華嫁降誕 群馬黙示録 誤解
二日目 夜
前橋(水没) 荒牧町(水没)
群馬ユニバーシティー 総合会館 屋上
「ペンタゴン! 一気に片づけろ!」
「ラジャー!」
ペンタゴンが胸を切り開いて吸引口を露にする。
「必殺! 裂胸暗黒宮!」
強力な引力を発生させ、有効射程内に居る魔人たちを吸い込んで消滅させる。
「あとはあいつらだけか!」
射程圏外には、魔人ヒロと魔人オタマジャクシの群れの姿がある。
魔人オタマジャクシは数を増して三十体以上がひしめき合っており、男のイチモツを彷彿とさせる黒い頭が密集している様は実に不気味だ。
「……ウッ!」
ご立派な頭をした魔人ヒロが謎の白い粘液を飛ばす。
撒き散らされた粘液から魔人オタマジャクシが生まれ、更に数が増える。
「喰らえーっ!」
堕天使がカセット式ガスバーナーの炎で魔人オタマジャクシを焼き殺すが、圧倒的な数の暴力には敵わず、遂にガス欠を起こす。
「ガスが! う……うわああああああああ!」
イチモツの群れを前に堕天使が絶叫する。
堕天使の奴、まずいぞ! 何かないのか!?
その時、十兵衛は床に置かれたままのカセット式ガスコンロを見つけた。
ボンベカバーを開け、カセットガスが入っていることを確認する。
「堕天使! これを!」
カセットガスを取り出して投げ渡す。
「は、はいっ!」
空になったカセットを捨て、受け取ったカセットをガスバーナーにセットしてトリガーを引くが、何故か火が出ない。
「この! この!」
焦る堕天使に魔人オタマジャクシたちが近づいてくる。
「このっ! この! このっ!」
ブラウン管のテレビを叩いて直すように、ガスバーナーを手で必死に叩きまくる。
何度目かの正直で勢いよく火が噴き出す。どうやら、何かの弾みで接触不良になっていたのが直ったようだ。
堕天使が焼き、十兵衛と徳永がリンチでとどめを刺し、魔人オタマジャクシを着実に倒していく。
「雑魚はこれで全部みたいです!」
十兵衛が最後の魔人オタマジャクシを殴り倒す。
「となると……。残っとるのは、あいつだけか!」
十兵衛たちは魔人ヒロと対峙する。
「ウッ……ウウ……」
やる気満々の十兵衛たちを目にして魔人ヒロは怯むような仕草をし、摺り足で一歩後ろに下がる。
それに合わせて十兵衛たちも一歩前に進み、魔人ヒロは更に一歩後退する。
後退しては前進の流れを何度も繰り返すうち、魔人ヒロは屋上の端に追い詰められ、背水の陣の体勢となる。
魔人ヒロはその場にひざまずき、両腕を水平に伸ばして波打つようにくねくねと動かし始める。
あの動きは一体……!? 何をする気だ……!?
「ウッ!」
一声上げた直後、魔人ヒロは海老反りの姿勢で後方に跳んで頭から水中へとダイブし、大きな水柱が上がる。
「待てっ!」
予想外の行動に驚いて出遅れながらも、十兵衛は後を追いかけようと屋上の端に駆け寄り、魔人ヒロが飛び込んだ水面を見下ろすが、夜の暗さのせいで水中の様子は分からない。
「逃げられたな」
そう言いながら、徳永が十兵衛の肩に手を置く。
ふと、気配を感じて振り向くと、ヒロの彼女とその女友達が居た。十兵衛たちが戦っている間、物陰に隠れていて無事だったようだ。
「あ、あの……。ヒロは……、ヒロはどうなったの!? 何であんな化け物になっちゃったの!? 何で!?」
「みんなは!? 変な怪物になったみんなはどうなったんですか!? どこに行ったんですか!?」
重苦しい空気が流れる中、徳永が口を開く。
「ケーキを食べて怪物になってしまった者は皆、倒した。あなたの恋人は逃がしてしまったが……」
「倒した……? 何それ……。殺したってこと……!?」
「そうだ」
「何で!? 何で殺したんですか!?」
詰め寄る女友達と徳永の間に十兵衛が割り込む。
「あのまま野放しにしてたら、みんな殺されていました。だから、仕方なかったんです」
「そんな……!」
ヒロの彼女が泣き崩れる。
「ケーキを食べて怪物になったって……。まさか、あなたたち知ってたんですか!? ケーキ食べたら怪物になるって! どうなんですか!?」
「……確証はありませんでしたが、予感はしていました」
「なら、どうして……!? どうして言わなかったんですか!? 言えば助かったのにっ! 何でですかっ!?」
女友達が十兵衛の胸ぐらを掴む。
「だって、言ったらパニックに……」
「そのせいで、パニックより最悪なことになったじゃない! 知ってて黙ってたなんて! この……人殺し!」
言葉が突き刺さり、放心状態の十兵衛が殴られる。
「言わない方がいいと言ったのはワシだ! この子は悪くない! 殴るならワシを殴れ!」
「……っ! このっ!」
頭に血が上った女友達が感情のままに拳を繰り出し、徳永の顔面に当たって血が飛び散る。
「暴力はやめてっ!」
通常形態に戻ったペンタゴンが女友達を羽交い締め、徳永への二発目を食い止める。
「ちょっ……離して! 触んないでよ! 化け物っ!」
激しく抵抗され、振り払われる。
「ば、化け物……!?」
「そうよ! 急に筋肉ムキムキになったり縮んだり……。あんたみたいな人間居る訳ないじゃない! どう考えたって化け物よ!」
「化け物……。私が……」
「分かったわ! 化け物になるケーキを食わせたの、あんたたちね! 仲間増やしたくてケーキ食わせたのね!」
「違う! 僕たちはそんなことしてない!」
ヒステリックな言動の数々に堪り兼ねた堕天使が声を荒らげて抗議する。
一方、ペンタゴンは精神的ショックで泣き出す。
「違う……! 私、化け物なんかじゃない……!」
「泣きたいのはこっちよ! 化け物のくせに……めそめそしないでよっ!」
女友達が泣きじゃくるペンタゴンを平手打ちする。
「てめえーっ!」
十兵衛の何かが切れる。
「俺の嫁を泣かしてんじゃねえ!」
渾身の右ストレートが顔面に炸裂し、女友達が吹っ飛ぶ。
「女に手を上げるなんて……最低……!」
女友達は殴られた頬を押さえながら立ち上がり、生き残った他の避難者たちの方を向いた。
「皆さーん! この人たちは人殺しです! あのケーキ食べると化け物になるのを知ってたのに黙ってたんです!」
避難者たちがざわつく。
「あと、そこに居る女は化け物です! 仲間を増やしたくてケーキを食わせたんです! それを指摘したら、そこの男が私を殴ったんです!」
何言ってんだ! この女!
「ふざけるな! ……痛っ!?」
吠える十兵衛の頭に石が当たる。
「石をぶつけてやれ!」
「殺せ!」
「ここから出てけ!」
「悪魔どもを追い出せ!」
「死んでしまえ!」
恨みの言葉を吐きながら避難者たちが石を投げてくる。
「じゅっ、十兵衛さん! ヤバいですよ! 本当に殺されちゃいます! 逃げましょう!」
堕天使が悲鳴を上げる。
「……くっ!」
石の雨が降り注ぐ中、十兵衛たちはゴムボートを漕ぎ出し、避難所を後にした。




