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こまけぇこたぁいいんだよ!!  作者: 承り太郎
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華嫁降誕 群馬黙示録 人魚への道

 三日目 夜

 前橋(水没) 紅雲町(水没)

 群馬セントラル病院 九階

 特別病棟 エレベーター前 ロビー



 十兵衛たちは病院に居座る神の使いを次々と撃破し、残り一体が潜む九階に足を踏み入れた。


「遂に来たわね」


「ああ」


「なんか緊張しますね」


 十兵衛たちの行く手には廊下が延びており、突き当たりに頑丈そうな扉がある。


「ここまで来たが、どうする? 先に進むか? それとも、一休みするか?」


「うーん……」


 人類滅亡まで残された時間は、あと五日。一見すると一週間もあるなんて余裕じゃんと思っちゃうが、それこそ最大の落とし穴。余裕こいてると、あっという間に過ぎていく。小学生時代の夏休みの宿題で散々苦労したから嫌というほど分かる。……となれば、ここは先へ進み、一休みするのは最後の一体を倒してからがベスト。これで決まりだ。


「先へ進みましょう」


「そうか。ペンタゴン、堕天使(ルシファー)。お前たちは?」


「乃木くんが先に進むなら私も行きます」


「僕も」


「決まりだな。では、行こうか」


 一行は廊下を進み、分厚い扉の前で立ち止まる。

 十兵衛が扉の取っ手を掴んで振り向く。


「この扉の向こうに行くと、使いを倒すまで外に出られない。……なんてことがあるかもしれない。みんな、覚悟はいい?」


「ええ」

「はい」

「うむ」


「じゃあ、開けるよ」


 扉を開けた次の瞬間、どす黒い闇が濁流の如く溢れ出し、十兵衛たちは悲鳴を上げる間もなく暗黒に飲み込まれた。



 三日目 夜

 前橋(水没) 紅雲町(水没)

 群馬セントラル病院 九階

 高次元空間



「……ん。はっ!」


 十兵衛は気がつくと見知らぬ場所に居た。


「みんな! 何処だ!? 居たら返事して!」


「じゅ、十兵衛さん……!? 十兵衛さんですか!?」


「その声、堕天使(ルシファー)か! 俺はここだ! ここに居るぞ!」


「はいっ! 今、行きます!」


 薄暗い闇の中から堕天使(ルシファー)が姿を現す。


「十兵衛さん。お姉ちゃんと徳永さんは!?」


「分からない」


「そうですか……。それにしても、一体何が起きたんでしょう?」


「確か、俺が扉を開けたら、中から真っ黒なものが流れてきて溺れそうになって……。気がついたら、ここに居た」


「ここって病院の中なんですかね? さっきまでと全然雰囲気が違いますけど……」


「もしかしたら、ここは使いが作った迷路的なアレなのかもしれない。心中教会の時の迷路みたいな。……そうか。分かったぞ。使いの狙いは俺たちを孤立させることだ。俺たちは今まで、基本的にチームで行動してきた。チームの力に勝てないならバラバラにしてタイマンに持ち込めば勝てると踏んだんだ」


