レプリカ・彼女黙示録 華嫁降誕 探索
西暦二〇一五年 六月十三日 午前八時四十九分
旧青葉区 國分町 Bブロック アヘビル前
十兵衛たちは古い雑居ビルを見上げていた。
「この建物の二階だな」
「うん」
二階に貼られたウィンドウフィルムには、ゴシック体で坊主専門ヘルスと書かれている。
「行こう!」
シンヤと鶴姫を率いて建物に入り、幅一メートル五十センチ、長さ十メートルの廊下を進むと、錆びたエレベーターの扉に突き当たる。
扉横にある操作パネルの上昇ボタンを押すが、いつまで経ってもエレベーターが降りてくる気配はない。
何回もボタンを押してみるが、やはり降りてこない。
「おい。電源がオフだぜ」
シンヤの指摘で操作パネルを注意深く見ると、バッテリー切り替えスイッチの鍵穴がオフ側に傾いていた。
「こうなったら、階段を使うっきゃねえな」
エレベーター横にあるコンクリート打ちっぱなしの非常階段に目を向ける。
踊り場の壁に設置されたアルミサッシの曇りガラスから外の明かりが射し込んでいるが、アヘビルの裏手に別の雑居ビルが建っているため、射し込む光の量は少なく、踊り場を含めて階段全体が薄暗い。
「なんか……不気味じゃな」
「んなこと、気にしてられっかよ」
「そうだね。行こう」
足音を立てないよう細心の注意を払いながら階段を上り、二階の廊下に出る。
「まるでホテルみたい」
廊下に並んだ木製の扉を見て十兵衛が呟く。
「あれ見ろ」
シンヤの指差す先に一枚の貼り紙を見つける。
お客様へ
受付はコチラです
受付にて希望の女の子を申し上げてください
店長
……と、マジックペンで書かれている。
「分かったぜ。ずらっと並んだ部屋ん中には女の子が居て、受付で希望の娘を言えば、その娘の部屋の鍵を渡されるってシステムだぜ」
「じゃあ、レプリカ使ってドアを一つ一つ壊して、拐われた娘を探す?」
「ここは敵地のど真ん中、どれだけの数が潜んでるか分からねえ。派手にやるのはまずい」
「ここは大人しく受付さ行くのが得策じゃな」
貼り紙に書かれた矢印に従って廊下を進む。
「あ、そうだ」
「どうした?」
十兵衛が振り向いてシンヤに問いかける。
「ここって男向けの風俗でしょ?今更だけど、女の子が……鶴姫が来るのまずくない?受付に連れてったら不審がられたりしないかな?」
「そん時は、レズ希望の娘なんです、って俺がフォローしとくぜ」
「そんなんで本当に大丈夫なの?」
「お客様は神様って言うだろ。邪険には扱われねえさ」
お客様は神様ねえ……。
「なあなあ。れずとは何じゃ?」
初めて聞く単語に興味津々の鶴姫がシンヤの袖を引っ張る。
「今は女の子の救出が第一だ。悪いが、お前の質問に答える余裕は無い。奴らを倒して、女の子を救出して、ここから脱出して……。とにかく、全部終わったら教えてやる」
「約束じゃぞ」
「おう」
この場で今、正直に答えようものなら、女同士で乳繰り合うとはけしからん!……とか怒り出すのは目に見えてる。ここは、あとで答えると約束して回避するのが賢明。しかも、拐われた娘の救出という真っ当な理由を出す隙の無さ!実にイエス!
「二人とも、行くよ」
「おう」
「うむ」
心の中で賛辞を贈りながら先頭に立って歩く。
曲がり角を左に曲がると廊下の左手、中央付近に受付らしきスペースがあるを見つける。
受付を正面から見ると、左側にキャッシュレジスターとガムの自販機が木製のカウンターの上に置かれている。また、受付左の壁のくぼみに栄養ドリンクの自販機が一台設置されている。
受付の幅は一メートル二十センチくらいだが、奥行きは意外とあるのか、十兵衛たちの居る廊下の曲がり角からだと受付の内側が死角となっており、中の様子が見えない。
「人……。居るのかな?」
「電気が点いてるだろ。居るに決まってる」
「だ、だよね」
何をうじうじしてるんだ!?拐われた女の子を助けに来たんだろ!しっかりしろ!……男は度胸!行くぞ!
