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こまけぇこたぁいいんだよ!!  作者: 承り太郎
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華嫁降誕 群馬黙示録 懺悔

 三日目 朝

 前橋(水没) 大手町(水没)

 前橋公園付近



 水上バイクとゴムボートが派手な水飛沫を立てながら激しいチェイスを繰り広げる。


「待て! 止まれ!」


 十兵衛の呼びかけを無視し、水上バイクは逃走を続ける。


「もっとスピードを上げろ!」


「無理ーっ!」


 ペンタゴンが悲鳴を上げる。


「頼む! やってくれたら頭撫でてやるから!」


「ラジャー!」


 バタ足の威力を上げ、肉体の限界を超越してラストスパートをかける。

 水上バイクとの距離は徐々に縮んでゆき、あと二メートルのところまで迫り、真後ろにぴったり着くことに成功する。


 大分近づいたけど、帰宅部の脚力で届くか? ……いや、やるしかない! ここで奴を叩いてケーキ配りを止めさせる!


「うっ……うわあーっ!」


 十兵衛は雄叫びを上げて前方に跳躍し、荷台を飛び越えてオヤジの腰にしがみつく。直後、突然の定員増加で水上バイクが激しく揺れ、蛇行運転気味になる。


「くっ! 離せ!」


 オヤジが抵抗し、肘鉄を十兵衛の顔面にクリーンヒットさせる。

 十兵衛は痛みに悶絶し、水上バイクから落ちそうになるが、寸前でオヤジのアロハシャツの裾を掴んでぶら下がった。

 水上バイクが傾いて右にカーブするが、オヤジは運転をやめようとせず、どうにかして十兵衛を落とそうと必死に運転し続ける。


 これならどうだ!


 十兵衛はアロハシャツの裾から両手を離し、チノパンのベルトを掴み、全体重をかけてぶら下がった。

 直後、水上バイクがバランスを崩してクラッシュし、オヤジと十兵衛は放り出された。

 十兵衛は頭から真っ逆さまに水中へダイブし、濡れた衣服の重さで沈んで溺れかけるが、救出するために潜水したペンタゴンから口移しで息を貰って窮地を脱する。


 酷い目に遭った。……けど、ペンタゴンとキスできたからチャラだな。グヘヘ。


 ペンタゴンに手を引かれて水面に出るとゴムボートが待機しており、堕天使(ルシファー)と徳永が手を差し伸べて十兵衛を引き上げた。


「十兵衛さん! 大丈夫ですか!?」


「うん、大丈夫!」


「全く……無茶しおって……」


 安堵と呆れの混ざった表情の徳永が呟く。


「心配かけてすみませんでした」


「まあ、何だ。無事で何より。しかし、もう君一人の身体ではない。無茶は禁物だぞ。よいな?」


「はい。気をつけます」


「ちょっと! あれ!」


 ペンタゴンの指差す先を観ると、仰向けでぷかぷか浮いているオヤジの姿があり、破れたアロハシャツからメタボ腹が丸見えになっている。どうやら、蓄えた脂肪のお陰で沈まずに済んだようだ。

 ゴムボートで向かい、ペンタゴンがオヤジの胸ぐらを掴んで往復ビンタで叩き起こす。


「目覚めたところ悪いけど色々質問するわ。言っとくけど、嘘吐いたり抵抗したら沈めるから。長生きしたいなら素直に答えて。いい?」


「わ、分かった。分かったよお……」


 ペンタゴンが横に居る十兵衛をちらりと見て頷いたのを合図に、十兵衛が尋問を開始する。


「改めてお訊きします。ケーキはどうやって手に入れたんですか?」


「……。六日前、あそこに見える塔が現れて町が水没した日、ペースメーカーの電池交換のため入院している妻の無事が気になり、趣味で持っていた水上バイクでセントラル病院へ向かいました。案の定、病院は水没していましたが、幸いなことに水没したのは五階から下で、妻の病室がある七階は無事でした。それでも妻の無事をこの目で確かめたかった私は窓ガラスを壊して五階から中に入りました。そしたら……」


