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結前の巻

神の恩恵により守られた町があり、その酒場では四人の男達が楽しそうに酒を飲んでいた。


「ちっと飲み過ぎた…」


おもむろに1人の男が立ち上がり店の出口へと向かう。


「おい、シン。どこに行くんだ?」


「ちょいと酔いを冷ましてくるよ」


「よーし、冷めたらまた飲もう」


「あいよ」


男は酔いを冷ますといいながら手に酒瓶を持ち、店の外へふらふら歩いていった。


「いい風だぁ…」


男は顔を通り過ぎる涼やかな風を感じ、満足げに石碑の上に座った。


「この町はいい町だ…。安全だしな」


安全を喜ぶ男の目の前に、その安全を脅かすであろう不吉な人物が現れる。


「はぁはぁ」


その人物は激しく息切れし、胸元が真っ赤に染まっていた。


「お前は…」


男はその人物を見たことがあった。ほんの数日前、この町で見かけた愚かな少年。それは桃太郎だった。


「お前…怪我してるじゃないか…」


「あなたは…」


桃太郎も男に気づく。男はあの日、四人組の酔っぱらいの中で一番桃太郎に絡んで来た男だった。


「俺の事なんかより…その怪我を…」


「大丈夫…そんな深い傷じゃない…」


「はっ、頑丈なこって…」


男は鼻で笑うとグビリと酒を飲んだ。


「…そういやあの3匹の動物はどうした?」


「…死にました」


桃太郎の言葉に男は目を見開き、そして閉じた。小声で「バカが」と言った気がして桃太郎は少しムッとした。


「彼らの事を悪く言うのはやめてくださいっ。彼らがいたから2体の鬼を倒す事が出来たんです」


「ほーぅ、雷鬼と風鬼をねぇ。そいつはすごい」


男は感心した様に何度も頷いて見せた。しかしその姿を見て桃太郎は違和感を覚える。


「なぜ…倒したのが雷鬼と風鬼だと?」


「ん?違うのか?剛鬼を倒せたとは思えないが…」


「間違ってはいませんが…あなたは鬼の事を知っているんですか?」


「……ああ、知ってるよ。よく知ってる。だからお前に何度も言ったろ?鬼退治なんてやめとけって…」


「しかし…困ってる人達が…」


男は桃太郎の言葉を聞いた瞬間、苛立ち酒瓶を地面に叩きつけた。木っ端微塵になる酒瓶を見て桃太郎は驚いた。


「俺はお前のその意思のなさが腹立つんだよっ。……まるでガキの頃の俺を見ているみたいだ」


男は少し落ち着いたのか、もったいないという表情で割れた酒瓶に目をやった。まだけっこう残ってたのに…そう悲しそうに呟くと深いため息を吐いた。


「おいガキ…お前に1つある話をしてやろう。つってもただの噂話さ」


男は遠い目をしながら何かを思い出すように語り始めた。


「いいか?ある村の村長夫婦の所で1人の赤ん坊が育てられたんだが、その赤ん坊は小さい頃から他の村の奴より力が強くて、みんなから慕われていた。…慕われる大きな理由はその優しさ。しかもじいさんとばあさんが言うにゃお前は桃から生まれた子、神が授けてくださった子、そいつはそれを信じ誇りに思った。欲を持たねぇその子供は頼まれればなんでもしたし、なんでも皆に分けた。お前は優しい子だ、いい子だ、そう言われて育ったそいつにはあることがずっと許せなかったんだ。なんだと思う?…そう、鬼の悪事さ。