レプリカ・彼女黙示録 華嫁降誕 神殿
西暦二〇一五年 六月十二日 午前四時
娘鶴神殿 県道七五三号線 道の駅
西ディオウリィから南へ十五キロ。
田園風景が美しいことで有名な田舎町、娘鶴神殿。
県道沿いの道の駅に十兵衛たちは居た。
「すー……。すー……」
十兵衛はプラスチック製のベンチで寝息を立てていた。夜風をしのぐため、拾った新聞紙を掛け代わり布団にしている。
一方、シンヤは仮眠を終えて起床し、娘鶴神殿の伝承について記された掲示物を缶コーヒー片手に観ていた。
~娘鶴神殿の由来~
遥か昔、雨の降らない日々が続きました。
米が育たず、困った人々は山奥に住むシャーマンに助けを求めました。
十四歳から十七歳までの娘を一人ずつ生け贄に捧げれば、神の恵みがもたらされるとシャーマンは告げ、人々はその通りにしましたが何も起きませんでした。怒った人々はシャーマンをなぶり殺して晒し首にしてしまいました。
それから数日経ったある日、一羽の鶴が猪を捕獲する罠に引っかかっていました。通りすがりの心優しい青年が助けると、鶴は飛んでいきました。
鶴を助けてから数日後、青年の家に一人の娘がやって来ました。娘は十歳くらいで、宿に困ったので泊めて欲しいと言い、青年は喜んで泊めることにしました。
その晩、娘はこう言いました。
私の寝姿を決して見ないでください。
どういう意味なのか分かりませんでしたが、青年は決して覗かないことを約束しました。しかし、見るなと言われると見たくなるのが人間の性。実は、青年は小さい女の子が大好きだったのです。
真夜中、娘の居る部屋から物音が聞こえてきました。青年が襖に耳を当ててみると、ぴちゃぴちゃという水滴が落ちるような音でした。もっとよく聴きたい気持ちが先走ってしまい、青年は襖を倒してしまいました。
部屋に娘の姿はなく、一羽の鶴が居ました。
青年はその鶴に見覚えがありました。それは罠から助けた鶴でした。娘は鶴が化けた姿だったのです。
罠から助けられたあの日、鶴は青年に一目惚れしてしまい、一晩だけでいいので青年をおかずに自分を慰めたいと思い、娘の姿で家を尋ねたのです。
本当の姿を見られたからには生かしておけません。
鶴は一族の掟に従い、鋭いくちばしで青年を刺し殺しました。
悲しみのあまり、鶴がわんわん泣くと、その涙は雨となり、田んぼに潤いを与えました。
そして、心に傷を負った鶴はピラミッドを一晩で造り上げ、その中に閉じ籠り、二度と外へは出ませんでした。
このような言い伝えに由来し、この地域は娘鶴神殿と呼ばれるようになりました。
~おわり~
「ひでえ話。シャーマンは何のために死んだんだ?」
率直な感想を呟いた直後、十兵衛が起床する。
「おはよー……。何がひどい話なの?」
「これ読んでみ」
「んー?」
そして、読み終えて一言。
「これはひどい」
「でもよ、話の最後に出てるピラミッド興味ないか?」
「ただの昔話でしょ?」
「いや、違うみたいだぜ。あの地図見ろよ」
娘鶴神殿観光マップを見ると、十兵衛たちの居る道の駅から南西一キロの地点にピラミッドのマークが記されている。
「へえ、本当にあるんだ」
「ただ逃げるだけじゃ気が滅入るし、気分転換にちょっとだけ観光しようぜ」
「そうだね、そうしよっか」
「じゃ、出発だ!」
三十分後 午前四時五十五分
娘鶴神殿 県道七五三号線 ピラミッド前
「これがピラミッドか……」
「思ったより小さいね」
二人の目の前には全高五メートルのピラミッドが建っていた。
「おい!入口があるぜ」
「入っていいのかな?」
「こらっ!そこの若いもん!入ってはならんぞ!」
背後からいきなり怒鳴られ、思わずビクッと震える。
「だ、誰だ!?」
振り返ると、七十代後半の老人が立っていた。
「その神殿に入ってはならん!入ったが最後、二度と外へ出れんぞ!」
「どうせ言い伝えだろ?大丈夫大丈夫」
「本当じゃ!お前と同じこと言って入った奴が居た!そいつは入ったきり二十年帰ってきとらん!」
「二階建ての家くらいの大きさじゃねえか。警察が捜索すりゃ余裕だろ」
