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結後の巻

これはあの日の記憶。サイユウ村を桃太郎と共に襲った剛鬼達の、そのきっかけになった日の記憶。


その日、剛鬼…いや…ゴウ達は目の前に現れた二人の男に言葉を失った。突如何もない空間から現れた二人は3人に「お前らを導きに来た」と言うのだ。得体の知れない人物達に3人は身構えたが、一人が「私は神の弟子だ」と言った。


「まさか伝説の宣教師サイユウ様?」


ゴウ達が住むサイユウ村という村の名前は、遥か昔村に降り立ったサイユウという神の弟子の名をもらい名付けられている。その後共に現れた神様によって今の教えができるのだが、サイユウはある意味村の基盤を作った人物として伝説の宣教師と言われ崇められていた。


「いや…違う。私はヨクサイ。海の向こうの島にある村の基盤を作った男だ」


3人は神が真の教えを話した日、二人の弟子と共に現れたという言い伝えを思い出した。つまりこの人は…


「あんたは神様と共に現れたサイユウ様と同様、その時の弟子の一人ということか」


「そうだ。ヨクサイ様と呼べ」


「……形式だけサイユウ様と様をつけてるだけだ。俺達はこの村の教えがきらいでね。本当は他人に様なんてつけたくないのさ。なぁ?」


頷くライとフウを見て、ヨクサイはニヤリと笑った。副産物はいい感じに実っている、そう確信したのだ。


「…じゃあ、隣のそいつは?」


ゴウが尋ねると、黒いローブに覆われた男がニヤリと笑った。その笑いは薄気味悪く、顔にある長い傷も相まって3人は少しばかり寒気を感じた。


「この人は私の協力者さ。お前らの協力者でもある」


「は?」


3人が顔をしかめるとヨクサイがある話を始めた。それは強欲な3人にとってとても興味のある話だった。


「私は先ほど海の向こうの島にある村の基盤を作ったといったな」


「ああ」


「あの村は今でこそ表面上は真の教えを信仰しているが、元は私の教えを信仰していた。実は今も変わっていない。心のそこでは私の教えを信仰し表面上では真の教えを信仰している。下手に神の逆鱗に触れて強さを奪われたらこまるからな」


「強さ…この村の連中はみんな強いがあっちの村の連中も強いのか」


「ああ」


ヨクサイは過去に起きた事を3人に全て説明した。3人はそりゃあ表面上でも信仰しなきゃなと笑った。


「実は時々ヨクサイ村の奴らは争いにでかけている。少人数でチームを組み、ヨクサイ村の出身だと隠して争いに参加するんだ。ヨクサイ村の人間が争いに出かけるのを神に気づかれないようにしてくれているのがこの人」


ヨクサイはそう行って黒いローブに覆われた男を指差した。


「彼には彼なりに目的があって動いているそうだが、ある時手を組むことになってな。今回の作戦に協力してくれることにもなっている」


「へぇ、作戦ってのは?」


「…その前に、お前ら本当にこの村の信仰が嫌いなのか今一度確認したい」


「ああ嫌いさ。それだけじゃねぇっ、村人全員が嫌いさなのさ」


「ほぅ」


「あいつら人間としてできすぎてるんだ。真の教えの通り皆手を取り合い、自分の意思をしっかりもってる。しかも強いと来たもんだ。完璧じゃねぇか…そんな奴らは好きになれねぇ。何が皆手を取り合うだ。バカか?欲しいものは全部自分のものだろうが」


「ふふ…お前らはヨクサイ村に生まれたらよかったな」


ヨクサイがそうはいってるが、3人がサイユウ村で生まれたのは彼の作戦。どこまでも嫌な奴だった。


「そうだな…本当、運命とは皮肉だ。俺たちの父親は元ヨクサイ村の出身なんだ。突然追い出されてこの村に来たらしいが…親父が向こうにいられれば俺たちも向こうで生まれたかもしれないのによぉ」