「それって……。徳永さんが真っ先に狙われますよ!」


「その通りだ。お年寄りにしちゃ体力はあるが、一人で戦うのは無理だ。きっと、俺たちと同じように、どこか別の場所に飛ばされているはずだ。探すぞ!」


「はいっ!」


 二人は走り出し、薄暗い廊下を駆け抜ける。


「何処まで続いてるんですか!? 終わりが見えませんよ!」


「俺が知るか!」


 やがて、二人の前に分厚い扉が現れる。


「開けるぞ。……あれ? お、重い……!」


「手伝います!」


「よし、せーのでいくぞ!」


「はい!」


「せー……の! はあ!」

「せー……のっ! ふん!」


 やけに重い扉を二人がかりで開けると、アクアリウムに囲まれた幻想的な廊下が出迎えた。


「わあ。綺麗……」


「何言ってんの。そんなこと言ってる場合じゃないだろ。……。なあ、堕天使(ルシファー)。何か聴こえないか?」


 耳を澄ませる。


「これは……バイオリンの音……?」


「ああ。まるでクラシックのコンサートみたいだ。……ん? クラシックのコンサート……!?」


「そういえば、七階で倒した恵方巻が九階で人魚がコンサートやってるみたいなこと言ってませんでした!?」


「それだ! きっと、この音の先に奴が居る! 行くぞ!」


「はいっ!」


 アクアリウムの廊下を走り続けると、再び分厚い扉が現れる。


「音がはっきり聴こえる!」


「間違いない! この扉の向こうだ!」


「せーのっ! やあ!」

「せーの! はあっ!」


 先程と同様にして二人がかりで開けようとするが開かない。


「くそっ! 引いても駄目なら押すぞ!」


「はい!」


「オラア!」

「このっ!」


 二人同時に跳び蹴りを繰り出すが扉はびくともしない。


「何か手は無いのか!?」


 アクアリウムの方を観ると、水面の上に足場のようなものがあるのに十兵衛は気づいた。


「あれだ!」


 十兵衛は廊下に置かれていた消火器を手に取り、アクアリウムのガラスに叩きつける。


「十兵衛さん!? 何やってんですか!?」


「ここをぶち破る! 水槽の上に足場みたいなのがある! 多分、飼育員が餌やる時に歩くのが! 足場があるってことは、飼育員が出入りする通用口があるはずだ!」


「なるほど! 上から行くんですね!」


 そう言うと、堕天使はズボンのポケットから財布とレジ袋を取り出し、財布の中の小銭をレジ袋に入れて固く結んで団子にする。


「十兵衛さん! 下がって! おりゃあーっ!」


 堕天使が小銭の団子を叩きつけると、アクアリウムのガラスがひび割れて砕け散り、中に居た魚と入っていた大量の水が流れ出す。

 十兵衛は咄嗟に左手で廊下の手すりに掴まり、右手で流されそうになった堕天使(ルシファー)の左腕を掴んで助ける。

 半分以上が空になった水槽の中に十兵衛は足場に行くための梯子を見つける。


堕天使(ルシファー)! 梯子まで泳ぐぞ! 行けるか!?」


「はい! 頑張ります!」


 着衣水泳を強いられて苦労しながらも二人は梯子にたどり着き、梯子を登って足場に上がる。

 十兵衛は辺りを見渡すが、コンサートホールとの出入り口らしきものは見当たらない。


「くそ! 一体どうした、ら……!?」


 何気なくコンサートホール側の壁の上の方を見ると、五十センチ×七十センチほどの長方形の穴が開いているのが目に入った。


 もしかして、通気口?


 通気口と思われるその穴はコンサートホール側に向かって延びているようだった。


堕天使(ルシファー)、行くぞ! 水泳の次は匍匐前進だ!」


「えええ!?」


「俺から行く! とおっ!」


 助走からのジャンプで通気口の底辺に掴まり、懸垂の要領で身体を引き上げつつ、頭から通気口に突っ込み、肘を足代わりにして前進して上半身を滑り込ませ、通気口に完全に入り込む。


堕天使(ルシファー)、俺に続け!」


「は、はいい! 頑張りますう!」


 ちょっと情けない返事が後方から聞こえたのを確認し、十兵衛は人生初の匍匐前進を開始。度々頭をぶつけながらも一所懸命に進み続ける。

 真っ暗で先の見えない狭い通路を進むのは気の滅入ることだったが、元の世界でダストシュートを内側から登った経験のある十兵衛は耐性があったのでストレスは軽く済んだ。

 通気口に入ってから五分後、十兵衛は闇の中に明かりを見つけた。


 これは……金網だ。


 正方形の金網はネジ止めされていなかったので、手で掴んで取り外し、穴から頭を出すと遠くからバイオリンの演奏が聴こえてきた。


 やった! コンサートホールに着いたぞ!


 穴の上を一旦通り過ぎ、下半身を穴から出して足から下に降り、赤絨毯の敷かれた通路に着地する。


堕天使(ルシファー)。足から降りてこい」


 敵に悟られないように小声で呼びかける。


「こ、怖いです……。暗いし、高そうだし……」


「大丈夫だ。いざって時は俺が受け止めてやる」


「……分かりました。やってみます」


 その後、二分くらいかけて堕天使(ルシファー)は下に降りた。


「なっ。大丈夫って言ったろ」


「はい。十兵衛さんが居てくれてよかったです」


「……。よせよ。照れ臭い。それより観ろよ。あっちの明るいところから演奏が聴こえる。遠くてよく見えないけど、多分あれがステージだ」


「みたいですね。……っていうか、あれがステージだとすると、このコンサートホール、滅茶苦茶広いですよ」


「ああ。イーグルスのスタジアムより広いな」


「……? イーグルス……? 何です? それ?」


「え。知らないのか?」


 あ、そうか。ここは異世界。俺の世界とは違うんだ。堕天使(ルシファー)のリアクションを観るに、この世界にはイーグルスは存在しないっぽいな。どうすっかな……。


「あー……。要するに、東京ドーム一個分の広さってこと」


「なるほど」


「ステージの方に行ってみよう。暗いから足元に気をつけろよ」


「はい」


 十兵衛と堕天使(ルシファー)はステージへと向かった。

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