そいつは小さい頃から村の連中に鬼の悪事をずっと聞かされてきた。しかもその鬼達が海の向こうにある島に住んでるって言うんだからずーーーと考えてわけだ。いつか退治しようってな。まぁ、普通に考えて直ぐ側の自分の村が襲われねぇ時点でおかしいって話だが、そいつは村の連中の言葉巧みな話を信じて、鬼の存在を疑わなかった。…そしてそいつが15歳になった日、鬼退治に行く事を決める。お前は一人前だ、そう自分を育ててくれたじいさんとばあさんに言われたからさ。そいつは刀を持って意気揚々と鬼退治に向かう事にした。村の海岸で3匹の動物がそいつを待っててな、「鬼退治のお供をします」って言うんだ。お供したいんならってことでそいつらと海の向こうに見える島に向かったそいつは、犬、猿、雉の3匹の動物達に鬼達の非情さと対応を散々吹き込まれた。「問答無用ですぐに殺せ」とか「奴らは人間に化けている」とかな。そいつはそれを信じて島に上陸、3匹の勧めで鬼が寝静まる夜中まで海岸で待機していた。そして夜中…そいつはとうとう行動に移すのさ。出会った奴を片っ端から斬って周り、強そうな奴もバンバン殺した。あらかた強そうな奴が減った頃そいつに嬉しい事が起きた、村の奴等が加勢に来てくれたのさ。なんて素晴らしい人達なんだとそいつは泣いて喜んだ。まぁ、鬼の島は地獄絵図だがな。そいつは自分が正しい事をしていると信じて疑わなかった。奪われたっていう財宝抱えてそいつは村の連中と嬉しそうに村に帰っていったんだ。普通ならここでめでたしめでたしになるんだが…そうはならなかった。村に帰った朝、1人の男に呼び止められた。その男が言うんだ毒殺される、だから逃げろってな。混乱したそいつは男に導かれるまま男の家に入った。不思議な毎に男の家には気づかれない様に地下への入り口がありそこを降りていくと1人の女が匿われていたんだ。そいつは聞いた。あなたはだれですか?ってね。そしたらまさかの返答が返ってきた。あなたの母よ。女がそう言うんだ。そして自分をここに連れて来た男がお前の父だという。大混乱の大混乱。戸惑うそいつに二人は全てを話した。…そいつは桃から生まれたわけでもないし、鬼なんていない、相手の村から財宝を奪うための村の連中の嘘だとも知った。自分を毒殺しようとしているのが大好きなじいさんとばあさんだともな。そいつは絶望した。自分の意思のなさを利用され罪のない人間を殺しちまったのさ。しかもその時だ、村の鐘が鳴った。それは敵が来た合図。そいつが飛び出して見ると本当に鬼の姿をした3体の化け物が暴れていたのさ。そいつは悩んだ。このまま逃げるかどうするか…。でもな、あんなに優しかった村の連中が自分を騙してたなんて正直信じられなかった。だから自分の親だという二人を逃がしそいつは戦いに向かった。途中、そいつに負い目があるという2人の男と1人の女が加勢してくれるがすぐ蹴散らされた。そいつはやっぱり村の連中はいい人だと思ったがそいつらが特別、他の連中は罵詈雑言をいいながら逃げていった。みんな優しいそいつの事が実は嫌いだったのさ。泣きそうになりながら戦うそいつの前に大好きなじいさんとばあさんが現れた。そこでそいつはさらなる絶望を味わっちまう。じいさんとばあさんがそいつを盾にして逃げ出したんだ。絶望したそいつは膝から崩れ落ちた。鬼に善戦してたはずだがもう何もかもどうでもよくなっちまったんだな…そこでそいつは鬼やられてしまいましたとさ。めでたしめでたし…」