母親が違うからそれはないだろ?それに3人は副産物の結晶、ヨクサイ村にいたままじゃ生まれない。ヨクサイはそう思ったが言わなかった。


「それで作戦ってのをはやく教えてくれよ」


「…それはこの村の人間を皆殺しにすること。一人残らずな…」


3人は驚いた。まさか皆殺しとは…。


「皆殺し…親父もか?」


「そうだ。お前達3人以外全員だ」


3人は悩んだ。村人達は嫌いだが殺すまでは…。しかも父親まで…。母親はだいぶ前に病気で死んでしまった、だからこそ父親は最後の家族…母方の祖父母も死んでいる。


「それは…」


悩む3人にヨクサイはある餌さをぶら下げる。


「俺が昔地上に降りて教えを村人に伝えた時、神器という道具を作った。それはこの村に降りたサイユウも同じ。この村が大切に奉っているものがあるはずだ」


「ああ…社に大きな玉がおいてある。神秘的でよぉ、触れれば動物に化けれるすげぇ玉だ」


「そう。それがサイユウが作った神器。お前達はその神器の力を使い今何をしている?」


「鳥や犬とコミュニケーションをとってるな…ほんとは熊とかライオンとかに化けれれば面白いんだがな」


「ふふ、その神器は実はな、サイユウによってある制限がかけられている。だからこの村の人間を皆殺しにすればその制限を解いて神器をお前達にくれてやる」


「まじかっ。そもそも制限ってのは何だ?」


「強い生き物に変身できなくする制限。つまりこれを解けばお前らの望む熊やライオン…いや…それ以上に強力な生き物に変身ができるんだ」


3人はヨクサイの言葉に顔を輝かせます。


「本当は今すぐ解いて暴れさせてやりたいが…私には制限や結界を解くという力がない。悲しいことに壊すという力をもてない。だからこの人がそれを解いてくれる」


黒いローブに覆われた男はニヤリと笑い口を開いた。


「目的を達成できれば必ず制限を解いてやる。だから私達の作戦通りにきちんと動くんだ。そうすればお前達の欲する物が全ててにはいる、そんな力を得る事ができるんだ」


「うぉぉおおお」


愛が欲に負けた瞬間でした。神は黒いローブに覆われた男によってまだこの事態に気づいていない。3人の父親が村を追い出された理由もこの黒いローブに覆われた男が隠した。ゆえに男が追い出されたのは何か村内での人間関係があっての事と思っていたのだ。男がサイユウ村で村の女と結婚式を挙げたのを知った神は驚いた。遂に禁忌を破ったかと…。しかし二人が結ばれたのは正真正銘の愛の力、神は止める事ができなかった。そして愛の力があればきっと厄はこないと願っていた。が、今、愛は欲に負けた。親子の愛を欲が打ち負かしたのだ。


「わかった。それで俺達は何をすればいい?さすがに俺達が村人を皆殺しにするのは不可能だ。言ったろ?この村の人間は強いって」


「わかっている。この人が神器の制限を解く条件は村人を皆殺しにした後。だから村人を皆殺しにできるくらい強い奴が必要だ。そこでさっき話した副産物を利用する」


「あんたが『はち』の生き方を『じゅう』まで考えたっていうあれか」


そう。サイユウは1つのヨクサイは2つの間違いをした。1つ目の間違いは同様に『はち』を見た時、それぞれ片方しか見なかったこと。本当なら『8』と『八』の両方をみないといけないのだ。そうすれば神の真の教え『8のように手を取り合い、そのために八のように話し合う』となったのだ。そしてヨクサイの2つ目の間違い、『十』まで考えたこと。これが副産物を生んだ大きな危険をはらんでいたのだ。


「この村で一番欲のない女を拐ってヨクサイ村に連れてくるんだ」


『じゅう』を考えた事で生まれた副産物それは…生まれた子どもに影響してしまう異変。ヨクサイは『八』の生き方を考え『十』の事まで考えた。これは欲がでてその先を欲したという事。ヨクサイ村の人間はその教えを信仰した事により心と身体に変化が生じたのだ。


