レプリカ・彼女黙示録 華嫁降誕 毒蛇
西暦二〇一五年 六月十三日 午前八時二十分
旧青葉区 ソルティ街道 レロレロスクエア前
十兵衛たちは歩道に設置されているフォレストフォートレス全域の案内板を観ていた。
「この通りを真っ直ぐ行って勾当台公園まで来れば、國分町はすぐそこみたいだな」
「タクシー使う?」
「いや、歩くぜ。もしも、タクシーの運ちゃんが賞金首目当てだったらヤバい。車ん中は密室だから逃げ場が無い」
「あー、なるほど。じゃあ、歩いた方がいいね」
「なあなあ。たくしーって何じゃ?」
「えーとね……」
何て説明すれば分かりやすいかな……。
「行きたい場所を言うと、そこまで連れてってくれる乗り物だよ。ほら!あそこにたくさん停まってるのがタクシーだよ」
反対車線に並ぶタクシーの列を指差す。
「人力車みたいなものか?」
「そうそう!それそれ!」
「ほー。人力車があんなに……。便利な時代じゃのう」
「十兵衛、鶴姫。行くぞ」
シンヤを先頭に國分町を目指して歩き出す。
「賞金首目当ての奴らは居なそうだね」
周囲に目を向けながら呟く。
「ああ。でも、いつ、どっから現れるか分からねえ」
「油断大敵じゃな。用心して行くぞ」
歩き始めて十分後、シンヤが立ち止まる。
「おい、あれ見ろ」
シンヤの視線の先には、ギャルJKを拐った集団の下っ端三人の姿があり、彼らは就職活動中と思われるリクルートスーツ姿の女子大生を取り囲んでいた。
「お願いです。通してください……」
「通してあげるさ。その美しい髪を全部くれたら……ね」
「そ、そんな……。困ります!これから面接なんです!」
リクルートJDが涙目で男たちに訴える。
「なら、いいじゃなーい。この丸坊主は御社への熱意の証です!って言えば面接官は大喜びで採用してくれるよ」
「そ、そんな滅茶苦茶なこと!あるわけ……」
「るせえ!あるったらあるんだよ!」
「そーやって口答えするようじゃ、どこにも採用されないよ。ニートまっしぐら!あっという間に底辺行きだよ!アハハ!」
「え?ええっ!?そ、そんなあ……」
男たちの辛辣な言葉による揺さぶりと面接当日に丸刈りにされる恐怖に耐えきれず、精神が限界に達して泣き崩れてしまう。
「おいおい。こいつ、泣いちゃったよ」
「メンタル弱っ」
「そんなんで面接受かる訳無いじゃん」
「うっ、うえええん……」
「おい。さっさと刈ってアジトに戻るぞ」
「オリジナルはどうする?」
「持って帰る。豆腐メンタルでも、顔と身体がよけりゃ金になるからな」
「よかったねー、嬢ちゃん。坊主専門ソープに就職決定だ。おめでとー」
下っ端の一人がリクルートJDを背後から取り押さえる。
「就職祝いに丸刈りにしましょうねー」
電源の入ったバリカンが唸り声を上げる。
「い、嫌!嫌ああああ!」
「そんなに暴れると頭が滅茶苦茶になるよ?いいのかな?」
「ひいっ!」
恐怖で身体が硬直する。そして、もう逃げられないことを悟り、抵抗をやめる。
「そうそう。そのままじっとしてれば、すぐに終わるよ」
嫌らしい笑みを浮かべながら、バリカンを近づける。
「そこまでじゃ!」
威勢のよい声と共に、バリカンを持つ下っ端の右手に鶴の羽根が突き刺さった。
「痛っ!」
下っ端の手からバリカンが滑り落ちる。
「真菜!妹姫!奴らを蹴散らせ!」
「分かったあ!」
「わしらに任せろ!」
レプリカ真菜がバリカン担当の男を殴り飛ばし、妹姫が髪の毛回収担当の男を蹴り飛ばす。
「ペンタゴン!女の人を助けて!」
「オッケー!」
女姦ペンタゴンが拘束担当の男を右手で鷲掴みにしてリクルートJDから引き剥がし、道路に投げつける。
「助けるのが遅くなってごめんなさい!」
「もう大丈夫だぜ!さ、早く面接に行きな!」
「あ、ありがとう、ございます……。うえええん……」
極度の緊張状態から解放され、声を上げて泣きながら走り去る。
「あんな可憐なお姉さんを……!」
「寄って集って泣かせやがって!てめえらーっ!」