そう話し終える男の目にはうっすらと涙がうかんでいた。


「…わかったろ?意思の必要さが…」


「…」


歯切れの悪い桃太郎に男がある質問を投げ掛ける。


「意思ってのがよくわからねぇんだろ?なら問題を出してやる」


「問題?」


「ああ、桃がなぜ神の果実と言われているかわかるか?」


その質問に桃太郎は首をひねって考える。しばらくしてあること気づく。


「形…と…名前…」


そう。桃の形を見るとまるで2つの物が1つにくっついている様に見えるのだ。そして『もも』と言う名前、『も』2つがくっつき1つの名称を表している。


「そうだ。桃の形と名前、それが1つのものは2つのものからできているっていう神の教えにピッタリなのさ。そして『はち』の生き方にもな」


「『はち』の生き方」


桃太郎は犬が前にそう言っていたのを思い出した。あの時は目の前の酔っ払いによって聞きそびれたが…。


「さて次の問題だ…複数の人間がいる。桃は1つだ。さぁどうする?」


「みんなに分け与えます」


「自分は?」


「皆が欲しいなら別に…」


「かぁ、0点だ。それじゃダメさ。それがお前の意思のなさ。お前だって桃が喰いてぇはずだ」


「ま、まぁ…」


「そこで『はち』の生き方が出てくる。もし皆と争って一人で喰おうなんて言えば-100点。そんな強欲な生き方はだめさ」


「なら同じ形に切り分けてそれぞれに分ければいい」


「それじゃあ50点だな」


「なぜです?きちんと分けましたよ?」


「神の教えに1つのものを見るときは2つの面を見ろって言葉があったろ」


「たしか…そう聞きました」


「なら桃だって2つの面をみなきゃならねぇ。いくら均等に切り分けても味はどうなる?」


「あっ」


「甘くない所と甘い所。旨そうに食べる奴を見て不味い部分を喰う奴は分けあってると思うか?いや思わねぇさ。きっと不平等だと思う」


「だったらどうしたら…」


「だから話合うのさ。俺は甘いから少な目で、じゃあ俺はあんまり甘くないから大目でってな。そうやってお互いに妥協点を見つけるために話し合う。まぁ、手を取り合う前提がなければ争いになっちまうがな。それが『はち』の生き方。妥協点を探すためには自分の意思が必要。意思のない奴と意思のある奴そいつらは手を取り合えねぇ、ただの見せかけで意思のない奴を利用してるだけだ。そんなのは真の手を取り合う事とは違う」


桃太郎はその言葉を聞いて色々な物が込み上げてきます。


「俺は利用されていたんでしょうか…」


「…さぁな。『はち』の生き方ってのは『8』の様に手を取り合い、そのために『八』の様に話合う。片方だけじゃだめ、両方をみなきゃないけない。お前も自分の意思をきちんと持って強く生きな」


男はそこまでいうとすっと立ち上がる。まるでお役御免という感じだ。


「待ってくださいっ」


「あっ?俺は酒を飲みに戻りてぇんだが…」


桃太郎が意を決した様に男にある事を尋ねる。それは男の話す噂話を聞いた時に心に浮かんだ事。猿から聞いた話がそれに重なり男のあの目に浮かんだ涙がその答えを導きだした。


「あなたは『桃太郎伝説』に書かれていた桃太郎さんですよね?」


「…なんの事だ?」


男はしらを切って見せた。だが少し泳ぐ目がそれを真実だと伝える。


「あなたに間違いない。あなたは俺が鬼退治に行くのを止めてくれた。それは鬼の危険性を十分わかっているからですよね?自分と同じように意思を持たず周りに流されて鬼退治に行く俺が昔の自分と重なったんですよね?だから…」


男は桃太郎の言葉を途中で遮り、もう一度石碑に腰掛けた。


「はぁ。…無駄に勘がいいやつだ。確かに俺は桃太郎だった…だがな、あの日桃太郎は死んだのさ」


男は桃太郎が死んだ日について語り始める。


「俺が倒れた後、俺が死んだと思った鬼達はどこかに向かった。でも俺は微かに生きてたんだ。だがもうダメだ…いや…このまま死んでもいい、そう思って目を閉じようとした時、目の前が突然光った。そして気がつくと俺は無傷で横たわってた。何事かと思って辺りを見渡したら他に6人の人間がいた。俺の親だと言っていた二人と鬼との戦いの途中で蹴散らされた3人、そして白髪のじいさんさ。父親は今にも死にそうだった、その時じいさんが不思議な粉を父親の口に入れたのさ。そしたらビックリ仰天、父親の傷はたちどころに治っちまった。俺もこうやって助けられたそう理解した。俺がじいさんに詰め寄るとじいさんは神だと言った。目の前で起きた事を考えたらそう信じざるをえなかったよ。俺は言った「神なら鬼を倒してくれ」と、しかし神は自分は壊す力は持ってないと言う「なら死んだ人を生き返らせろ」と言えばそれはできないと言う。糞役立たずだと思ったね。そんでな「鬼を倒すためお主らを導きに来た」そう言うのさ。俺はふざけんなって思ったね。俺の怪我を治した神薬も一生に一度しか効果がないらしい。なら次に鬼と戦って怪我をしたら終わりじゃないかっ。それに何よりも俺は人生が嫌になっていた。だからドロップアウトしたのさ」


