レプリカ・彼女黙示録 華嫁降誕 約束
西暦二〇一五年 六月八日 午後九時
ストーンロール 乃木家 十兵衛の部屋
スキル……。どうしよう……。
ダブスクの画面を見つめながら、下校中にシンヤから教わったことを振り返る。
レプリカには書き込めるスキルと書き込めないスキルの二種類があって、書き込めるスキルはモデルの材料である遺伝子情報で決まるものと、性格のベースとなるパーソナルデータで決まるものの二種類がある。
遺伝子情報で決まるスキルで重要なパラメータは体力。書き込みたいスキルの内容が肉体を駆使するものである場合、体力が不足していると書き込めない。
パーソナルデータで決まるスキルで重要なのは性格。例えば、面倒くさがりの真菜の場合、使い方が簡単で効果が分かりやすいものはイケるが、複雑なものは無理だ。パーソナルデータを変更すればイケるかもしれないが、それをやると性格が変わってしまう恐れがあるから自己責任だ。
パーソナルデータの変更で怖いのはレプリカがバグること。
とある有志によれば、パーソナルデータに書いた性格と、遺伝子情報に記録された性格との間でズレが大きいと、レプリカのデータが破損しやすいらしい。要するに、性格を変更にするにしてもオリジナルから逸脱しない範囲でやれってことだ。
普段の下川さんは大人しくてのんびりした感じだし、体力使うのと複雑なのを書き込むのは難しいかも。能ある鷹は爪を隠すってパターンならワンチャンあるかもだけど……。まずは簡単なやつから書き込んでみたらいいと思うぜ。
簡単なスキルかあ……。
外国語で書かれた有志のサイトの配信中スキル一覧を英和辞典片手に観る。
・欲しがりの右手:自レプリカから半径四メートル以内の任意の物体を自レプリカの右手に移動させる。
・横取りの左手:自レプリカから半径四メートル以内に居る相手の所持物を自レプリカの左手に移動させる。
・享受の両手:相手レプリカの所持物をコピーする。自レプリカが両手で相手レプリカに触れると発動。
・勧誘の右手:野良レプリカを自レプリカにする。野良レプリカと自レプリカが握手すると発動。必ず成功するとは限らない。
・まるで将棋:低確率で相手レプリカに致命傷を与えて即死させる。成功率は自レプリカの技量に依存する。
・まるでオセロ:自レプリカと相手レプリカのステータスを逆転させる。
・生理:自レプリカのスタミナを著しく落とすのと引き換えに腕力を超強化する。スタミナが元に戻るまで半日かかる。
・処女:自レプリカの全ステータスを上昇させる。常時発動するスキル。自レプリカが破瓜するとスキルは消える。
・純潔の誓い:処女の超上位スキル。自レプリカが破瓜すると自レプリカは死ぬ。二度と復活できない。
純潔の誓いヤバすぎ……!生半可な気持ちで書き込むのはやめよう。
欲しがりの右手と横取りの左手と享受の両手は大丈夫そうだし、欲しがりの右手を実際に見たから効果は想像がつく。
勧誘の右手も問題なさそうだけど、俺は下川さん一筋だからいらないか……?でも、何かの役に立つかもしれないし、一応書き込んでおくか。
スキルをパソコンにダウンロードしてからダブスクに移動させ、レプリカ下川に書き込む。
「娼喚!」
レプリカ下川を呼び出す。
「やっほー」
「下川さん。欲しがりの右手やってみて」
「へっ?何それ?」
「スキルだよ。さっき書き込んだじゃない」
「ほえ?」
ポカーンとした表情で十兵衛を見つめている。
「じゃあ、横取りの左手は?」
「スチール?ごみの分別とか?」
「違う違う!」
あれえ!?何で!?何でスキル使えないの!?簡単で効果が分かりやすいのをチョイスしたのにどうして!?
ダブスクのボイスチャットでシンヤを呼び出す。
「よう!十兵衛!何かあったか?」
「下川さんにスキル書き込んだけどさっぱりできないんだ!」
「簡単で効果が分かりやすいやつには……」
「したけどダメなんだ!」
「スキル言ってみ?」
「欲しがりの右手、横取りの左手、享受の両手、勧誘の右手」
「分かりやすいのばかりだな」
「どうしたらいい?」
「前者二つは削除して後者二つは残しとけ。実戦で使わないと分からないからな」
「分かった。あとは?」
「土日は暇か?」
「え?土日?暇だけど……」
「なら、俺んちに泊まりに来い」
「泊まり!?何で!?」
「下川さんを二日間出しっぱなしにして観察するんだ。観察すれば何が得意で何が不得意とか色々分かるだろ?親父とお袋は出張、真菜は友だちの家にお泊まりで留守だから安心して観察できるぜ」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えるよ」
観察するならできるだけ長い時間観れた方がいいよな……。
「明日、朝の八時くらいに来ても大丈夫?」
「ノープロブレム!」
「じゃあ、明日!おやすみ!」
「おう!おやすみ!」
ボイスチャットを切ってレプリカ下川に向き合う。
「明日と日曜の一泊二日、シンヤの家に泊まることになったけど、下川さんは平気?男子の家にお泊まりとか抵抗あったりしない?」
「別に平気だよ。シンヤくんって乃木くんの友だちでしょ?だから大丈夫」
「そっか。よかった」
「あのさ、私を出しっぱなしにするってホント?」
「うん」
「ふーん。そっかそっか」
「どうかした?」
「んー?別に何も?うふふ」
よく分かんないけど下川さん楽しそう。この笑顔を守れるように頑張らなきゃ……!
