さらば師匠!旅立ちの時
エロ広告を削除するため、ノートパソコンの電脳世界にダイブしたアルケミーはエロ広告本体と対峙。
削除を試みたが、エロ広告の圧倒的な強さを前に完全敗北してしまうのだった。
「これで大丈夫ですよ」
アルケミーの右腕はエロ広告本体に握り潰されたが、ノーポンのファイル修復のお陰で完治することができた。
セキュリティソフトが回復役として活躍するとは夢にも思わなかった。お父さん、お母さん。ノーポンをインストールしてくれてありがとう。
「ノーポン。ありがとう」
横に居る少女を抱きしめ、頭を撫でる。
「わわわわわ!ど、ど、ど、どうしたんですか!?」
「正直、君のことを馬鹿にしていた。でも、こんなに役に立ってくれた。本当にありがとう」
「当たり前のことしただけですよ!やめてください!」
「あ!ひょっとして頭を撫でられるの嫌だった?」
「違います!嫌ではないです!ただ……誉められることに慣れてなくて……」
顔を真っ赤にしてうつむいてモジモジしてる。可愛いなあ。
「お客様からの評価、いつも一か二ばかりで……。たまにレビューがついても……役立たずとか……ザルの騎士団って……。ありがとうなんて……言われたこと全く無くて……。私、私……」
肩を震わせて泣き出した。ハンカチを貸してあげないと……。でも、ハンカチなんて持っていたかな。
パジャマのポケットを探ると、二枚重ねのティッシュが見つかった。
この際、ハンカチの代わりになれば何でもいい。
「ほら、これを使って」
「ありがとう……ございます……」
まあ、なんだ。役に立ってよかった。ははは。
「電脳空間に人間とは珍しいな」
勇ましい男の声が聞こえ、思わず顔を上げる。
男は赤いハチマキを頭に巻き、黒いタンクトップを着ている。鍛え上げられた丸太のような両腕がと大胸筋が美しい。
「怪しい者ではない。安心してくれ」
「俺はこのパソコンのユーザーのアルケミーです。あなたは?」
「セキュリティソフトのヴィルバスだ」
「えっ?セキュリティソフト!?」
セキュリティソフトを複数インストールすると互いに干渉してよくないから、新しいのを入れる時は以前使っていたのは削除するはずだけど……。
「新入りの嬢ちゃんが入る時に消し忘れたみたいでな。だから、俺はこうして生きている」
「そうだったんですか」
「ところで、あの広告を消そうとしたらしいな」
「は、はい。そうなんです」
「あいつは危険だ。やめた方がいい。今回はたまたま生き延びただけ。次は無い」
「でも、それだと困るんですよ。あいつに弱点とか無いんですか?」
「無い」
やっぱりね。あのガタイのよさ、攻撃を避けずに受けるストロングスタイル。弱点なんてある訳が無い。
「だが、鍛えれば勝てない相手ではない」
「本当ですか!?」
「厳しい修行になるぞ。覚悟はいいか?」
「はい!」
「なら、俺に着いて来い!お前を一人前の猛者にしてやる!」
「はい!コーチ!」
こうして、エロ広告を倒すための修行が始まった。
「グラウンド百周!それが終わったら石段百往復!何!?この程度のこともできないのか!罰として正拳突きとウサギ跳び千回!」
「だらしないぞ!それでも竿のついた男か!罰としてスクワット千回!」
「おい!このやる気の無い拳は何だ!?ジジイの竿の方が堅いぞ!」
「やる気が無いのかアルケミー!隅っこでマスかいてろ!」
「アルケミー!お前はカルピスのカスから産まれたのか!?父親がカスなら息子もカスか!……何?違うだと?ならば、口ではなく力で証明してみせろ!」
「気合い出せ!気合い!骨折なんてかすり傷だ!立て!アルケミー!そんなんじゃ奴を倒すことはおろか、メスをイカせることもできんぞ!」
「アルケミー!泣くな!そんなに罵倒されるのが嫌なら俺を黙らせてみせろ!」
一か月後。修行は終わった。
「本当によく着いて来たな」
「師匠……」
「お前は俺の自慢の弟子だ」
「勿体ないお言葉、ありがとうございます!」
「お前に教えることはもう無い。自信を持って行ってこい」
「はい!」
ヴィルバスとお揃いの赤いハチマキを頭に巻き、きつく結ぶ。
「アルケミーさん」
「ノーポン」
「これ、あげます」
そう言って、首から下げたペンダントをアルケミーの首に掛ける。
「これ、君のショートカットアイコンだろ。いいの?」
「はい!お守りです」
「ありがとう。ノーポン」
優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「じゃあ、そろそろ行かなくちゃ」
空中のエロ広告を見据える。
助走をつけて跳び上がり、エロ広告に正拳突きをめり込ませ、ひび割れた箇所を無理矢理こじ開ける。
こじ開けた先には暗黒空間が広がっている。一度入ったら最後、もう後戻りはできない。
深呼吸して気合いを入れる。
「アルケミー・フォーミュラ!行って参ります!」
アルケミーは暗黒空間へと旅立った。