乱世!救世主伝説
軽トラックにはねられて異世界に転移したアルケミーは五人の仲間たちと共に隣国・ジラスが送り込んだ変態メカの迎撃に向かった。
壮絶な戦いの末に変態メカを倒したが、その代償としてフェスタムはアルケミーたちの目の前で散った。
フェスタムの死を悲しみながらもアルケミーは残った四人の仲間と共に戦い続けることを誓うのだった。
そして、フェスタムの死から一年半、アルケミーが異世界に転移してから二年。
世界の大半はジラスによって支配されていた。
変態メカの一件以降、ジラスはこれまで以上の大規模な武力行使を開始。スカウトした転移者たちを主戦力としたジラスの軍事力を前に世界は瞬く間に征服されてしまったのだ。
ジラスによる世界征服後、一部の人間たちはレジスタンスを結成し、ジラスと激しい戦いを繰り広げていたが、圧倒的なジラスの力を前に徐々に追い詰められていた。
ピープル城とその城下町もジラスの支配下にあった。
城まで続く長蛇の列。彼らはジラスの兵士から食料の配給を受けるために並んでいるのだ。
世界の食料もジラスによって掌握されており、好きな時に好きなものを食べることは遠い昔の話と化していた。
「おい!ジャガイモが一個足りないぞ!」
配給される食料の量は兵士のその日の気分次第なので平等の二文字は存在しない。
「うるせえ!口答えするな!気分を壊したぞ。今日の配給は終了だ!」
城の扉が乱暴に閉じられる。
「まだもらってないぞ!」
「お前のせいだ!お前のせいで今日は飯抜きだぞ!」
「てめえ!責任とれ!」
「死んで償え!」
兵士に口答えした男性は町民たちによるリンチの末、晒し首にされてしまった。更には男性の妻と娘も一晩中マワされた後、町民たちの私刑で首吊りにされてカラスのエサになった。
これはこの町に限ったことではない。世界中で日常茶飯事の光景。
世界は飢餓と暴力に満ち溢れていた。
ところ変わって、ここはエルオー大陸の南に位置する国、トロとスカの国境付近。
女性と男二人が揉めている。
「子供が二人、お腹を空かせて待っているんです!お願いです!通して!」
「ダメだね!」
「誠意を見せれば通してやるよ」
「だから、何度も謝っているでしょう!?」
「ぶつかられて大怪我したんだぞ!」
「謝って済むかよ!」
「言いがかりです!軽くぶつかっただけじゃない!その証拠に傷一つ無いでしょう!?」
「るせえ!さっさと誠意を見せろってんだ!」
男が女性の襟首に手をかけて馬鹿力でシャツを引き裂くと、綺麗な乳房が露になる。
「きゃあ!」
「この女!最初からヤル気満々じゃねえか!」
「違います!たまたま着けてなかっただけで……」
「二人産んだ割には綺麗じゃん」
「や、やめて!ああああ!嫌ああああ!」
「キーキー喚くな!」
その時、一人の男が通りすがった。
「お前たち。そこで何をしている」
振り向くと、十六歳くらいのガタイのいい長身の少年が立っていた。腰まで伸びた黒いロングヘアが印象的だ。
「何ってナニに決まってんだろ!見せ物じゃねえよ!失せろ!」
「そう言うな。坊主、交ざりたいか?別に構わんぞ。人数が多いほど楽しいからな。おい女!そう思うよな?な!?」
男が同意するように強要する。
「あ、ああ、ああああ!ああっ!」
抗っているが堕ちるのは時間の問題のようだ。
「男二人で乱暴か。気に入らん」
長髪の少年が殺気を放ちながら迫る。
「お、おい!それ以上近づくな!ぶっ、ぶっ殺すぞ!」
「お前こそ乱暴をやめろ。それ以上やれば殺す」
「ひ、ひいいっ!うわああああーっ!」
男がナイフを構えて突っ込むのと同時に少年が深呼吸をする。
「死ねえええええ!」
「ラアアアアアアアアアーッ!」
大声を出した瞬間、少年の口を中心に空気の波が発生する。
音障壁をまともに喰らい男が弾き飛ばされ、ナイフが地面に刺さる。
「うわあ!うひゃあああ!に、人間業じゃねえ!ひいい!」
恐怖のあまり失禁し、地面に水溜まりができる。
怯えて動けない男に少年が近づき、男の顎と両手と股間をゴツい右足で素早く踏み潰す。
「ぎゃああああ!あ、あ、あ、あ……」
「これでもう女を泣かすことはできないな。さて、次はお前だ」
女性の下半身を弄り続ける男を睨み付ける。
「あ、ああっ……。うわああああーっ!」
仲間の死を目の当たりにして自分が置かれた状況のヤバさを理解して逃げ出す。
「逃がすか外道!」
少年は地面に刺さったナイフを素早く抜き、アンダースローでナイフを投げた。アンダースロー独特の軌道を描いてナイフが男の背中に命中して貫通し、串刺しにされた心臓が転がり落ちる。
「う、あ」
自分の心臓が止まるのを見ながら男が絶命して倒れる。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとう……ございます。う、ううっ……。お恥ずかしいところをお見せして、すみません、でした……。うう……」
「これは事故です。気に病まないでください」
「でも……。私……。主人以外の人で……。私、汚い、女です……」
「あなたは綺麗な人です。本当に汚いならば、ご主人のことなんて忘れてしまうはずです。だから、あなたは綺麗ですよ。自信を持ってください」
「あ……ありがとう、ございます……。ううっ、うう……」
少年は女性の自宅まで付き添った。
「色々とありがとうございました」
「助けたいと思ったから助けたまで。礼はいりません。それでは」
回れ右して少年が立ち去ろうとする。
「あの!せめてお名前だけでも……」
しばらく立ち止まってから振り向く。
「アルケミー・フォーミュラです。では、お達者で」
今度こそアルケミーは振り返らず去っていった。
「今の男の人は誰だい?」
家の中から主人が顔を出す。主人は病気の影響か痩せ細っている。
「アルケミー・フォーミュラさん。私を暴漢から救ってくれたんです」
「へえ。この暴力の時代に……。もしかしたら、彼のような人が……。いや、彼なら救世主になれるかもしれないね」
遠くに見えるアルケミーの背中を見て、主人はそう呟いた。
そう。時代は救世主を必要としていた。