もし、ヨクサイ村の人間が村の外の人間と結ばれたいという欲がでて結ばれた場合、その子どもに異変が発症してしまう。それは『十』を互いに貫き合っていると考えたことに起因した。『十』は2本の線が貫き合っているが、互いに均衡した力で貫き合っているため真ん中で止まっている。2本の線は心と身体、つまり心と身体が均衡しているということだ。だが村の外の人間と結ばれたヨクサイ村の人間がその均衡が崩れている人間だったら…つまり心の方が弱すぎる、もしくは身体の方が弱すぎる人間だったら生まれてくる子どもに異変が出るのだ。均衡を保とうと弱さを補おうとし、欲がさらにそれを加速させる。つまり、心が弱ければ弱いほど心が強い子どもが生まれ、身体が弱ければ弱いほど身体が強い子どもが生まれるのだ。そしてヨクサイは神の真の教えを聞いた後『10』も考え、影でヨクサイ村の人間に伝えた。つまり、1と0は心と身体。故に結ばれた村の外の人間から0の部分を取り込んでしまう。どういうことかというと…


心が弱いヨクサイ村の人間と村の外の人間が結ばれた場合。心が強い状態で生まれ、村の外の人間のもつ身体の部分を取り込んだ子が生まれる。


身体が弱いヨクサイ村の人間と村の外の人間が結ばれた場合。身体が強い状態で生まれ、村の外の人間のもつ心の部分を取り込んだ子が生まれる。


ヨクサイ村にとって身体の強さとは戦闘力、心の強さとはいかに欲が深いか…それゆえ欲のないヨクサイ村出身の父親から生まれたゴウ達3人は恐ろしく強欲なのだ。


「…なるほどな。つまりこの村で一番欲のない女とヨクサイ村で一番戦闘力の弱い男が結ばれれば、戦闘力が異常に高く欲のない子どもが生まれるわけか」


「そうだ。欲がないとは自分の意志がないと同じ、あっというまに洗脳してこの村の人間達を殺すように仕向けられる。しかもヨクサイ村の村長夫婦とは話がついている。だからこの作戦は上手くいくさ」


こうしてゴウ達3人は村で一番欲のない女を拐い、ヨクサイ達の力を借りヨクサイ村に運んだのだった。


そしてその作戦の下生まれたのが『桃太郎伝説』の桃太郎であり現在シンと名乗るあの男なのだ。ヨクサイ達の予想通り強かった。サイユウ村の豪傑達を瞬く間に殺してしまうほどに…。


ただ1つの誤算があったとすれば拐ってきた女と結ばれた男が、その女を本気で愛してしまったこと。殺せと言われた男は村長夫婦に崖から落としたと嘘をつき地下にかくまった。ヨクサイと黒いローブに覆われた男は気づいていたのだが、黒いローブに覆われた男がこれでいいといったためその件に触れる事はなかった。そして後にシンの弟である桃太郎を生む事になるのだ。


無事に子が生まれ神の授けた子として洗脳していると聞いたゴウ達3人は、黒いローブに覆われた男に頼まれた別件の仕事をしながら神器を手に入れた後の事を考えていた。


「強い人間と戦いまくりたい」


戦闘狂のライが言う。


「私たちの存在を世に知らしめたい」


自尊心の高いフウが言う。


「この世の全ての物が欲しい」


恐ろしく強欲なゴウが言う。


3人は話し合った。そしてフウがある提案をする。伝説を世に広めたらどうか?と…。ヨクサイ村の村長夫婦が行っている洗脳、ゴウ達が頼まれた別件の仕事、そしてこれから起こるであろうサイユウ村の悲劇。これらを元にして『桃太郎伝説』を作ったのだ。


「この伝説を広めればバカが財宝に目をくらませきっと戦いを挑んで来るでしょう。ライ兄さんはそいつらとの戦いを楽しみ、鬼として私たちの名は世に広まる。倒した相手から身ぐるみはいで奪えば一石三鳥という訳です」


