レプリカ・彼女黙示録 華嫁降誕 迷宮
ピラミッド 最下層 廊下
「ここがピラミッドの中?」
気がつくと薄暗い石造りの廊下に立っていた。
「ああ。ここは間違いなくピラミッドの中だぜ」
その場で振り返ると長い廊下が続いており、果ては真っ暗で見えない。
「入口がなくなってる……!」
「なるほど。入口がないんじゃ出られねえな」
「ど、ど、ど、どうしよう!?」
「とりあえず進むしかねえだろう」
ダブスクに付属しているタッチペンを取り出す。
「せっかくだから、こいつの倒れた方に進もうぜ」
何がせっかくだからなのか分かんないけど、シンヤのやり方を信じよう。
「よっと」
タッチペンが床で一回跳ねてから落ちると、ペンの先端は入口のあった方を向いた。
「よし!行こうぜ」
シンヤが歩き始め、十兵衛がその後ろをついていく。
「長いな……」
真っ直ぐ伸びた廊下をひたすら歩く。
「もう百メートル以上歩いたけど、どこまで続くんだろ」
「とにかく壁にぶつかるまで歩くぜ」
「壁?」
「ピラミッドって上から見ると正方形だから、東西南北いずれかの一辺にぶつかれば、壁づたいに進むってやり方ができて探検しやすいだろ?」
「なるほど」
「小四の時、RPGで迷宮から出られなくなって泣いてたら、親父が壁づたいに歩けば出口を見つけやすいぞってアドバイスしてくれてよ。その通りにしたらマジで出れてびっくり!……要するに、親父の受け売りさ」
「いいお父さんだね」
「十兵衛の親父さんはゲームとかしないのか?」
「あんまり。ゲームより釣りしてる時間が多いよ」
「へー!アクティブなんだな」
「え?インドアだよ?」
「釣りがインドア?」
「釣りは釣りでもネット掲示板。ネカマでスレ立てて、童貞が釣れたとかやってんだ」
「え、ええ……」
「ちなみに、母さんとの馴れ初めもネット掲示板。ネカマで童貞釣って会う約束したら、待ち合わせ場所に来たのが母さんだったって」
「え?……え!?」
「母さんは童貞のふりして出会い厨を釣ってたんだ」
「で、似た者同士くっついたと」
「うん。小四の時の夏休みの宿題が自分史だったんだけど、こういう馴れ初めで結婚した両親の間に僕は産まれました、って馬鹿正直に書いたら、あだ名がネカマ息子になってさ……。初めて登校拒否したよ」
「た、大変だったな……。ネカマ息子ってあだ名、正直面白いと思っちまった。すまん」
「あれから大分経つし平気だよ。それに、シンヤだから許す」
「す、すまん……。ブッ!ブハハハハハ!ネカマ息子って!アヘッ!アヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!イーヒヒヒヒヒヒヒヒ!チョーウケる!アハ!ヒャハハヒヒヒヒヒヒヒーッ!グヒャハヘヘッ!ブハハハハハ!」
「え!?そんなに面白かったの!?」
なんかショック……。
失意の表情を浮かべる十兵衛をよそに、シンヤの爆笑は十分以上続き、その笑い声はピラミッド中に響き渡った。
五時間後
ピラミッド 最下層 丁字路 壁画前
「動物の絵かな?」
スレンダーな白い猫らしきものが描いてある壁画を見て呟く。
「これは虎だ。見ろよ。鋭い牙が生えてるぜ」
「あっ、本当だ」
「白い虎。白虎……。十兵衛、分かったぞ。ここはピラミッドの西側だ」
「何で分かるの!?」
「東西南北を司る四神ってのが居るんだ。東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武。聞いたことないか?」
「……あっ!思い出した!厨二用語大辞典に載ってた!」
厨二用語大辞典とは、十兵衛がシンヤから初めて借りた本の名前である。
タイトル通り、思春期真っ盛りの中学生が喜びそうな言葉ばかり収録しており、情報量の多さからは考えられない五百円という破格の値段で買えた辞典である。
所謂、コンビニコミックの一種なのだが、現在は絶版となっているためプレミアがついており、この手のものが好きなマニアの間では一万円以上の高値で取り引きされている。
「そうそう。それそれ」
ここは西なのか……。西は太陽が沈む方向……。ん?太陽が沈む?……あっ!
「シンヤ!出口は東だ!」
「マジで!?」
「西って太陽が沈む方角じゃん?太陽が沈むってのを、太陽が出てくって考えれば、西は出口だろ」
「西は出口?振り返ったらなくなってただろ」
「俺たちが入口だと思って入ったのは出口だと思う。多分、本来の入口は別にあって、入口から入って出口から出れば問題なく外に出られるんだ。でも、出口から入っちゃうと入口から出なきゃいけないって考えられない?」
「そっか。ここは曰く付きのピラミッド。あり得そうだな」
「西は太陽の出口。なら、東は太陽の入口……!」
「つまり、お前の考えが正しければ、東が本来の入口ってことか!」
「そういうこと!」
「……てことはだ。もし、ペンが東に倒れていれば一発で出られたってこと!?」
「あ、あは、あはは……」
「俺たちはなんて無駄な時間を……!」
「そう落ち込まないで!ここに来たから思いつけた考えだから、無駄にはなってないよ!元気出して!」
「そ、そうか。ありがとよ」
「じゃあ、来た道を戻ろっか」
「おう」
十時間後
ピラミッド 最下層 丁字路 壁画前
「龍の絵が描かれた扉……」
「青龍……!つまり、ここは東!」
この向こうに本来の入口……。俺たちにとっての出口がある!
「十兵衛、せーので一緒に開けようぜ!」
「うん!」
取っ手に手をかける。
「せーのっ!んしょ!」
扉の向こうには上へ続く石段があった。
「登り階段!ということは、ここは地下か!」
「この先に地上が……。入口がある!」
「シンヤ!行こう!」
「おうっ!」
一段飛ばしで駆け上がると、十分もせず踊り場に到着した。
二人の目の前には石造りの扉がある。
「これが入口……!」
「開けよう!」
先程と同じように、取っ手に手をかける。
「せえのっ!よいしょー!」
扉を開けると、その向こうには……。
「えっ」
薄暗い石造りの廊下が伸びていた。
「な、何で……?どうして……!?何で入口じゃないの……!?俺の考え間違ってたの!?何で!?」
「十兵衛!落ち着け!しっかりしろ!頭冷やせ!」
シンヤの拳が炸裂する。
「あ……。ごめん。取り乱して……」
「目が覚めりゃそれでいいさ。とにかく、一旦階段を下りて青龍の扉まで戻るぞ」
「うん」
石段を下りようと振り返ると、石段は消えていた。
そして、踊り場も消えた。
正確には、踊り場に居たと思ったらいつの間にか廊下の丁字路に居たのだ。
「えっ!?どうなってんの!?」
「シ、シンヤ!壁の絵……。青龍だ!」
「何っ!?」
壁には青龍が描かれており、確かに開けたはずの石段へ続いた扉はなくなっていた。
「ただの壁になってる……!」
「一体どうなってんの!?」
こうして、十兵衛とシンヤは迷子になった。




