エピローグ
男は目の前に現れた自分の息子をじっと見つめた。少しして目を覚ました男の息子は、目を泳がせ辺りを見渡し始める。そして自分に意識があることに気付き飛び起きた。
「俺は死んだはず…」
現状を理解できず呆然としている男の息子に、男の隣にいる白髪の老人が話しかける。
「目が覚めたか?」
振り返った男の息子は白髪の老人に驚くがそれ以上にある事に驚いた。
「フウ、ライ…お前らなんで…それに…親父とお袋?」
白髪の老人の後ろに家族がいたからだ。
「ゴウ兄貴も死んだのさ」
「……そうか」
男の息子は全てを理解した。男の息子は剛鬼…いや、人間に戻った今はゴウという名が正しいだろう。
「…てことは、ここはあの世か?」
「そうじゃ、ここは黄泉の国。死んだ者が来る場所じゃ」
「なるほどね」
白髪の老人を見たゴウは怪訝な表情を見せた。
「じいさん、あんた誰だ?」
「お、おいゴウ、なんと失礼な。この方は神様だぞ」
男があわてふためきたしなめるとゴウは鼻で笑った。
「神様ねぇ」
と、ここでゴウがあることに気づき神に尋ねる。
「もしかしてあんた…あの日桃太郎を助けたか?」
「お主がヨクサイ村を襲った日か?」
「ああ」
「うむ。そしてその後もワシが皆の者を導いておった」
そういうことかと理解したゴウは、その場に倒れこんだ。
「神様がついてたんじゃそりゃ勝てねぇよなぁ」
「…何をいっておる。ワシは導いただけ…鬼となったお主ら三人を倒したのは桃太郎達の力、真の人間の力じゃ」
男も神とゴウの話を聞いて自分が死んだあの日の事を思い出していた。神の果実の名を持った子が自分の村に来たことが信じられなかったこと。家の中に子供たちがいない事に気付き村中を走り回る直前、まさか死んでしまっているのではと思ったこと。その気持ちを戒めたこと。そしてゴウに殺された時、自分は幸せだと感じたこと。たとえそれがもう片方の子供たちであっても…男は我にかえる。
「なぁ親父」
見知らぬ四人の存在に気づいたのだろう、父親である男にゴウが尋ねたからだ。二人の女に二人の男、その中の三人とは妙に親近感を覚え最近見たことがあるようなきがするがだれだと聞いてきた。
「お前の腹違いの兄弟達だ」
男は答えた。その言葉にゴウは度肝を抜かれた。
「私がヨクサイ村にいた頃の家族だ」
「…てことはあの襲撃の日、俺たちがこの四人を殺した事になる」
「いや…わたしがサイユウ村に行った頃にはすでに妻は亡くなっていたし、子供たち三人はお前達の襲撃から逃げ延びている」
「?」
ここで神があの日の経緯をゴウに伝えた。ゴウはそれを聞くと頭をポリポリと掻いた。
「なんだよ…そんなことが起きてたのかよ…」
「うむ。お主らが何者かと会っている隙にな」
神は真剣な表情でゴウを見つめるとその時に会っていた人物について問いただした。それは後の危機を予感させるものだったからだ。
「あ?その時に会ってたやつ?あぁ、俺たちに色々知恵をくれた二人のうちの一人だな。なぁ」
ゴウの言葉にフウとライが頷く。
「二人のうち一人はサイユウ村を襲撃する直前にいなくなっちまった…そんであんたが聞きたいヨクサイ村を襲撃した時に会ってた奴は…黒いローブに覆われた奴だった。その前後もちょくちょく力を貸してくれてな」
「顔は見たか?」
「ああ…顔を横切る様に傷があった」
(…やはり)
神は最悪の人物に頭を抱えた。正直違う人物であって欲しかったが、その願い虚しく事態は深刻だ。
「…そうか…わかった。それと、お主がいう途中で消えた人物は今牢獄の中におる。もうかれこれ15年以上になるかの」
「へ?」
「サイユウここへ」
神がサイユウを呼び、ゴウへ頭を下げる
「本当にすまん。お主はワシら三人の被害者なんじゃ。ワシらが至らぬばかりに…」
神は全ての経緯をゴウに説明しもう一度深く詫びた。
男は自分も神とサイユウの二人に謝られた時の事を思い出した。自分が村を追い出されたのもヨクサイという弟子の手引きによるものそう聞かされた。しかし禁忌を破ったのは自分のいたらなさ…男は恥ずかしく思った。しかし神は男を責めなかった。
「…長い長い因果なこっちゃ」
ゴウがおもいっきり笑う。そして神を見て気にすんなと声をかけた。
「おかげで俺は楽しかったよ」
「ゴウっお前っ」
男がゴウを叱ろうとするが神がそれをとめる。きっとゴウなりの気遣いなのだろう、神はそう思ったのだ。
「だいたい親父よぉ、よく俺の事を嫌いにならないな。あんた俺に殺されたんだぜ」
男は愚問だと思った。
「それでも愛する子供だからだ。それに墓のことも神様から聞いたよ」
ゴウは恥ずかしそうに視線を外し、すぐさま話題を変えた。
「しかしよぉ、腹違いの兄弟だっけか?逃げだしたんならなぜここにいる?病か何かか?」
「…それはのぉ、彼ら三人が桃太郎の家来だからじゃ」
神の言葉を聞いた瞬間、ゴウは全てを理解する。
「……はっ…がっはっはっはっ。じゃあ俺たちは兄弟で殺し合いをしてたってわけか」
「さよう。ワシも真実を生きているうちに伝えようかと思ったが決心がつかずできんかった」
「…伝えた所でかわらねぇさ」
神は兄弟6人が皆同じセリフを言ったことに驚いた。神は頭が上がらなかった。
当然、男も神に謝罪された。それは涙の謝罪。自分の息子達が殺し合いをしている親の立場、その心を思い悲しくそして真実を話し止めさせる事のできない自分を情けなく思っていたからだ。しかし男は気づいていた。自分が殺されたあの日、我が子を探し回っている時に聞こえた異質な泣き声は神の泣く声だと。そこまで神が苦しんでいることにも。だから男は神を責めることなどできなかった。
「なぁゴウ?」
「あ?」
男がゴウに問いかける。その顔は優しさに満ち溢れていた。
「もう争うのはやめないか?みな仲良くする事を望んでいるんだ」
ゴウはその言葉を聞いて驚いた。
「あんなに争ったのに仲良くしようってのか?」
気づくと自分の回りに集まっている家族にゴウは言葉を失った。
「もういいじゃないかゴウ兄貴」
「そうさ。俺たちはあんたらと戦った。でももう全て終わったこと。死んでまで歪み合うことじゃない」
ゴウはみなの顔を見た。そして一粒の涙を流す。
「な、なんだよ…はは」
男は家族皆で抱き合った。9人の大家族、最高じゃないか。
1つのものは2つのものでできている。今、2つの家族が手を取り合い真の1つの家族になった。男は喜び大粒の涙を流したのだった。