フウがそう説明するとゴウとライは嬉しそうな顔をした。


「しかし、鬼を倒したって広めるのに現実では鬼が暴れまわってるのは皮肉が聞いてるな。がっはっはっはっ」


「ええ、それにきびだんご1つでお供をする3匹の動物なんてバカバカしいでしよ?でもそんなバカバカしさが世に受けるんです」


3人は大笑いしながらその時が来るのを待った。


そしてその日はついに来る。ヨクサイと黒いローブに覆われた男が3人の前に現れそれを告げた。


「やっとか…15年以上…長かった」


「その間に他の頼みを聞いて貰って悪かったな」


「いや…かまわないさ。それよりここまで待ったし協力もしたんだ。神器の方は頼むぜ」


「ああ。約15年かけて私の探し物を手伝ってくれたんだ。礼はする」


そう、別件の仕事とは黒いローブに覆われた男のもの探しの手伝い。時には猿になり木に登り探し、時には雉になり空を飛び探し、時には犬になりその嗅覚で探した。そして残りの探していない場所はあと少し。


「今回の作戦が終わっても見つけるまでは手伝う。どうせあと少しで見つかるし俺たちもそれがなんなのか知りたい」


「ふふ…助かるよ。昔に私の大事な物を隠されてね、私では手が出せなかったんだ」


そうしてゴウ達3人は3匹の動物に化けヨクサイ村の海岸に向かいます。「猿、雉、犬の姿でいきましょう。伝説を彩るのにピッタリだ」フウの提案でした。


そしてサイユウ村を襲った桃太郎とゴウ達3人。途中、ゴウはあえて変身を解き、自分たちを探し回る父親の前に現れそして殺した。…自分の手で殺す。それは彼なりのけじめのつけかたなのかもしれない。


サイユウ村が滅び桃太郎とヨクサイ村の村人達が財宝を持って帰っていったあと、神器の前に集まった3人はヨクサイと黒いローブに覆われた男を待った。しかしそこに現れたのは一人だけ。


