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第12話『キャンパス-前編-』

 6月16日、土曜日。

 今日は鈴音さんと一緒に桜海大学のキャンパスへ行くことになっている。天気は曇りだけど、雨が降る心配もないし、弱めだけど風もあるので過ごしやすい。


「今日はキャンパス日和だね!」

「そんな言葉は初めて聞いたよ、さっちゃん。でも、雨は降らないみたいだからキャンパスを回るにはいいかもね」

「曇っているから暑くもないしね。そう考えれば、咲希の言うようにキャンパス日和なのかもしれない」

「風が気持ちいいよね。でも、翼……ジャケットなんて着て暑くないの?」

「うん。通気性抜群だから風が吹けば、清々しくて気持ちいいくらいだよ」


 この黒いジャケットは、バイト代で初めて買った服だから特にお気に入りだ。真夏や真冬以外の時期にはこれを着て出かけることが多い。

 鈴音さんとは午前10時半に桜海駅の改札前で待ち合わせをすることになっている。羽村は最寄り駅が桜海駅ではないけど、桜海大学の最寄り駅までの間にある駅なので途中で合流する。


「桜海大学のキャンパスってどういうところなんだろう? 翼と明日香は去年のオープンキャンパスに行ったんだよね?」

「ああ。最寄り駅が桜海大学前駅っていうだけあって、駅から直結しているんだよ。ここら辺にある文系の国公立大学は桜海大学くらいだから、オープンキャンパスのその日は人が滅茶苦茶多かった」

「そうだったね。私、小さい頃ほどじゃないけれど、道に迷うことあるから、ずっとつーちゃんの手を繋いでいたな。ちなみに、キャンパスは綺麗だったよ。説明会もドラマや漫画みたいに、とても広い階段教室でやったんだ」


 そういえば、とても綺麗なところだったな。敷地も広いんだろうけど、人がたくさんいたせいかそんな実感はなかった。ただ、階段教室を含めて、さすがに高校までとは雰囲気が全く違うところだと思った。


「へえ、そうなんだね。何だか羨ましいな、明日香」

「そうかなぁ」

「だって、翼と一緒に桜海大学のキャンパスに行って、ずっと手を繋いでいたんだよ。羨ましくて仕方ない」

「ふふっ、そっか。小さい頃は一緒に出かけるときはいつも手を繋いでいたし、迷子になりたくなかったから。つーちゃんの方から手を繋いでくれたよね」

「……いいなぁ、いいなぁ」


 咲希から羨望の眼差しを向けられる明日香は嬉しそうに笑う。

 そんなことを話していると桜海駅が見えてきた。待ち合わせ時間の数分ほど前だけれど、鈴音さんはいるだろうか。


「あっ、翼君! 咲希ちゃん! 明日香ちゃん!」


 黒いノースリーブの縦セーターを着た鈴音さんが、僕らに向かって手を振っていた。服装のためか、いつもよりも大人っぽくて艶やかに見える。


「鈴音さん、今日は誘っていただきありがとうございます!」

「いえいえ。それに、授業のある時期は一般の方も自由に来てもいいからね。キャンパスの雰囲気を味わってくれると嬉しいな。咲希ちゃんはひさしぶりに桜海に帰ってきたから初めてだと思うけど、翼君や明日香ちゃんは?」

「去年の夏のオープンキャンパスに明日香と一緒に行ったんですけど、人がたくさんいたこともあって、キャンパスの中をただ歩いただけになったというか」

「あたしも夏休みのオープンキャンパスに行ったんだ。人多かったよね。じゃあ、あたしが行った日に2人がいたかもね」


 去年……鈴音さんは高校3年生か。そう思うと1年ってあまり差がないように思えるけれど、高校生と大学生ってだけで鈴音さんが大人の存在に思える。


「そういえば、翼君。ジャケットを着ていて暑くない? あたしがノースリーブを着ているからかそう思えて」


 やっぱり、6月の半ばに黒いジャケットは暑苦しいのかな。


「通気性抜群なので、今日みたいに曇っていて風もあれば過ごしやすいですよ。鈴音さんは涼しげで可愛らしいですね。今のような服を着るのは珍しいような気がします」

「もう夏だし、暑い日も増えてきたからね。それにあたしは暑がりだから。でも、いつも見ていてくれるんだね。嬉しいな」


 その言葉通りなのか、そう言うと鈴音さんの頬が赤くなる。心なしか彼女の方から熱が伝わってきているような。


「……明日香やあたしはどう? 好きな人には可愛いって言われたいっていうか……」

「その言い方だと、何だか私までつーちゃんのことが好きみたいじゃない。あっ、えっと……つーちゃんが嫌いなわけじゃなくて、その……」


 明日香、あたふたしているよ。


「2人ともよく似合っているし可愛いよ」

「ありがとう、翼」

「つーちゃん、ありがとう」


 明日香のあたふたも何とか収まったか。今のような明日香はひさしぶりに見た気がする。


「ちょっと待って。咲希ちゃん、翼君のことが好きなの?」

「ええ。でも、恋人として付き合っているわけじゃないですよ。再会したときにあまりにも嬉しすぎて、気持ちをさらけ出したというか。今でも好きだという表明って言うんですかね」