桃太郎は犬が言っていた言葉を思い出す。そしてあの時に見せた涙はもしや…。


「3人は鬼と戦うそう言った。バカかと思ったね。それによくよく考えれば俺はその3人にも騙されてたわけだ。3人は謝ってきたが、なら俺をもう自由にしてくれと言ったよ。桃太郎は今死んだんだともな。3人は負い目もあってそれをのんだ。俺が酔っ払いながら絡んだ時に泣いていたのは落ちぶれた俺の姿が悲しかったんだろうよ」


桃太郎はやっぱりと思った。


「取り敢えず少し離れた町に俺たちを連れて行ってくれることになった。この町さ。当時から神の教えを信仰していたこの町は悪しき者が入れない結界がはってあったらしい。だからここなら安全だとな。わかったか?だから俺は平和に暮らしてぇんだ」


男の言葉に桃太郎は何もいい返せなかった。余りにも辛い思いをしてきたのだ…戦いたくないのは無理もない。


「…わかりました。なら、俺一人で戦います」


「おいおいっ。やめとけって言ったろ?まだ自分の意思が持てないのか?」


「違うっ」


桃太郎は初めて人に怒鳴った。正直、桃太郎自信も自分の口から飛び出した怒声に驚いていた。


「俺は…俺は…自分の意思で鬼と戦いにいくんです」


「なぜだ?死にに行くのと同じだぞ」


「…それでもっ。俺は三匹の仇をとりたいんだっ」


男は驚いた顔をした。そして優しい目で桃太郎を見つめる。しかし首を横に振り「気持ちはわかるがやめとけ」そう伝えた。


桃太郎には不思議だった。こうまでして自分を止める意図が読めない。自分の意思で戦うと決意した桃太郎をも止めようとするのはなぜか…桃太郎はその答えを直ぐに知ることになる。


「家族だからよ」


突然後ろから声が聞こえ桃太郎は振り返った。そこには二人の男女が立っているが、どこか見覚えがあるようなそんな気がした。


「桃太郎…あなたは不思議ではないのですか?目の前の男性の年齢が」


そう言われればそうだと思った。前に町に長くいるという老人から聞いた15年前にあった村同士の争いの話、それが目の前の男の話と一致する。ならば当時15歳だった男は現在30歳のはず…しかしどうみても50代にしか見えない。


「いいですか桃太郎。2つの村にはそれぞれ神器と呼ばれる神の弟子が造った道具がありました。一つは他の生き物に姿を変える道具」


三匹が鬼の能力を説明してくれた時に神器という名を出したのを思い出す。


「そしてもう一つは年齢を変える道具」

その瞬間、桃太郎は理解した。目の前の男は神器の力で年齢を変えたのだと。


「そう。あの時に神様がヨクサイ村に奉られた神器の封印を解いて、俺の年齢を変えてくれたのさ。もし何かしらのトラブルでこの町の結界が消えても、俺が奴らに元桃太郎だとわからないように」


「じゃああの三匹はもう一つの神器を使って」


女の横にいる男も口を開く。


「3人は一度鬼ヶ島に乗り込み鬼達に戦いを挑んだ。しかし結果は惨敗。死にかけていたが神様からもらった神薬でなんとか傷を治した。鬼達も死んだと思って油断したんだろう。3人は敗走の途中で神器に触れあの3匹に化け逃げたんだ」


「神器が持ち運ぶには少しばかり大きいことが幸いしたようです。だから鬼達も島に置いているんでしょう。3人は姿を変えるときあえて『桃太郎伝説』に書かれた三匹に化けました。あの伝説は鬼達の皮肉でもあります。だからその皮肉に立ち向かう、そういう気持ちだったのだと思います」


「なるほど…しかしあなた達どこかで…」


桃太郎が不思議そうな顔で二人を見つめると、女が懐から小さな玉を取り出した。それは不思議な輝きを放ち、玉の中に吸い込まれそうになりそうなほど神秘的だった。しかし、桃太郎はこの玉を何処かで見たことがある気がした。記憶を振り絞るとうっすらと浮かぶ。祖父母と共にすんでいる家の奥の部屋…祖父が刀を取りにいった部屋で見た記憶がある。「もしかしてそれは…」と桃太郎が尋ねようとした瞬間。目を疑う出来事が起きる。