「ヨクサイはどうした?」


「彼は神に捕まった」


「は?」


「私が結界を解いた瞬間、異変を感じた神が飛んできてね、捕まってしまったんだよ」


「よくあんたは捕まらなかったな」


「私が神になんか捕まるわけない。ふっふっふっ。その神器をヨクサイ村の村人が持っていかないように私が守ってたんだ。感謝してくれよ?」


「わかってるよ」


そして3人の望み通り黒いローブに覆われた男は神器の制限を解いた。さっそく熊やライオン、天狗や巨人に変身してみる3人。


「こいつはすげぇ」


「あとは私の探し物だ」


「わかってる。そいでよ…」


3人は考えていたあることを話す。それはヨクサイ村を滅ぼすこと。ヨクサイ村を滅ぼし全ての財宝を手に入れようと思っていた。


「ふっふっふっ。いいだろう。ヨクサイ村の結界も解いてやろう」


「わりぃな。探し物はきちんと見つけるからよ」


そうしてその日の朝にヨクサイ村を滅ぼしに向かったのだ。


「到着〜と」


そして現在、鬼ヶ島に降り立った剛鬼は女と男を檻の中に放り込んだ。


「…ん?お前…どこかで見た気が…」


檻の中の女を見て剛鬼は首をかしげた。この雰囲気…どこかで。そして気づく、約30年前にサイユウ村で拐った女ににていると。


「まさかお前…あの時の女か?…生きてたのか…じゃああいつは」


剛鬼は理解した。拐った女は生きていたのだと。一緒に檻の中に放り込んだ男は夫で、あの桃太郎は新たに生んだ子なのだと。


「なるほど。あの傷で生きてる訳がないと思ったんだ。つまり今の桃太郎はあの時の桃太郎の弟になるわけだ。つくづく罪な奴等だ、兄と同じ死の運命を辿らせようとは」


二人の胸に剛鬼の言葉が突き刺さる。剛鬼のいう通り息子に辛い思いをさせていた、自分たちは何をしているのだと…。ただ、兄の方も生きてはいるが…。


「確かに私たちは親失格です。しかし桃太郎の心は大きく成長しました。あなたになんか負けません」


「ほーぅ。面白い」


剛鬼は椅子に座ると大声で笑い、桃太郎の到着を待ったのだった。


場所は変わり町の中、目の前で両親を連れ去られた桃太郎はだいぶテンパっていた。しかしそんな桃太郎をほってシンはその場を離れようとする。


「兄さんっ。どこに行くんですか?」


「あ?酒を飲みに戻るんだが?」


「なっ、何を言ってるんですかっ。助けにいかないとっ」


シンは不機嫌そうに「嫌だね」と答えた。桃太郎は両親と兄が会話をしてなかった事に気づいた。


「二人が嫌いなんですか?」


「…ああ嫌いだね」


「なぜ?」


「…そりゃあ決まってる。俺と同じ思いを腹の中にいた子供にさせようとしたからさ。俺はあの時やめろと言った。なのにあの二人はきっとこの子は将来鬼退治にいくはずですって聞かなかった。親として失格さ」


「…」


「そんな奴等を助ける義理はないね」


「それでもあなたの親だっ」


桃太郎の大声にシンは足を止めた。


「…ちっ。親だからなんだってんだ」


「愛がある」


「愛…はっ…はっはっはっ……はぁ」


シンはため息をつくと「そりゃ本心から嫌いになんてなれないさ」と言った。「だがこの体じゃ鬼に勝てない」とも。


「50代の体で勝てるわけないだろ。しかも年齢を変える神器は壊れちまった。行きたくても行けねぇんだよ」


シンの言葉に桃太郎は懐からある袋を取りだした。それは剛鬼から逃げる直前に猿から受け取った物。


「ここにきびだんごが3つあります」


「は?」


「このきびだんごには神器の力から守る力がある。そして一生に一度怪我を治す力もある」


「それって」


「はい。兄さんの怪我を治した神薬がはいっています。これがあれば元の歳にもどれますよ」


「しかし…」


「俺はまだ一度も神薬で怪我を治していません。だから瀕死の怪我を負っても一度は全快します。そこで兄さんにはサポートでいいんで協力してほしいんです」


「妥協案ってことか…」


桃太郎はニヤリと笑った。それを見たシンもニヤリと笑う。二人は握手を交わした。今、2人の桃太郎が手を取り合い1つになったのだ。


きびだんごを食べたシンは30代の体へと戻っていく。


「遅かったか」


何者かの声に二人は振り返った。そこには白髪の老人の姿が…神だった。


「結界が破れたんで急いで来たんじゃが…すでにお主らの両親が連れ去られてしもうたようじゃな」


「はい。だから鬼ヶ島に助けに行きたいんです」


「うむ。ワシに任せい」


神はそう言うと大きく息を吸い込み吹き出した。神の口から煙のようなものが出て1ヶ所に固まる。


「それとシンよ、武器の刀じゃ…よく斬れるぞ」


「へっ…わりぃな。ありがたくいただくよ」


二人は煙の塊に乗り、颯爽と鬼ヶ島に向かっていった。


(結界を解いたのはやはりやつじゃろうな…いったい何を考えておる)


そう。あの時桃太郎が突拍子のない事をいい始めたのは前に感じた視線と同じ視線を感じたから。さらに今回は何か嫌な感覚があったのだ。


鬼ヶ島に到着した二人は檻の中に入れられた両親に驚いた。だがそれ以上に驚いたのは剛鬼の方、(もう1人は誰だ?)見たことのない30代くらいの男が桃太郎の横にいる。さっきのおっさんと似てる気もするしどこかで見た気もする。