「そ、そういうことね。咲希ちゃん積極的だなぁ」


 そっかそっか……と、鈴音さんは何度も頷いていた。バイトじゃないからか、今日の彼女は感情豊かになっている気がする。


「羽村君を待たせちゃいけないし、そろそろ行こっか」

「はい」


 僕らは鈴音さんと一緒に桜海大学へと向かい始める。

 桜海駅から、桜海大学の最寄り駅である桜海大学前駅までは各駅停車で15分ほど。電車に乗るのが慣れていない僕にとっては、このくらいの時間がちょうどいい。

 羽村に僕らが乗っている車両をメッセージで伝え、彼の家の最寄り駅である桜海川駅で無事に落ち合うことができた。


「今日は雨が降りそうにないから良かったよ、蓮見」

「ああ、そうだな。これから行くのはイベントじゃなくてキャンパスだから、あまり興奮しすぎるなよ」

「任せておけ。今日は妄想を楽しむつもりだ」

「頼むぞ、学年主席」


 妄想が過ぎるときもあるけど、節度ある行動ができる男であると信じている。


「そういえば、羽村君。この前、喫茶店に来てくれたとき、今みたいに男子2人女子3人の組み合わせだったけれど、みんな生徒会のメンバーなんだよね」

「ええ。みんなそれぞれの仕事を頑張ってくれています。信頼できるメンバー達です」

「そうなんだね。ちなみに、そういうのだと、生徒会のメンバー同士で付き合っているとかあったりするの?」

「それは……ないですね。ただ、副会長の男子が後輩の女子生徒と付き合っていますが」

「なるほどね。ちなみに、羽村君は気になる子とかいるの?」

「みんな可愛い女子生徒だと思っていますよ」


 羽村の場合は、女子同士で惹かれあっているかどうかの方が気になるんじゃないだろうか。あと、鈴音さんはあのとき、羽村達のことを見ながら生徒会の恋愛事情について考えていたのか。


「まったく、鈴音さんは。仕事に支障が出ていないからまだしも」

「翼君の友人だからかつい。いや、その……前に生徒会に入っている男子と女子の恋愛小説を読んだことがあって」

「宮代さん。もしかして、その小説というのは……」


 すると、鈴音さんと羽村はその恋愛小説の話題で盛り上がる。何人かの男女を見て恋愛事情を想像する鈴音さんに、女性同士で仲睦まじくしているのを見ると妄想してしまう羽村……そう考えると、2人って似たもの同士なのかもしれない。


「女性とあんなに楽しそうに話す羽村君って珍しいね、つーちゃん」

「ああ。明日香達や生徒会メンバー以外では全然見ないなぁ」

「でも、好きなことを楽しく喋ることができるのって素敵だよね」


 咲希の言うとおりだな。それに、親友が楽しそうに喋っているのを見ると自然と僕まで楽しい気分になれる。

 それから程なくして、電車は桜海大学前駅に到着する。去年、明日香と一緒に来たときには人がたくさんいたけど、今日はそこまで人がいないな。

 改札を抜け『大学正面口』と名付けられた出口を出ると、すぐそこに桜海大学のキャンパスが。講義やサークル活動があるのか、学生らしき人が何人も桜海大学のキャンパスへと向かっている。


「ほぉ、桜海大学……なかなか立派そうなキャンパスじゃないですか」

「広くて立派だよ、羽村君。入学して2ヶ月ちょっとだから、まだまだ知らないところもあるんだけどね」

「とっても広そうですもんね、鈴音さん。さっ、行きましょうよ!」

「うん、そうだね!」


 一番楽しみにしている咲希は鈴音さんの手を引いて、桜海大学のキャンパスに向かって歩き出す。何だか来年以降、先輩と後輩という関係で一緒に歩いていそうな気がする。


「何と、ここにも美しき百合の気配が……」


 羽村、さっそく妄想しているな。妄想のし過ぎで熱中症とかにならなければいいけれど。


「さっ、私達も行こうか、つーちゃん」

「そうだね。去年みたいに手を繋ぐ?」

「別に、去年みたいに人がたくさんいるわけじゃないけど……ふ、2人だって手を繋いでいるもんね。私達も……繋ごっか」


 そう言うと、明日香は僕の手をしっかりと握ってきた。緊張しているからなのか彼女の手は熱く、震えていた。


「じゃあ、行こうか。つーちゃん」

「そうだね、明日香」


 僕らも桜海大学のキャンパスへと歩き始める。

 しかし、僕と明日香が手を繋いでいることを、咲希達にすぐにバレてしまった。迷子にならないためだと言うと、咲希も僕の手を繋ぐことに。羽村や鈴音さんは両手に花だと笑ってくれたけど、何だか恥ずかしくなってきてしまったのであった。

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