「ぶっ殺す!」
「絶対許さん!」
十兵衛とシンヤが鬼の形相で吼える。
主の怒りに呼応してレプリカたちの戦闘力が上昇し、禍々しいオーラを放つ。
「こっ、こいつら!レプリカ持ちだ!」
「アニキに報告しないと……!」
レプリカ真菜と妹姫に攻撃された下っ端二人が起き上がり、回れ右してダッシュで逃げる。
「お、おい!俺を一人にしないでくれ!」
ペンタゴンに投げられて重傷を負った下っ端が助けを求めるが、仲間たちは振り返らずに去っていく。
「あいつら……!」
仲間の裏切りに怒りの表情を浮かべながらも、目の前に居る三体のレプリカと三人の人間を相手にしようと、折れた右脚をかばいながら立ち上がり、ジーンズのポケットからダブスクを取り出す。
「俺は……!俺は生き抜いてみせる!生き抜いて……!俺を見捨てた、あいつらをぶん殴ってやる!うおおおおおーっ!」
悲壮な決意を胸に奴隷娼喚を起動させる。
「出ろっ!蛇姦スネーク!」
紫色の閃光に包まれて、髪の毛に生きた蛇を持ち、全身が蛇の鱗で覆われたレプリカが降臨する。
「何だありゃ!?メデューサか!?」
予想外の異形を目の当たりにし、シンヤが声を上げる。
「どんな見た目だろうが、やっつけてやる!」
十兵衛がスネークを睨む。
「待って!迂闊に攻撃しちゃダメ!あの蛇、毒を持ってる!」
ペンタゴンが警告する。
「マジかよ!」
裂胸暗黒宮で吸い込めば一発だけど、距離が遠すぎる!今朝みたいに真菜ちゃんにぶっ飛ばしてもらって有効射程に入れようにも、毒があるんじゃ近づけない!どうすれば……!
「ならば、毒を絶てばよい話!」
「左様!わしら姉妹の出番じゃな!」
鶴姫と妹姫が両腕を鶴の翼に変化させる。
「よいか!妹姫!」
「姉や!いつでも!」
「呼吸はわしに合わせるんじゃ!」
「うむ!」
二人で同時に羽ばたいて鋭い羽根を飛ばす。
「双鶴奥義!」
「疾風斬羽!」
無数の羽根が蛇姦スネークの全身に蠢く蛇を次々と切り落とし、あっという間に丸裸にする。
「真菜!奴の後ろに回り込んで蹴り飛ばせ!」
「あいよっ!」
命令に従い、ペンタゴンの吸引口を狙って蛇姦スネークをシュートする。
「裂胸暗黒宮!」
相手レプリカを暗黒空間に飲み込み、戦闘に勝利する。
「さあ、観念しな。アジトの場所を教えろ」
シンヤが男に詰め寄る。
「最早……これまで、か」
次の瞬間、男は拳銃を取り出し、銃口をこめかみに密着させ、引き金を引いて自殺した。
「なっ!なんてことを!」
「自分を見捨てた奴らを守るために……!」
「己より集団を重んじるとは……。やったことは許せんが、立派な奴じゃな」
「でも、アジトの手がかりが無くなっちゃったね」
「畜生……!」
「あ、あのっ」
振り返ると、去ったはずのリクルートJDが立っていた。
「何だい?お姉さん。急がねえと面接に遅れちまうぜ」
「さっき、囲まれてた時、この人たち、坊主専門ソープがどうたら……って言ってました」
「坊主専門ソープ?」
「あいつらのアジトの店のことだぜ。きっと」
「あのっ!先程は助けてくださり、ありがとうございます!何かお礼を……」
「今の情報で十分!それ以上の礼なんていらねえよ」
「で、でも!」
「じゃあ、そんなに礼がしたきゃ、お姉さんの髪の毛一本ちょうだい」
「え?髪の毛?それでいいんですか?」
「十分十分!」
「じゃ、じゃあ……。はい」
リクルートJDが抜きたてほやほやの髪の毛をシンヤに手渡す。
「ところで、お姉さんの名前は何て言うの?おせーて」
「須田亜果利です」
「亜果利姉ちゃん!髪の毛、ありがとう!」
「面接、頑張ってくださいね!」
「さらばじゃ!」
レプリカをダブスクに戻し、十兵衛たちが走り去る。
その遠くに消える背中を亜果利は見送る。
「不思議な子たち……。一体何者だったのかしら?ふふっ」
腕時計をちらりと見る。
「いけない!もうこんな時間!」
第一志望の面接に挑むため、亜果利は走り出した。