「お前何者だ?」


剛鬼の問いかけにシンはニヤリと笑い「久しぶりだな」と言った。その瞬間、剛鬼の体に電流が走り、その男が桃太郎だと気づいた。


「桃太郎…お前生きてたのか…」


「今はシンって名前で生活しててね」


「…シン…ねぇ。たくっ、どうなってんだ」


剛鬼は戸惑ったがあれこれ考えるのをやめた。そして「殺すのみ」そう言ってニヤっと笑った。


「さしずめ天狗ってところか」


剛鬼の姿を見たシンが言う。しかし剛鬼は椅子の側に置かれた大きな玉に向け歩を進め触れた。


「天狗の力じゃあ心もとないな。それに弟達も死んだことだ、あいつらの力も貰うことにしよう」


ニヤリと笑うと天狗から姿を変えていく。三面六臂の化け物へと姿を変えた剛鬼はその6本の腕の内上2本を空に、下2本を二人に向けた。3つある顔の正面の顔は剛鬼の顔だが、右の顔は雷鬼、左の顔は風鬼に面影があり、まるで三人が合体したかのような姿をしていた。


「阿修羅の力思いしれ」


突如空が漆黒の雷雲で覆われ、二人の体を縫う様に風が吹き荒れ始めた。


「雷鬼と風鬼の力を?」


「がっはっはっはっ。欲しい物は全て俺の物だ。しかも俺が使えばさらに強くなる」


剛鬼が上の腕2本を降り下ろすと巨大な雷の線が二人に降り注いだ。更には下の腕2本を振り抜き巨大な鎌鼬を二人に放つ。


「「おらぁ」」


二人はおもいっきり刀を振り抜き雷と鎌鼬をかき消す。そして一気に剛鬼へと詰めよりその体へと刃を下ろした。が、


「まじか?」


「がっはっはっはっ。真剣白羽取り指バージョン。これでもサイユウ村では1・2を争う豪傑だったんだぜ?」


驚く事に中の腕2本でそれぞれの刀をつかんでしまう。しかも親指と中指で真剣白羽取りをしているのだ。


「化け物かっ」


「がっはっはっはっ。化け物だよ。強い人間が変身すれば更に強くなるんだ」


すかさず上の腕で顔を下の腕で腹を殴ろうとするが、二人は軽やかにかわしてみせた。


「身軽なやつらめ」


二人は一度、剛鬼から距離を取って体勢を立て直した。


「兄さん…作戦があります」


「作戦?」


桃太郎はシンに耳打ちをした。シンはニヤリと笑うと桃太郎の後ろに姿を隠すように重なり二人は剛鬼に向かって走った。


「ショボい作戦だなぁ」


鼻で笑いながら鎌鼬を何発も放つが桃太郎がそれを全て防ぐ。雷を何発も落とすがそれすらも桃太郎1人で防いで見せる。


「てめぇのほうがよっぽど化け物じゃねぇかっ」


「お褒めの言葉をどうもっ」


桃太郎が剛鬼に刀を降り下ろすが、剛鬼は先ほどと同じ様にその刃を掴もうとした。


(ん?)


刃を掴もうとする剛鬼はある異変に気づく、桃太郎の後ろにいたはずのシンがいない…。


(まさかっ)