「もちろん、警察が中さ入った!でも、誰一人帰ってこなかった!」
「いきなり現れて突拍子もないこと言いやがって!何なんだ!?お爺さん、お婆さんには親切にしなさいとお袋から教わったが、いい加減キレるぞ!」
シンヤが老人の胸ぐらを掴む。
しかし、老人は全く抵抗する素振りを見せない。
見かねた十兵衛がシンヤを止めに入る。
「シンヤ!落ち着いて!お爺さんは嘘吐いてないよ!」
「何で分かる!?」
「言えばトラブルになるのは確実なのに言ったんだよ!?それに、本当に嘘を吐いてるなら、相手がキレた時に身の危険感じて謝ったり逃げたりする!でも、お爺さんは逃げも謝りもしてない!嘘吐いてない何よりの証拠だろ!」
「……確かに」
シンヤが胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「爺さん、俺が悪かったよ。いきなり注意されてイラッとして思わずカッとなって……。ごめんなさい」
「ワシもいきなり怒鳴ってすまんかったな」
互いに謝罪し合い、仲直りが済んだところで十兵衛が口を開く。
「入ったら出られないって本当なんですか?」
「本当じゃ。入ったのはワシの友だちでな、ガキの頃から探検が好きな奴じゃった。……酔った勢いであん中さ入ってってそれっきりじゃ」
「どうして出られないんだ?ひょっとして、地下に巨大迷路があって、道に迷うと出られない。とか?」
「中がどうなっとるかは分からん。なんせ、一度足を踏み入れると終わりじゃからな。あの入口から一歩進むと煙のように消え失せるんじゃ」
「……見たのか?その友だちが消える瞬間」
「ああ。今でも夢に見るわ。ああいうのを雲散霧消と言うんじゃろう」
遠くの空を見つめながら老人が呟く。
「爺さんの忠告はありがたいけど、やっぱり入るぜ」
「えっ!?シンヤ!?」
「このピラミッドは警察すらお手上げ。逃げ込むにはうってつけだろ?」
「フォレストフォートレスに行こうよ!ていうか、そういう予定だったじゃん!」
「昨日のポリ公は運よく倒せたけど、次もそうとは限らない。道中でどんな奴と戦うことになるかなんて分からない。フォレストフォートレスを目指し続けるのは危険なギャンブルだ」
「得体の知れぬピラミッドの方が危険なギャンブルだよ!」
「でもよ、少なくとも警察はお手上げだから、中でポリ公に出くわすリスクはかなり低いはずだぜ」
「でも……!」
「それにさ、爺さんの話を聴いて確信したんだ」
「何を?」
「道の駅で読んだ言い伝えあったろ?あれは恐らく本当だ」
「あの鶴の話が!?」
「まさにその鶴があの中に居ると思うぜ。言い伝えの最後に、鶴は閉じ籠って二度と外へは出なかった、ってあったろ?建造主が閉じ籠っているから、入った奴が外へ出られない。そう考えれば辻褄が合うと思わないか?」
「なんか、とんちみたいだね」
「あと、最初のシャーマンの下り。これはあくまで俺の想像だが、生け贄の儀式は失敗してない。成功はしたが、効果が出る時期が遅すぎたんだと思うぜ」
「もしかして……。神の恵みって鶴のこと!?」
「涙が雨となって田んぼを潤したから、そうなんだろう。……さて、本題はここから。神の恵みってことは、神に匹敵する力を持つと解釈できる。そいつを味方にできれば怖いものなしだと思わないか?」
「そりゃそうだけど、そんなことできる訳……」
「鶴は娘の姿になれる。そして、俺たちには奴隷娼喚がある」
「まさか!鶴のレプリカを!?」
「神の恵みを味方にすれば逃走生活は安泰!どうだ!?」
「凄くイエスだと思う!」
「なら、行こうぜ!鶴ちゃんをお迎えによ!」
ピラミッドの入口に向かって歩き出す。
「お、お前たち!本当に行くのか!?今なら引き返せるぞ!」
老人に呼び止められるが、振り向かずに答える。
「俺たちに退路なんて無い。進むしかないんだ」
「一寸先は闇でも一人じゃないから大丈夫」
「そうか……。なら、ワシは止めん。行くがよい」
「じゃあな、爺さん」
「行ってきます」
入口に足を踏み入れた次の瞬間、十兵衛とシンヤは消えたのであった。




