神後の巻
神が2つの村に真の教えを伝えてから時は経ち、ある日神は悲しげな表情で天から村を覗いていました。
「…だめじゃったか」
神は愛に期待していましたが欲がそれを押さえつけ大きな悲劇が起こってしまいます。
「なぜじゃ…なぜなのじゃ…ワシのいたらなさ故なのか?」
神はそう呟きながら滅びゆく村を見つめます。
「ぅぅ…あぁぁあああ」
神はついに泣いてしまいました。神が泣いている姿を見て横にいたサイユウは驚きを隠せません。
「…神様…今回の悲劇は…」
サイユウは今回の悲劇は自分にも責任がある、そう思えて仕方がないのです。あの時自分たちが教えを間違えなかったら…。サイユウもその場で泣き崩れてしまいました。
「神様。サイユウ様…お目覚めに…」
二人の元に神兵が現れそう告げます。二人は「そうか」とどこか悲しげに、そして怒りに満ちた顔で『天空の牢獄』へと向かいました。
「ふぁーあ」
牢獄の中で一人の男が目覚めます。
「ん。これはこれは神様。そしてサイユウ君」
牢獄の中にいたのはヨクサイでした。
「ヨクサイ何がサイユウ君だ白々しい」
サイユウがヨクサイに怒鳴ります。
「はっ…うるせぇなぁ」
「…ヨクサイよ…なぜワシの結界を解いたのじゃ?」
神が尋ねます。
「あの結界があると悪しき者達が入れませんからね。強欲な村人達が入れないじゃないですか」
「…お主が結界を解いたせいでサイユウ村が滅びようとしとる。ヨクサイ村とお前の手引きによってな」
そう、今地上ではヨクサイ村の村人達によりサイユウ村が攻撃されていたのです。
「私はちょっと知恵を与えただけですよ」
「何が知恵じゃ。禁忌を破らせおってからに…」
「それでも神様は愛の力がなんとかしてくれると思って手を出さなかったでしょう?」
神は黙ってしまいます。愛が欲に負けた。この事実は正直神にとってもショックな事実だったからです。
「なぜじゃヨクサイ…なぜこんな事をする?」
「…はっ、決まっている。私が神になれないからですよ」
「なっ、そんな理由で?」
驚くサイユウをヨクサイが睨み付けます。
「お前はいいよなぁ、次期神候補さんよぉ」
そう約40年前、神はサイユウとヨクサイの二人のうち、サイユウを次の神候補へと選出したのです。
「私は神になろうと実に礼儀正しく振る舞った。なのにだっ。あんたはサイユウを選んだんだっ。なぜ私じゃない?私こそが神に相応しいはずだ」
「……そういうところじゃ、お主が神候補に選らばれなかったのは」
「はぁ?」
「お主は強欲すぎるのじゃ。確かにあの日、お主ら二人はワシの教えを間違えて覚え、2つの村に伝えた。しかしだ、お前の2つ目の間違いは強欲だからこそ起こる間違え、それ故こんな事になっておる」
「けっ」
「ワシが真の教えを伝えてなおもお主の中の強欲な部分は消えておらんかった。だからサイユウを神候補に選んだんじゃ」
「それが気にいらないんですよっ。欲の何が悪いっ、あんたも欲は必要だっていってたじゃないかっ」
「確かに欲は必要じゃ。しかしお前の考える欲ではないと言ったであろう。だからお前は『十』を考えた。さらには『10』まで、ワシは『はち』の生き方をしろとは言ったが『じゅう』の生き方とは言っとらん。欲をかいてその先を得ようとするからそんな考えが浮かぶんじゃ」
そう、神が禁忌を作った理由、それはサイユウが欲を出して『十』を考えてしまったことが原因なのです。
「まさかその副産物を利用するとわ…」
「はっはっはっ、面白いでしょう。まったく、途中で捕まったせいで中途半端になってしまった。まぁ、あいつらなら私の想像通りに動くでしょうがね」
「何をいうかっ。そんなことはない」
「はっはっはっ、それはどうでしょうか」
「ぐぬぬ、行くぞサイユウ」
「は、はい」
二人は牢獄を後にします。
道中、神はサイユウに言います。
「ワシら天空の民には守る力はあっても壊す力はない。故にお主らが作った神器を壊す事はできんかった」
「だからヨクサイの神器の力を封印したんですね」
「うむ」
そうなのです。神やサイユウが住むこの天空の世界では物事を守る力は持てても壊す力が持てないのです。これは天空の世界を作った最高神が定めた決まりでした。いくら武器や魔法のような道具を造れてもそれを使って相手を壊す事が出来なければ争いは起こらない、そう考えて定めを作ったのです。
「しかしヨクサイは結界を解いています。結界や封印はかけた者以外が解くことはできないはず。なぜです?他人が解くとは壊す事と同義では?」
「…わからん。例えばお主らが造った神器の力の様に変身する力、これを解除することはできる」
「変身という力から身を守るという事ですね?」
「そうじゃ…しかし結界は違う…結界は守るためのもの…その守るためのものである結界を奴がなぜ解除できたのか…」
神の脳裏に一瞬、最悪な想像がよぎります。
「…いや…考えまい」
神はその想像を遮断します。それはあまりにも恐ろしい想像だったからです。
「とにかく、問題は人間達のほうじゃ…ヨクサイという指導者を失った。このままおさまってくれればよいが…」
神は願いました。しかし、その願いも虚しく事態は最悪な方向へと進んでいきます。
「なんたる…なんたることじゃ…ヨクサイ村までも…」
神は嘆き苦しみます。
「神様…これでは…」
「わかっとるサイユウ。お主はここにおれ…ワシが神として導かねば…」
神は意を決して地上世界へと降りて行くのでした。
ちょうど同時刻、天空の牢獄に捕らえられているヨクサイが地上世界での出来事を教えてもらっていました。
「そうか…ありがとう。情報をくれて助かるよ」
サイユウは黒いローブに覆われた何者かと話しています。
「今すぐ出してやろうか?」
黒いローブに覆われた人物がそう尋ねます。
「いや…まだいい。今、神様が自ら人間を導きに言ったんだろ?ならその結末を見届けるまでここで捕まっているさ」
「おそらくその時間は長くなるぞ?」
「かまわないさ…私はあの2つの村を滅ぼしたかった。それだけだ…だからその長い時間の間にこれから何をしていくかゆっくり考える」
「…わかった」
「あんたには感謝してるよ…お陰で邪魔な結界を解除できた」
「ふっ、またいつか会う日が来るかもしれぬ、その時までサヨナラだ。ふっふっふっ」
「ああ」
黒いローブに覆われた何者かは笑いながら消えていくのでした。