翌朝
西暦二〇一五年 六月九日 午後十二時
ストーンロール 木場家 リビング
「はーい。お昼ですよー」
「おおっ!美味そう!これ全部下川さんが!?」
テーブルに並んだ色とりどりの料理を見てシンヤが驚きの声を上げる。
「んー?どうかな?ふふっ」
席に着いて食事を開始する。
「この八宝菜、美味い!」
「それ作ったの真菜ちゃんだよ」
「ウソォ!?」
「お姉ちゃんと一緒に作ったの」
掃除、洗濯、料理……。家事全般こなせて面倒見までいいって、下川さん凄い。
感心しつつ食事を続ける。
「乃木くん。美味しい?」
「うん」
美味しいのはもちろん、自分の嫁が作ってくれたという嬉しさで自然とご飯が進む。
「よかった。うふふ」
その笑顔だけで飯三杯いけるよ。
結局、十兵衛はご飯を四杯おかわりした。
九時間後 午後九時
ストーンロール 木場家 シンヤの部屋
晩御飯を終えてレプリカ下川とレプリカ真菜が入浴中、十兵衛とシンヤはスキルについて話し合っていた。
「下川さんはものぐさしないタイプで面倒見のいい姉ちゃん、いや、母ちゃんって感じだから、欲しがりの右手と横取りの左手が使えないのも無理ないな。あと、物を借りるより貸すタイプっぽいし享受の両手も使えないかも」
「現時点で使えそうなのは勧誘の右手だけか……」
「喧嘩とかしなさそうだし、戦闘向き全般ダメかもな」
「もし、戦いになったらどう立ち回ればいいのかな?」
「そうだな……。俺なら勧誘の右手で仲間にした戦闘向きを前線に出して、下川さんは一歩退いて補助にするかな」
そう言いつつインターネットを起動させ、有志のサイトを開く。
「下川さんに向いてそうなやつが上がってるかもしれないし、一緒に探そうぜ」
配信中スキル一覧をクリックしてページを開く。
「おっ!更新されてる」
・治癒の両手:負傷した味方レプリカを治療する。自レプリカが他の味方レプリカに両手で触れて発動。
・挑発の中指:相手レプリカに先制攻撃させたあと自レプリカが攻撃する。自レプリカが相手レプリカに中指を立てて発動。
・死の親指:挑発の中指の上位スキル。低確率で相手レプリカを即死させる。自レプリカが相手レプリカに親指を下げて発動。
・乱入:相手レプリカとの戦闘中に近くに居る野良レプリカを一体呼び寄せる。
・乱戦:乱入の上位スキル。
・動物園:乱戦の上位スキル。
・確率機:相手レプリカと野良レプリカの戦闘中に奇襲する。低確率で致命傷を与える。
・玩具:自レプリカの攻撃で相手レプリカが姿勢を崩した時に追撃する。相手レプリカが倒れるか死ぬまで追撃可能。
・灰皿:相手を攻撃する。自レプリカが瀕死の状態で発動。
・蘇生:瀕死の味方レプリカを回復させる。自レプリカが味方レプリカにキスすると発動。
「戦闘向きが多いね」
「オリジナルに忠実なレプリカ作ったら従わなくて棄てられたのが野良レプリカになって人を襲うし、レプリカ狩りも居るからな。そりゃ増えるさ」
「レプリカ狩り?」
「可愛くて従順なレプリカの入ったダブスクを奪って、データの転売したり風俗やって儲けてる連中。迂闊に外でダブスクを出すのはやめた方がいいぜ」
そんな奴らが居るなんて……!
「とりあえず、治癒の右手と蘇生を書き込もうぜ。使えそうだからさ」
「そうだね」
「上がったよー」
風呂上がりのレプリカ下川とレプリカ真菜がやって来る。
「下川さん。一旦戻ってくれる?」
「ん?いいよー」
レプリカ下川をダブスクに戻してスキルを書き込む。
「書き込み終わり!娼喚!」
「一体何したの?」
「これから先、役に立つこと」
本当は役に立つ場面なんて無いのが一番いいんだけどさ。
「えー!?何それー?気になるなー」
レプリカ下川が十兵衛の首に腕を回して耳元に口を寄せる。
「教えて」
「え、えーと……」
「教えるくらい別にいいと思うぜ。教えるイコール戦わせるって訳じゃねえからさ。真菜、兄ちゃんとアイス買いに行こうぜ」
「うん」
シンヤがレプリカ真菜を連れて部屋を出る。
「下川さん。実は……」
野良レプリカとレプリカ狩りについて話す。
「いざという時のためにスキル書き込んだんだ。でも、どうして内緒にしようとしたの?」
「下川さんを……戦わせたくないから……」
「乃木くんが守ってくれるの?」
「うん」
「……見てることしかできないって辛いよ。いざとなったら私も戦う」
「だけど!」
「守ってくれるんでしょ?」
「それは……。そうだけど……」
「なら、いいじゃん。私を守ってくれる乃木くんを守りたい。お願い……」
「分かった。絶対に無茶しちゃダメだよ」
「約束する」
「約束だよ」
小指を絡め合い、互いに守り合うことを誓ったのであった。




