッサムへ。

 僕らが行ったときは鈴音さんのシフトが入っていた時間帯だったので、彼女の作った料理を食べた。料理はとても美味しく、接客も落ち着いてできていたので何だか感動してしまい思わず泣きそうになったくらいだ。元気にバイトをしているようで良かった。



 7月9日、月曜日。

 今日から19日までは授業が午前中のみになり、20日に1学期の終業式を迎える。

 1年生や2年生のときは期末試験が返却されるものの、授業が午前中だけであり、夏休み間近ということもあって気楽な時期だった。ただ、今年は受験生なので、早く学校が終わる今の時期も有効活用したいところ。


「桜海高校は期末試験が終わっても午前だけ授業があるんだね」


 朝、一緒に学校に来るや否や咲希がそんなことを言ってきた。


「そうだよ、さっちゃん。もしかして、さっちゃんが前に通っていた天羽女子にはそういう習慣はなかったの?」

「習慣っていう明日香の言葉選びには首を傾げるけど、僕も気になるな」

「そういえば、天羽女子にいたときも、東京の公立高校に進学した友達から同じことを訊かれたっけ。期末試験が終わったら、終業式や修了式までは家庭学習日っていう名前のお休みになるの。ただ、テストを返却する日っていうのが1日あって、その日に登校して期末試験の全教科を返却してもらうんだ。あたしは部活で基本的に平日は学校に来ていたけれどね」

「へえ、そうなんだ。じゃあ長期休暇はかなり長いんだね!」

「そうとも言えるね。うちの高校も1学期の期末試験は先週くらいにやったと思うから、夏休みは実質50日くらいあるかな」

「いいなぁ……」


 そんな有り難い日を設けている学校があるのか。ただ、家庭学習日という名の休日があったら、勉強はせずにバイトのシフトを集中的に入れただろうな。


「おはよう、みんな」

「おはよう、みなみん!」

「おはよう、咲希」

「常盤さん、おはよう」

「おはよう。今日も暑いね。明日香達、楽しそうに話しているけれど何を話しているの?」

「聞いて驚かないでね、みなみん。さっちゃんが前に通っていた天羽女子高校では、期末試験が終わると終業式の日まで、基本的に家庭学習日という名のお休みもらえるんだって!」

「へえ、それは羨ましいわね。もしそういう日があったなら勉強はあまりせずに、コンクールの絵を制作する時間に充てるかな」


 さすがは常盤さん。そういう時間も絵画に使うんだな。


「桜海の方は分からないれど、天羽女子を含めて神奈川や東京の私立高校は家庭学習日を設ける学校が結構あるよ。ただ、運動部を中心に、夏休みに開催される大会に出る予定のある生徒は学校に来て部活動していたけど」


 それで、咲希は水泳部の活動に参加していたと。それでも、授業がないというのはいいだろうな。もちろん、夏休みだけじゃなく、冬休みや春休みも2週間くらい長くなるだろうから。あぁ、羨ましい。


「でも、翼や明日香達と一緒に学校生活を送りたいから、試験後も授業があるのは個人的には嬉しいかな」

「……何だか、さっちゃんが眩しく見えるよ」

「そうね、明日香。咲希はとても偉いね……」


 どうやら、明日香や常盤さんも僕と同じようなことを考えていたようだ。常盤さんなんて咲希の頭を撫でているほど。


「おっ、みんな勢揃いだな。おはよう」

「おはよう、羽村」

「おはよう、羽村君。あのさ、さっちゃんが前に通っていた高校って、期末試験の後に終業式までの間、家庭学習日という名のお休みの日があるんだって」


 明日香、そんなにも衝撃的だったのかな。常盤さんだけじゃなくて羽村にも家庭学習日のことを話しているよ。


「へえ、それは魅力的だな。そういう日が何日もあったら、たまには漫画を読んだり、アニメを観たりする日を設けたいものだな」

「やっぱり、自分のやりたいことや好きなことをする時間にするか」


 それでも、3年生になると受験勉強を中心にやるんだろうな、きっと。


「そうだ、俺からみんなに相談したいことがあるんだ」

「相談したいこと? もしかして、今年も常盤さんの家の別荘に行くこととか?」


 1年生と2年生の夏休みは、僕と明日香、美波、羽村、芽依の5人で常盤さんの家の別荘へ旅行に行ったのだ。海のすぐ側にあるので、みんなで遊んだりしたっけ。去年、別荘から帰るときに、3年生になったら受験もあるし行くかどうか微妙だね、とは話していた。


「リフレッシュもいいと思うし、勉強会とかを兼ねて行きたいなら、あたしから両親に言っておくけど」

「ちょっと待って。翼も美波も何を言っているの?」

「そっか、さっちゃんは知らないよね。一昨年と去年の夏休みに私とつーちゃん、みなみん、羽村君、めーちゃんの5人で、みなみんのお家の別荘に泊まりがけで遊びに行ったの。去年はめーちゃんが受験生だったから、みんなで夏休みの課題やめーちゃんの勉強を教える時間も作ったりしてね。今年は行くかどうか微妙なんだけれど」

「そうなんだ。それは楽しそうなイベントだね。いいなぁ。あたしは部活中心の夏休みだったな。それでも、うちの学校の方針で、課題をやらせるために終盤は部活もあまりなかったけど。もし、今年も行くことになったらあたしも参加していい?」

「もちろんだよ、さっちゃん!」


 咲希が加わったら、面白そうな夏の旅行になりそうだな。常盤さんの言うように、受験勉強にはリフレッシュも必要だと思うし、勉強合宿を兼ねて行くのもアリなんじゃないかと思う。


「夏の旅行については塾とか部活とかそれぞれの予定もあるだろうし、また後日ゆっくりと考える機会を設けよう。今、ここで相談したいことは俺個人のことなんだ。いいだろうか?」

「もちろんだよ、羽村。まずはどんなことなのか、話を聞かせてほしい」


 この様子だと趣味関連ではなさそうだし、もしかして進路のこととかかな。以前からずっと東京にある大学を第一志望に考えていたけれど、桜海大学も考えるとか。

 すると、羽村は少しの間黙った後、


「俺……実は好きな女子がいるんだ。俺のことだから画面の向こうにいる子なんだろうとか思っているだろうが、それは違う。実際にいる女子だ。そして、その子に告白したいと思っている」


『えええっ!』


 あまりにも意外なことだったため、思わず大きな声を挙げてしまった。それは明日香達も同じようで。

 二次元の女子を愛してやまない羽村が、まさか三次元の女子を好きになるとは。明日くらいに雪が降るんじゃないだろうか。そのくらいに信じられないことなのだ。


「まさか、みんなにそこまで驚かれるとは。さすがに恥ずかしいな」


 そう言ってはにかむ羽村が偽者に思えるほど。

 10年ぶりの咲希の帰郷、鈴音さんからの告白に続いて、今年の夏はまだまだ思いがけないことが起こるのか。期末試験が終わったから、もう夏休みは目の前だと思っていたけど、どうやらそうではなさそうな気がしてきたのであった。

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