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こまけぇこたぁいいんだよ!!  作者: 承り太郎
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華嫁降誕 群馬黙示録 楽園行きの方舟

 二日目 昼

 前橋(水没) 心中教会 二階



「えーと、どちら様でしょうか?」


 十兵衛が口を開く。


「申し遅れました。私、園田(そのだ)真澄(ますみ)と申します。以後、お見知り置きを。ところで皆さんのお名前は?」


「俺は乃木十兵衛です」


「た、田中……ル……。あっ、いや、田中です」


「ペンタ……じゃなくて、下川英理(えり)です」


「加藤徳永だ」


「息子の永久です。真澄さん、先程仰った選ばれし民とはどういう意味か教えていただけませんか?」


「それはシスターからお聴きください。案内します」



 二日目 昼

 前橋(水没) 心中教会 二階 礼拝堂



「シスター。真澄です」


「入りな」


 分厚い扉越しに若い女の声が応答する。


「失礼します」


 扉を開けて中に入ると、礼拝堂内に居た人間たちが一斉に振り向いた。

 小学生、中学生、高校生、大学生、主婦、サラリーマン、警察官、老人、その他大勢。ざっと見た限り二十人以上居る。


「そいつらは?」


 主祭壇の前に声の主らしき人影が立っている。

 この人影がシスターのようだが、入口から遠過ぎて顔は分からない。


「新たに選ばれた民の方々を連れて参りました。向かって右から乃木十兵衛くん、下川英理さん、田中くん、加藤徳永さんとご子息の永久さんです」


「ご苦労さん。引き続き門番頼むよ」


「はっ。では、失礼いたします」


 一礼して真澄が礼拝堂を後にする。


「ようこそ。ウチの教会へ」


 主祭壇からシスターがやって来る。

 その頭は燃えており、首から下はステンドグラス状の皮膚に覆われていた。

 恐るべき異形に戦慄し、十兵衛たちは蛇に睨まれた蛙の如く目が離せなくなる。


「ん? どうしたんだい? アタシの顔に何かついてるのか?」


 炎の中で両目を青く光らせながら十兵衛たちに質問する。


 恐怖を悟られたらマズイ! 誤魔化さないと……。何でもいいから言わなくちゃ!


「いえ! 中々凛々しいお姿をしていたので、つい見とれてしまったんです! 気に障ったなら、すみまっせん!」


 十兵衛が深々と頭を下げる。


「へーえ。嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。頭を上げな。歓迎するよ」


 よかった。機嫌を損ねずに済んだぞ。


 ホッと胸を撫で下ろして周りを観る。


 あの真澄って人も、ここに居る人たちも、シスターを心配したり気にする様子が無い。異常だ……!


「ええと……。シスター、選ばれし民とはどういう意味か教えていただけませんか?」


 永久が恐る恐る訊ねる。


「あれ? 真澄の奴から聞いてないか?」


「あなたからお聴きするようにと……」


「そうだったのか。なら順を追って説明してやるよ」


 このシスター、なんか言葉遣いが悪いなあ。


「この教会に来る途中、馬鹿デカい塔を見たろ? あれのてっぺんには、あらゆる不幸からこの世を救い、人々を楽園に導こうと考えてる神様が居るんだ」


 神……!


「でもさ、誰彼構わず救ったら調和が乱れちまうだろ? だから、神様は人々を(ふるい)にかけて楽園で暮らすに値する奴だけを導こうとしてるのさ」


 ということは、世界中で起きてる衰弱死は(ふるい)から落とされた結果だったのか!


「この教会は楽園へと向かう方舟にして、本当にそいつが楽園に行くに値するか試す最後の(ふるい)の役目を担っている。一階が迷路になってたろ? 迷路を抜けられた奴を選ばれし民として歓迎してるってワケ。……で、アタシはこの方舟を守る神様の使いだ」


「なるほど。丁寧な説明、ありがとうございます」


「選ばれた民に礼儀を尽くすのは当然のことだし、礼はいらないよ。楽園に着くまで時間はたっぷりとあるから、すぐそこの食堂でお菓子とかリンゴとか食べてゆっくりしてね」


「では、お言葉に甘えさせていただきます。失礼します」



 二日目 昼

 前橋(水没) 心中教会 二階 食堂



 食堂には六人がけのテーブルが全部で九つあり、いずれのテーブルの上にはお菓子や果物の入ったバスケットと電気ポット、下にはカップラーメンの入った段ボール箱が置いてあった。

 十兵衛たちは入口から見て左奥のテーブルで一息吐いていた。


「これ、食べてもいいですか?」


 堕天使(ルシファー)が個包装のマドレーヌを手に取る。


「見たところ市販のお菓子みたいだし、食べていいと思うよ。父さんはどう思う?」


「ふむ……。うん、大丈夫だろう」


「じゃあ、いただきます」


 人が食べてるの見てたら小腹が空いてきたな。俺も何か食べよっと。どれにしようかな?


 迷った末に醤油煎餅を選んで食べ始める。


「俺たち、選ばれし民に選ばれたってことは、ここで大人しくしていれば安全ってこと……ですかね?」


 万が一、シスターや門番の真澄に聞かれないように小声で話す。


「いや、それはどうだろう」


 永久が唇を歪める。


堕天使(ルシファー)くん、君が聞いた幻聴は何と言っていた?」


「えっと……。私が救ってあげる、です」


「君はそれを一昨日に一回だけ聞いたと言っていたね。……変だと思わないか? この方舟にたどり着けた者だけを選ばれし民として救う筈なのに、何故方舟に乗ってない人間に救ってあげると言うのか……。実におかしいだろう?」


 言われてみれば……。


「恐らく、この方舟はシスターが言った通りのものではない。それから、塔の頂きに居る神様とやらに、ここに居る選ばれし民を救う気は無いだろう」


「仮に救う気があったとしても、ワシらが想像する救い方とは程遠いだろう。……さあ、救世主。どうする?」


 徳永が十兵衛を真っ直ぐ見つめながら訊ねる。


「シスターに真意を確かめに行きましょう。それでもし、救いの意味が俺たちの思い描くものと違う時は……倒します」


「うむ」


「決行はいつにする?」


「善は急げと言いますし、今すぐ行きましょう」


「ワシらは構わんが二人は……」


「私は乃木くんの決断に従います」


「ぼ、僕も……行きます」


 向かいの席に居るペンタゴンを横目でちらちら見つつ、堕天使(ルシファー)が志願する。


 全員揃ったな。よし……!


「行こう」


 一行は食堂を出て礼拝堂へと向かった。

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