意を決して向かった受付には七十代後半と思われる老人が居り、カウンターで見えないが丸椅子に座っているようだった。
カウンターの内側には小型の冷蔵庫が一台と、老人の真後ろにはスタッフルームに通じていると木製の扉が一つある。
「いらっしゃい」
「ど、どうも……」
十兵衛が老人に会釈する。
「見慣れない顔だな。ここ使うの初めてか?」
「ええ」
「そうかそうか。数ある店の中から、うちを選んでくれてありがとう。さて……」
老人がカウンターの下から一冊のクリアブックを取り出し、十兵衛の前に差し出す。
クリアブックの表紙には坊主リストと書かれたテープが貼られており、表紙をめくるとデリヘル嬢のプロフィールなどを記載したプロフィール用紙がファイリングされていた。
「どの娘にするか選びな」
ページをめくって拐われたギャルJKを探すが見つからない。
「女の子はこれで全部ですか?」
「ああ」
ギャル系の女の子は居ませんか?……って訊きたいけど、助けに来たって勘づかれたらまずい。遠回しに訊いてみるか。
「あ、あのっ。最近入ったばかりの新人の女の子って居ませんか?」
「新人?居るよ。今日入ったばっかのが一人」
「本当ですか!?どんな娘です?」
「ギャル系だ」
ビンゴ!
「ん?兄ちゃん、その新人にしたいのか?」
「は、はいっ!是非!ギャル大好きなので!あはは!」
「悪いこと言わん。やめなさい」
「えっ?どうして?」
「見た目はいいが、反抗的で言うことをきかん。しかも、サービス精神のサの字も無いガサツな女だ。しかし、うちの孫は好きらしくてな。連れてきてからずっと可愛がっとる。全く、あんなののどこがいいんだか」
ずっと……可愛がっている……!?
「その新人、お孫さんにサービス中なんですか?」
「ああ。新人教育の真っ最中だ。……ひょっとして、兄ちゃんと連れ二人も混ざりたいのか?」
新人教育!?嫌な予感がする!潜入して確かめてやる!
「是非!混ぜていただけるなら喜んで!」
「分かった分かった。ほれ」
老人がカウンターの上に一本の鍵を置く。
「ここ来る途中にエレベーターあったろ?それの電源スイッチのスペアキーだ。電源入れて七階押してスイートルームさ向かえ。兄ちゃんたちが混ざる手はずは、わしが整えとくよ」
七階のスイートルーム!確かに聴いたぞ!
「ありがとうございます!」
礼を言ってスペアキーを手に取り、受付から走り出した十兵衛の背中をシンヤと鶴姫が追いかける。
一分もかからずエレベーター前に到着し、切り替えスイッチの鍵穴にスペアキーを挿してON側に鍵を傾ける。
起動したことを意味する操作パネルの緑ランプ点灯を確認して上昇ボタンを押すと、すぐに箱が二階に到着して扉が開く。
箱に乗り込んで操作パネルを確認すると、開閉ボタンの上に一から七までの階数ボタンが配置されていた。十兵衛が五のボタンを押すと扉は閉まり、軽く振動してから箱がゆっくりと上昇を開始する。
「なにが新人教育だ。新人調教の間違いだろ、クソジジイ」
シンヤが吐き捨てるように呟く。
「あのおなごは今、一体何されとるんじゃ?」
「調教だ」
「調教?」
「痛めつけて自分たちの言いなりになるように洗脳にすること。最悪の場合、心と身体が壊れて廃人になっちまうだろうよ」
「なんじゃと!?女を何だと思っとるんじゃ!」
「こんな店の連中だし、道具くらいにしか思ってないよ」
「おのれ……!絶対に許さん!」
その時、エレベーターが五階で停止して扉が開く。扉の向こうには誰も居ない。
「え?何で止まるの?あれ?」
「十兵衛。さっき何階押した?」
「七階。それと閉める以外、触ってないよ」
「となると、外部から操作されたってことか」
「それって……奴らが止めたってこと?」
「わしらがここさ来た目的がバレたんじゃ!」
「ここに居続けるのはヤバい!」
急いで廊下へと出ると、エレベーター横の階段から上ってくる足音が聞こえてきた。
「奴らが来る!」
「どっか空いてる部屋に隠れるぜ!」
廊下に並んだ部屋の扉を手分けして次々と開けようとするが、どの部屋も鍵がかかっていて入ることができない。
焦る十兵衛たちに構わず、階下から足音が迫ってくる。
「やべえよ!やべえよ!」
「どっか一つくらい開いてろよ!頼むから!」
「何故どこも閉まっとるんじゃ!?」
開けようとした扉の数は既に十枚を超えていた。
「頼むから開いてよ!」
十兵衛がやけくそでドアノブを回すと、扉は外に向かってスムーズに開いた。
「や、やったっ!開いた!」
「何!?本当か!?」
「おおっ!でかした!」
朗報を耳にしたシンヤと鶴姫が思わず声を上げる。
「二人とも!早く!」
シンヤと鶴姫が部屋に入ったのと同時に素早く扉を閉めて鍵をかけ、更にチェーンロックもかける。
「ふうー……」
三人がほっと一息吐いた瞬間、声をかけられる。
「あんたたち、誰?」
女の人……!?
恐る恐る振り向くと、バスローブを羽織った坊主頭の女性が立っていた。
「見た感じ未成年っぽいけど、ひょっとして何か訳アリ?あたしでよかったら、話、聴いてあげるよ」
この女性は十兵衛たちの味方となるのだろうか。