「おじいさん…おばあさん…」


何処かで見たことがあると思った男女が突如自分の祖父母に姿を変えたのだ。紛れもなく本物、祖父母に間違いなかった。


「この神器が小さいことも幸いじゃた。わしらは3人同様に『桃太郎伝説』をあえて再現しようとした。じゃからこの神器で年をとり神様に頼んで山奥で住めるようにしてもらった。桃太郎の存在を誰にも知られんため、他の人間が入れんよう結界をはってもらってな」


桃太郎は地図を見た時の違和感を思い出す。


(そうだ…周りにあんなに村があるのになぜ人を見かけなかったのか不思議だったんだ。普通、森の中に入ってくる人がいてもおかしくないはず)


「お前が老人を担いで来た時、まさかと思った。人間は入れぬはずじゃと…。しかしその姿を見てそれが神様じゃと気づいた。時が来たともな」


あの白髪の老人は神様だったのか。桃太郎はそう思った。そしてあの時に感じた視線について思い出す。


「二人はいつから俺を見ていたんですか?三匹の動物は村に入ってから俺を見たと言いました。しかし誰かの視線を感じたのはその前です。三匹でないならあの視線は二人しか…」


桃太郎の質問に二人は不思議そうな顔をした。


「わしらは神様からさっきお前がここにいると聞いて連れてきてもらったんじゃが?」


「え?…さっき?」


「うむ…」


一瞬の沈黙。桃太郎はまるで背中を蛇に這われるような嫌な感覚を覚えた。


「と、とにかく…わしらがお前の前に現れた理由、それを話そうと思う」


話を仕切り直そう、そう言いたいかのごとく二人の姿が元の姿へと戻っていく。女が口を開き続きを話始める。


「あの日、私のお腹に宿っていた貴方は将来必ず鬼に戦いを挑むであろうと思いました。三匹もそう思ったからこそ猿や犬、雉に化けた。…そして皆でお前の進む道を作ってきた。鬼退治への道を…でも、お前の姿を見ていると本当にこれでいいの?そう思えたのです」


「しかし神様が訪れ旅の日は来た。お前を鬼退治へと送りだしたがもやもやは大きくなっていくばかり。そして自分たちは我が子を利用している…それに気づいたんだ。…今まで本当にすまなかった」


二人が申し訳なさそうに桃太郎に頭を下げる。


「お前は優しい子でした。しかし自分の意思を持っていなかった。あの三匹も貴方を鬼退治へと導くことに徐々に情けなさを感じていったと思います。自分たちは間違った事をしているのでは?貴方を利用しているのでは、と…」


桃太郎は三匹の何か違和感のある仕草の数々を思い出した。それは罪悪感や自分達の情けなさの表れなのかもしれない。しかし桃太郎にはどうしても気になる言葉があった。それは自分の信じていた事を根底から覆してしまうこと。


「…お腹に宿った?我が子…?」


石碑に座った男が口を開き、桃太郎の根底を覆す。


「そうだ。その二人はお前の両親さ。お前は桃から生まれた神の子なんかじゃない、人間なんだ」


桃太郎は二人の顔を何度も確認した。二人は頷きその事実を桃太郎に突きつける。自分は桃から生まれ、神が授けた子なのだと、祖父母は育ての親なのだと…そう思っていた。でも違った…人間だったのだ。


「…ははっ…そうですか…正直パニックです…でも…」


桃太郎の表情はどこか晴れやかだ。


「俺はずっと自分の意思をもたず思い込みの運命の操り人形だった。今、意思とは何かを彼に教えてもらい心が少しだけ変わりかけたところでした。そして人間だと知った。…おかげでなにか…胸のつかえが取れた気がします」


桃太郎は空を見上げ笑った。三匹や元桃太郎の話を聞いてもなお自分は神が授けた子なのだと思っていた。だから鬼と戦うことは運命、逃げてはいけない。ずっとそう思っていた。だけど違うのだ。自分は人間でそんな運命などない。自由な存在なのだ。桃太郎は真の自分というものを見つけた気がした。