剛鬼はとっさに神器の方に顔を向けた。


「この野郎っ」


なんとシンが神器を触りに向かっていたのだ。桃太郎の作戦はシンも神器を触って変身する事。もともと強いシンが変身すれば剛鬼に勝ち目はない。


「触るんじゃねぇ」


急いで止めようとする剛鬼の背中に激痛が走る。桃太郎に切られていたのだ。だが、剛鬼はそれを無視してシンが神器に触るのを阻止しようとした。


バリンッ。ガラスが砕けるような音がして桃太郎は音の方に目を向けた。


「兄さん…どうして…」


桃太郎の作戦ではシンが神器を触って変身するはずだった。だが、シンは変身などせず神器を叩き割っていた。


「わりぃな桃太郎。俺は化け物に変身なんかしたくないんだ」


「でも…」


「いいじゃねぇか。結果剛鬼にダメージを与えたんだ。俺は化け物になんかなりたくねぇんだよ」


「妥協案ですね」


「そうだ」


「…てめぇらぁ…よくも俺の神器をっ」


剛鬼の3つの顔はみるみる紅潮し、鬼の形相へと変わっていった。


「わりぃな。もうお前は人間に戻れねぇ。まぁそもそもここで俺達に倒されるけどな」


何度も殴りかかる剛鬼の拳を素早くよける。


「6本の腕も能力も上手く扱えてねぇぞ。欲張って使いなれてない力を手にするからだ」


「うるせぇっ」


「いくぞ桃太郎ぉっ」


「はいっ」


右、左、と刀を振り抜き剛鬼を攻撃していく二人。剛鬼は背中のダメージと焦りから上手く捌ききれずに少しずつダメージをおっていった。


「糞野郎がぁ」


剛鬼がおもいっきり3本の腕を地面へと降り下ろす。二人はすかさずよけるが、その衝撃で地面に巨大なクレーターができる。


「はぁはぁ…糞が…扱いなれてねぇならいらねぇよ」


鈍く不快な音を立てながら剛鬼は上の2本の腕と下の2本の腕を自分で引きちぎった。


「げぇっ」


それを見たシンは身震いをした。桃太郎が少し緊張した面持ちで数歩さがる。


「兄さんっ。兄さんも剛鬼から距離を取ってください」


「は?」


次の瞬間、目にも止まらぬ速さでシンの元に現れた剛鬼は渾身の一撃を叩き込む。しかしそれをなんとか刀で防ぐが刀は折れ、シンは吹き飛ばされてしまう。


「兄さんっ」


吹き飛ばされたシンに気をとられた桃太郎もすごいスピードで移動してきた剛鬼の拳を受けてしまう。必死に腕でガードをするがシン同様吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ…大丈夫か桃太郎?」


「なんとか…でも…両腕はもう使い物になりません…」


桃太郎の両腕の骨は折れていた。数ヶ月で治るだろうが、今この瞬間は無力とかしている。


「俺はぁ…はぁ…はぁ…負けるわけにはいかないんだっ…」


息を切らしながら言う剛鬼の脳裏に鬼ヶ島に設置された墓の姿が浮かぶ。そこにはフウ、ライ、母、そして泣く泣く殺した父が眠っている。このまま負けたら自分がそうまでして得た物はなんなのかわからなくなる。剛鬼はそれが怖かった。


「俺は負けられねぇっ」



「…それは」


桃太郎とシンも負けじと立ち上がる。


「「俺たちも一緒だっ」」


剛鬼は4本の腕をちぎった事で体を軽くし凄まじいスピードを得ていた。だが、それは桃太郎も似たようなもの、腕への意識を無くし足のみに意識を集中させる。そうすることで凄まじいスピードを得たのだ。


激しい衝突音と共に桃太郎の頭が剛鬼の腹にめり込む。苦悶の表情を浮かべる剛鬼の目に写ったのは、桃太郎を踏み台にして刀を振り上げるシンの姿だった。


「これで終わりだぁ」


シンは刀をおもいっきり振り抜き、剛鬼を真っ二つに切り裂いた。


(親父…すまねぇ…)


剛鬼は薄れゆく意識の中、家族の顔を思い出した。次々に浮かんでいくが一番色濃く現れた顔、…それは父の顔だった。


「全部終わった…」


桃太郎とシンは天を見上げ雄叫びを上げた。そして両親の救助へと向かうのだった。


少し離れた上空で黒いローブに覆われた男が戦いの終わりを見届けていた。


「終わったか…しかし、ふっふっふっ。神器を破壊してエネルギーを解放してくれるとわ。神器を破壊できるのは地上世界に生きる者だけ…奴に神器を壊させ鬼ヶ島で戦うように指示したかいがあった」


黒いローブに覆われた男はどこからか黒い玉の様な物を取り出した。それはあの日ゴウ達に見つけてもらった物。


「奴らのおかげで神器に呪いのエネルギーを効率よく大量に貯める事ができた。そしてそのエネルギーを解放する事もできた。ありがたいことだ」


手に持った黒い玉に呪いのエネルギーが集まり、その姿を変える。それは頭蓋骨の様な形をしていた。


「復活の日は近い。…次の神器は…海か…」


黒いローブに覆われた男は笑いながら姿を消していった。


こうして桃太郎達と鬼達の長きにわたる因縁に終止符がうたれたのだった。

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