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こまけぇこたぁいいんだよ!!  作者: 承り太郎
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華嫁降誕 群馬黙示録 託されるもの

 一日目

 群馬県 沼田市 住宅街



 十兵衛は、神父の永久とその父である徳永と共に、ペンタゴンを宿したダブスクを取り戻すため、沼田城跡へ向かうことにした。

 その道中で十兵衛が振り返る。


「あれが、夢に出てきた塔ですか?」


 十兵衛の視線の先には、沼田市から南へ約二十八キロ先の前橋市にそびえ立つ塔の姿があった。

 塔の先端は雲の中に隠れており、完全な全体像を知ることはできない。


「そうだ。聖典から名を借り、ワシはバベルの塔と呼んでいる。もっとも、あれの頂上に居るのは、主のような信仰するに値する存在ではないだろうがな……」


「どういうことです?」


「順を追って話そう」


 徳永は静かに話し始めた。


「一昨日の早朝、午前六時頃、何十年に一度の超大型台風が関東に近づき、群馬県全域に暴風特別警報、前橋市に避難勧告が発令された」


 超大型台風……。


「暴風域の前橋から三十キロ離れている、この沼田でも凄まじい風と雨だった。この世の終わりかと思ったが、台風一家はすぐに過ぎ、太陽が訪れると思っていた。……まさか、この世の終わりが本当にやって来るとは、夢にも思わなかった」


「何が……起きたんです……!?」


「警報が出てから五時間後、それまでの嵐が嘘のようにぴたりと止んだ。不思議に思い、二階の窓から外を見ると、前橋の中心で何かが強く光っているのが見えた」


「光っていた?」


「うむ。それが何かは分からんが、主の降臨を彷彿とさせる幻想的な光だった。やがて、その輝きの中から一筋の光が飛び出し、空に大きな穴を空けた。穴から降り注ぐ太陽の光……。この世のものとは思えない美しさだった」


 一体、何が光っていたんだろう?


「その直後、光を放っていた何かがその輝きを失い、代わりに黒い煙を出し、前橋全体に充満していった。やがて、黒煙は天高く昇り、一つの巨大な塊となった。そうしてできたのが、あのバベルの塔。そして、塔の出現が終わりの始まりだった」


 遠い目をしながら話を続ける。


「塔が出現してから、それまで元気だった人間が突然死するという奇妙な現象が始まった」


「突然死!? 心臓発作とか?」


「違う。衰弱死だ」


「えっ!? 元気だった人がいきなり!?」


「うむ。なんの前触れもなく衰弱し出したかと思えば、あっという間にぽっくり、と。……聞いた話だが、何故死ななければならないのか、訳が分からぬまま死んだ者も居るそうだ」


 ……。酷い……。


「この現象は群馬だけでなく、日本全国……。いや、世界中で起きている」


「なんですって!?」


「国連の発表によれば、一秒間に八千人近くが衰弱死しているそうだ。つまり、一昨日と昨日だけで十三億近い命が奪われていることになる。世界の総人口を七十億とすると、ワシらに残された時間は、今日を含めても八日とちょっと。一週間以内にバベルの塔を壊さなければ、人は滅びるだろう」


「そんな……! あの塔は何のために人の命を奪うんです!?」


「分からん。命を弄ぶ悪魔なのか、堕落した人類を粛清する神なのか、そのどちらでもないのか……。いずれにせよ、あれを壊さない限り、未来が無いのは確かだ」


 徳永が十兵衛に目を向ける。


「その無から人を救い、明日を取り戻すのが……。十兵衛くん、救世主である君の使命だ」


 救世主……。


「なんか、凄いプレッシャーです……。はは……」


 ぎこちなく笑う十兵衛の肩を徳永が優しく叩く。


「安心なさい。君は一人ではない」


 永久が十兵衛に手を差し伸べる。


「今、この世界は闇の中にある。我々の使命は、主の教えに従い、闇を照らすこと。どうか、私たちも同行させて欲しい」


 初めての異世界転移を経験し、重すぎる使命を背負い、心細かった十兵衛にとって、二人の言葉は暖かいものだった。


「あ、ありがとう、ございます……! ありがとうございます……!」


 溢れてくる涙をハンカチで拭う。


「落ち着いたかい?」


「はい、もう大丈夫です」


「では、行こう。君の嫁を迎えに」


 上州真田の里と書かれた出入り口のゲートを潜って沼田城跡に入る。


「あれだ。あれが稲姫の像だ」


 出入り口から徒歩一分、真田信之と小松姫(稲姫)の石像を見つけ、永久が十兵衛に知らせる。


 この石像に俺のダブスクが……。


 石像の周囲をぐるりと回ってみるが、ダブスクらしきものを見つけることはできない。


「ありませんよ」


「おかしいな。ワシの夢が間違ってたか?」


 その時、三人の頭の中に誰かの声が響いた。


 乃木十兵衛殿。遠い世界からここまでよく来ましたね。


「だ、誰ですか!?」


 あなたの目の前に居ります。


「えっ!?」


 稲姫の石像と目が合う。


 私がまだ生きていた頃、夢の中でお告げを受けました。遥かなる明日、異なる世からやって来る者にこれを渡せ。来るべき時まで預かって欲しい、と。目が覚めると枕元に見慣れぬものがありました。


 突如、石像に亀裂が入り始める。


 お告げに従い、私は寿命が尽きても天に昇らず、ここで待ち続けました。あなたがやって来るのを……。


 亀裂が石像全体に走り、細かい破片が地面に落ちる。


 私は既に過去の者……。還る肉体も戦う力も……。もう、ありません……。群馬を、この世を守れるのは、今を生きる皆さんです。


 次の瞬間、派手な音を立てて石像が砕け、破片の中から十兵衛のダブスクが姿を見せる。


 皆さん、今の私にできないことをやってください。私は夫の元に逝きます。ご武運を……。


 声は聞こえなくなった。


 この世を守るのは、今を生きる俺たちだ!


 決意を胸にダブスクをその手に掴んで振り返る。

 十兵衛の目に永久と徳永が頷いて応える。


「行きましょう!」


 前橋にそびえ立つバベルの塔を目指し、三人は沼田城跡を出発した。

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