「なんだ清々しい顔をしてんじゃねぇか。よかったなお前は自由だ、鬼に挑むのはやめて平和にくらしな」


「そうです。私たちはあなたに酷な事をしていました。だから真実を話しもう自由になって欲しかった。それがこの町に来た理由…」


桃太郎は3人の言葉を聞いて微笑み言った。「それでも鬼退治に行きます」と。それは桃太郎自信が自分の意思で固く決めた事。何を言われてもかわることはなかった。


「俺は短い旅でしたが色々な事を知りました。大きな心の変化も感じた。三匹の仇をとりたいさっきそういいましたね?」


「ああ」


「確かに仇はとりたい。でもそれだけじゃない。鬼を倒して町や村を平和にしたいんです。自分の為に」


「自分の為?」


「そう。鬼に怯える事などなく家族皆で笑い会える生活をしたいんです。これは俺の欲。でも恥ずべき欲じゃない。大切な欲だ」


「桃太郎…」


桃太郎の母と父は我が子の心の成長を感じとり涙をながした。それは大きな大きな成長だった。


「だから…力を貸してくれませんか?兄さん」


桃太郎はそう言って石碑に座る男に顔を向けた。


「…気づいてたのか」


「そりゃあ、まぁ」


「俺はドロップアウトしたと言ったろ?それに今は『シン』って名前で生活しててね。桃太郎とは縁も所縁もない男になったのさ」


「シン…その名は…」


「そうさ…真の人間になれなかった自分へのあてつけさ」


シンはそう言って悲しげに笑って見せた。


「あてつけ?…俺にはそうは思えない。真の人間になりたいからつけたんじゃないですか?」


「っ。…うるせぇ」


「…兄さん、いつここの結界が解かれるかわかりませんよ?」


突然桃太郎が突拍子もないことを言い出し、シンは顔を竦めた。


「は?そんな事あるわけないだろ?」


「どんな物でも全て有限なんです。兄さんは一生怯えながら生きていくきですか?」


「…そうそう都合悪く事は進ま…」


シンはそこまでいいかけ目を見開いた。


「あぶねぇっ」


とっさに母親にぶつかりその体を弾き飛ばす。母親は勢いで地面に転がった。


「ちっ…桃太郎の周りの奴は余計なことしかしないのか?」


母親が元いた地面には剛鬼の拳がめり込んでいた。


「剛鬼っ」


「あん?」


自分が殺そうとした女を弾き飛ばした男に目を向けると、お前は誰だ邪魔をするなと言わんばかりに拳を振り向けた。


「あぶねぇ」


シンは身を屈めパンチをかわすと、数歩後ろに下がり体制を整えた。


「あぁ?なんだこのおっさんは?妙に身軽だな…」


剛鬼が怪訝な表情をシンに向ける。


「ね、いったでしょ?物は有限だって」


桃太郎が素早くシンに近づき耳打ちをする。


「だからってなんで今なんだよっ」


「…悪い神が解いたとか?」


桃太郎の口調は笑っていたが、その顔に余裕は見られない。


「…奴の言ってた神器ってのは…これか?」


剛鬼は辺りを見渡し女が衝撃で落としてしまった神器を見つけると拾いあげた。


「ぶっ壊せばいいんだな」


剛鬼が渾身の力で殴り付ける。その衝撃で神器は粉々に砕けちり、パラパラと地面に落ちた。


「じ、神器が」


剛鬼はとっさに粉々になった神器に駆け寄った女をデコピンで吹き飛ばした。その瞬間桃太郎が「母さん」と言った事で、剛鬼の頭にある思惑が生まれる。


「そうか…この女はお前の母親か…てことはこいつが父親か?」


剛鬼は桃太郎の母親と父親をガッと掴むと背中に力を込めた。突然、羽が生えそれをはばたかせ空に舞い上がっていく。


「桃太郎ぉ、鬼ヶ島まできなぁ。そこでけりをつけようぜぇ。がっはっはっはっ」


剛鬼は大笑いしながら鬼ヶ島へと飛んで行ってしまうのであった。

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