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神前の巻

地上よりはるか上の天空の世界、そこにとある神により統治された国がありました。


神はいつも人々の幸福を願い、いつしか地上の人間達も幸福にしたいそう思っていました。ですが、神と呼ばれる存在はこの天空の世界には何人もいます。自分一人が地上世界をどうこうできるわけではありません。


ある時、神は考えました。自分の後継者をどうするか…。神とは不死におもえますが、そうではありません。生命あるものみなその命は有限、それが短いか長いかの違いなのです。


「やはり二人のどちらかだろうか?」


当時、神には弟子が二人いました。彼らの生き方を見てきた神は二人のどちらかを後継者にしよう、そう考え二人をよびます。


「お呼びですか?神様」


「うむ、よく来たな、二人とも。」


二人の弟子に言いました。


「お主らにワシの教えをきちんと教える時がきた」


神は二人にあえて教えを伝えていませんでした。そうする事で二人の生き方を見ていたのです。


「神様、なぜ教えを?」


一人の弟子が言います。


「そろそろその時かと思っての」


「つまり、我々を次の神候補へと思ってくださったのですか?」


もう一人の弟子がそう聞きます。


「…そうあせるでない。ただお主らに教えを知ってほしいだけじゃ」


神は二人に教えを話します。


「よいか?ワシの教えは何よりも人の在り方を大切にしておる」


「人の在り方…」


「うむ。人の在り方とは何か、人とは心と身の2つでできており、その2つがあわさって真の人になる」


「2つがあわさって…」


「そう、つまり人の在り方とは2つの面を併せ持ち存在するということ。どちらか片方が欠け落ちては真の人になれぬ。両方もってこその真の人、それが人の在り方じゃ。ちなみにこの教えには1つの物を見るときは2つの事柄でみなさいという事も含んでおる」


弟子二人はその言葉に深く感銘を覚えます。


「なるほど人はそのような在り方で生きているのですね」


「うむ」


神の言葉を聞いた二人は少し話し合います。


「…神様、私たちはその教えを人々に布教したく思います」


神はその言葉に少し考えます。しかし人には思想の自由がある、よいと思えば取り入れるだろうし、ダメと思えば取り入れないだろう。なら教えを伝える事は神々の間で問題になることもあるまい。そう考えます。


「わかった」


しかし神は続けて不思議な事をいいました。


「もし、この考えを人々に布教するのであれば『はち』の生き方もきちんと教えるのだぞ」


二人は顔を見合わせました。


「『はち』とはなんです?」


片方の弟子が尋ねます。


「虫の蜂の事では?」


もう一人の弟子がそう答えました。


「蜂かぁ?」


「じゃあ鉢だ」


「なるほど鉢か」


神は慌て弟子の話に割って入ります。


「蜂でも鉢でもない。数えの『はち』じゃ」


「数えの『はち』…」


二人は神のその言葉にそれぞれ『はち』を思い浮かべます。


片方の弟子は数字の『8』を思い浮かべました。


(ああ!確かに『8』は二つの○でできている。この○は心と身のことか)


そして


(○が手を取り合い『8』になっているじゃないか、つまり『8』の生き方とはみんな手を取り合い仲良く生きよということか)


そう理解しました。


しかし、もう片方の弟子は漢字の『八』を思い浮かべました。


(ああ、『八』は二つの線でできている。つまりこの線は心と身ということか)


しかしふと疑問に思います。『八』という字は、2本の線が斜めに向き合っているではありませんか。


(これは互いに言い合っているのでは?)


弟子はさらに考えます。そしてあることに気づくのです。


(まてよ…『八』の続きの『十』という文字…。2本の線がお互いを貫ぬき合っているじゃないか。つまり『八』とは争う前の言い合い。『八』の生き方とは争い生きよということか)


そうしてそれぞれの『はち』の生き方を理解した二人の弟子は、「なんて素晴らしい生き方だ」と神に告げます。


「理解してくれたか」


「はいっ」


二人はとびっきりの笑顔で答えました。


その後、二人は人々に布教するにあたって、『はち』の生き方をするためにはどうしたらよいかを考え始めました。


結果、『8』と考えた弟子は手を取り合い生きるには『欲』をなくす事、その答えに行き着きます。そして『八』と考えた弟子は争いながら生きるには『欲』を強く持つ事、その答えに行き着くのです。


真逆の考えを持った二人は、それぞれ天から村へと降り立ち、それぞれの村で神の教えを布教することになるのです。

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