「どうしましたか?」


「あ、あの、今から突拍子もないことを言いますけど、全部本当のことなんです。信じていただけますか?」


「信じます。話を続けてください」


「あ……ありがとうございます。そしたらですね、信じられないことに病院の中がケーキまみれだったんです。まるで、子供の頃に読んだヘンゼルとグレーテルに出てくる、お菓子でできた魔女の家のようでした。何でこんなことになっているのか不思議でした。しかし、そんなことより妻の安否が気になったので、エレベーターに向かいましたが、ブレーカーが落ちたのか何度ボタンを押しても来なかったので、階段を使うことにしました」


 病院の中がケーキまみれ……。神の使いの仕業か?


「生クリームまみれになりながらも七階に着いた私は妻の病室へと向かいました。外と同じように、病室の中もお菓子だらけでした。ケーキの山を掻き分けて奥へ進むと、変な化け物に襲われそうになっている妻を見つけました」

 

「変な化け物?」


「はい。顔の部分に不気味なピエロの仮面を着けた、黒くて大きい芋虫みたいな化け物でした。私が妻を庇うと、化け物が言ったんです。言うことを聞けば妻には手を出さない、病院にあるケーキをあちこちに配って歩けば見逃してやる、と。ケーキを配りさえすれば妻を助けられる……。断る理由はありませんでした」


「じゃあ、ケーキがどういうものか、食べれば怪物になるってことは知らなかったんですか?」


「はい。しかし、化け物が用意したケーキがまともなものであるはずがない……という予感はしていました。なので、いきなり大勢に配るのは躊躇いました。幸い、化け物は一日のノルマを指定しませんでした。そこで一旦、渋川の自宅に戻り、隣に住む息子家族に食べさせて、一週間様子を見て問題がなければ配ることにしました」


「自分の子供や孫を実験台にしたんですか!?」


「はい……。やってはいけないと思いましたが、背に腹は代えられず……」


「それで、どうなったんです?」


「ケーキを渡して四日後、息子の嫁と孫が亡くなりました。しかし、死因は衰弱死でしたが、今まで元気だったのに突然だったので、ケーキのせいだと確信しました。そして、二人が亡くなってから二日後、安置所に置いた遺体の様子を見に行った息子が死んだという連絡が入りました。あとで聞いた話では、化け物となって蘇った二人に殺されたとのことでした」


 安置所、蘇った遺体が化け物に……。ひょっとして……!?


「その亡くなったお二人のお名前、もしかして、めぐみとあやかですか?」


「そ、そうですが、何故それを……!?」


「化け物になったお二人を倒したの、俺たちなんです」


「……そうでしたか。あなた方の手を汚すようなことをさせてしまい、申し訳ありませんでした」


「謝るなら俺たちではなく、ケーキを食べさせた息子さん家族に謝ってください」


「……。……折り入ってお願いがあるのですが、病院に居る妻を助けていただけませんか? なんとか……なりませんか? お願いします。私に残された最後の家族なんです。私がどうなろうと構いません。彼女だけは助けて欲しい、生きていて欲しいんです。お願いします」


「……。奥さんの名前と病室は?」


「名前は水原祥子です。病室は七階の七一五号室、窓際のベッドです」


「水原祥子さん、七一五の窓際ですね。分かりました。奥さんは必ず救出します。……その代わり、償いを受けてください。いいですね?」


 オヤジが黙って頷き、目を閉じる。


「ペンタゴン」


「……。イエッサ……」


 次の瞬間、ペンタゴンの右手がオヤジの首を握り潰した。

 掴んでいた手を離すと、生命を終えた肉体は水の上を漂い、遠くに消えていった。

 三途の川を渡ったか、あるいは地獄に堕ちたのを見届け、十兵衛が口を開く。


「行こう。セントラル病院へ」


 ゴムボートは出発した。

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