忍び寄るダム開発の巻
激しい戦いの末、クリスドランはアルケミーとメテオドランたちのコンビネーションを前に完全敗北し、世界は救われた。
それから、一年後。
「た、大変だ!」
アルケミーの家の隣に住む水島が慌てた様子でやって来る。
「水島さん。何かあったのかい?」
「ダム開発で東の村が村人ごと滅ぼされた!」
「何だと!?それは本当か!?」
ダム開発の誘致がしつこいのは知っていたが……。それにしても東の村が滅びたなんて信じられん。
東の村はアルケミーの村とは対照的に村人は好戦的な気性で、喧嘩や暴動で負けることはまず無い強者揃いである。
「村の様子は?」
「もう滅茶苦茶……。瓦礫と屍がそこら中にたくさん……」
アルケミーの村と東の村は、田んぼに引く水を巡ってよく争ったが、同じ地域で暮らす仲間。村の惨状を想像し、アルケミーは放ってはおけなかった。
「生存者が居るかもしれん。人手を集めてくれ」
「分かった!」
三十分後。アルケミーと水島をはじめ二十人以上の男たちは山を二つ越えて東の村に到着した。
「う、うわ……」
「これはひどい……」
「同じ人間のやることかよ!」
アルケミーたちの目の前には壊滅を通り越して廃村と化した光景が広がっていた。
道には瓦礫や臓物が散らばり、畑や田んぼには生首の刺さった鉄パイプが立てられていた。
「あれは……」
道端に立てられていた生首と目が合う。
去年の夏休みに勉強を教えてあげた子供だ。確か八歳だったはず。こんな年端のいかぬ子供まで……。
アルケミーの目に涙が浮かび、拳が震える。
子を持つ親であるが故に激しい怒りがこみ上げる。
そして、アルケミーたちは一時間以上生存者を捜したが、誰一人として見つからなかった。
瓦礫をどかし、ビニールシートで屋根を作った簡易的な安置所に遺体を並べる。男の方は頭と身体がセットで見つかったが、女の方は頭か身体のどちらかしか見つからなかった。
「どうして頭か身体どっちかだけなんだ?」
異様な光景を見て水島が呟く。
その問いに今年九十八歳になる村長が答える。
「顔がブスでも身体がよければ、ワタを抜いておもちゃとして売れる。都会の金持ちが買うから儲かる」
「悪趣味な!」
「とても同じ人間とは思えん……」
アルケミーはまだ見ぬダム開発の連中に怒りを燃やすのだった。
「東の村の次は、俺たちの村なんじゃ……」
アルケミーの家の向かいに住む田所が怯える。
「いや、それは無い」
「えっ!何故です?村長」
「わしらの村は東西南北の八つの村に囲まれている。中心に攻めれば周囲からの袋叩きは確実。いくら血気盛んなダム開発の奴らでも、そんな真似はせんはずだ。わしらの村を襲うのは八つ潰したあとだろう」
「まるで真綿で首を絞められる気分だ」
水島がぽつりと呟く。
「村長。残り七つのどこかに奴らが来た時、奴らの相手をしたい。いいか?」
指を鳴らしながらアルケミーが頼み込む。
「無茶だぜアルケミー。隕石をドラゴンごとぶっ壊したお前でもダム開発の連中には勝つのは無理だ。やめとけ」
「もし命を落としたら、マキさんとブレイクはどうなる!?」
田所と水島が必死の説得をする。
ブレイクとは、アルケミーとマキの間に生まれた子供の名前で、今年で三歳になる男の子である。
「俺は父親だ。絶対に死なん」
決意に満ちた目で村長を真っ直ぐ見つめる。
「……よかろう」
「村長!?」
「何言ってんだ!とうとうボケたか!」
「ボケとらん!やめろと言っても行く男だ。こいつは。だから行かせる」
「俺をよく理解している。ボケてない証拠だ」
「ボケは関係無い!何年同じ村で暮らしてると思っとる。手に取るように分かるわ」
「そうだな」
そして、四日後。
早朝のアルケミーの家に電話がかかってきた。
午前六時だぞ。こんな時間に誰が……。
「はい。もしもし」
「アルケミー。わしだ」
「村長。こんな時間にどうした?」
「北東の村にダム開発の連中が来たぞ」
「何!?分かった!電話ありがとう!」
「気をつけてな」
「ああ!」
電話を切り、家を飛び出して北東に続く山道を素早く走る。
空気との摩擦で全身が炎に包まれる。
ヴィルバス直伝。秘技炎人火蝶。
火の蝶となって飛ぶことで大幅なショートカットに成功し、わずか五分で北東の村に到着する。
居た。ダム開発の奴らだ。先手必勝。
着地した瞬間、炎が周囲に拡散し半径二十メートル内に居たダム開発の連中を焼き殺す。
今のでざっと二百は殺したが、まだ千近い数が居るな。
「居たぞ!村の奴だ!」
「殺せ殺せ!」
両手にバズーカ砲を持った連中が向かってくる。
「時よー!止まれーい!」
連中の一人が時を止め、動きの止まったアルケミーにバズーカ砲を発射する。砲弾がアルケミーの手前で止まる。
「時よ!動け!」
時が動き出すのと同時にアルケミーが砲弾を蹴り飛ばし、時を止めた男に当てて爆殺する。
「あいつ!止まった時が見えるのか!?」
「こんな田舎にあんな奴が居るなんて!聞いてないぞ!」
連中が騒ぎ出す中、アルケミーが静かに口を開く。
「貴様たちは勘違いをしている。止まった時が見えるのではない。俺の意識を止められなかった。それだけだ」
「ほざけ!若造!」
「やっちまえ!」
「うおーっ!」
千人以上の男たちが武器を手に襲いかかる。
「来い。それでこそやりがいがある」
アルケミーの運命や如何に。




