沈黙の留置場
異世界から戻ってきたアルケミーは、ひょんなことから空き巣の疑いで逮捕され留置場に収容されてしまうのだった。
鉄格子の檻の中、アルケミーは胡座をかいて壁にもたれかかっていた。
寒い。
コンクリートに触れているお尻と背中を通して身体が冷える。窓が無いため陽の光は射さず、空気は冷たい。明かりは今にも切れそうな蛍光灯が一つだけ。ほぼ真っ暗である。
光が欲しい。もしかしたら、エロ広告はこのような寒さと暗闇の中をずっとさ迷っていたのだろうか。
その時、留置場の扉が開く音と共に警察官がやって来る。アルケミーを連行した警察官だった。
「食事です」
鉄格子についている食膳用の小さな戸から食事の載ったトレーが差し込まれる。
トレーには、ペットボトルのフタに入れられた少量の水とパンの耳が一つだけ。
「これが食事?冗談でしょう?社会の資料集にはご飯とみそ汁、必要最低限の食事を出すのが決まりだとありました。これは違法なのでは……」
直後、腰のホルスターから抜いた拳銃が火を吹き、銃弾がアルケミーの顔を掠め壁にめり込む。
「確かに法律ではそう定められています。しかし、あくまでも法律での決まり。留置場のルールとは別です」
「何だと!?」
「留置場のルールは警察官のさじ加減。つまり、私がここのルール。私がそうだと決めればそうなるんですよ」
「貴様!ふざけるな!」
立ち上がった瞬間、アルケミーの胸に銃弾が突き刺さる。
「う……ぐ……」
「おかしな動きをするのはやめてください。取り調べは一時間後にやります。それまでに止血してください」
使い古しのぼろ雑巾を投げ込み、警察官が留置場を去る。
「俺は死なぬ……」
ヴィルバス直伝。秘技血噴異摘。
胸に血液の流れを集中させ出血の勢いで銃弾を体外に出す。
ヴィルバス直伝。秘技暗唾傷滅。
続けて、傷口に唾を吐きかけるとたちまち塞がる。
これでよし。しかし、ここに居てはいずれ殺される。何か手を打たなくては。
結局、何も思いつかず取り調べの時間を迎え、取調室に連れて行かれる。
「お待ちしておりました」
先程の警察官が席についていた。
「貴様!」
「そうカッカしないで。カツ丼でも食べながら気楽にやりましょう」
渋々席につき、警察官と向かい合わせになる。
ちとムカつくが、せっかくのカツ丼。食べないのはもったいない。
割り箸を割り、食べようとした瞬間、警察官がアルケミーの頭を掴んでカツ丼に叩きつける。丼が割れて中身が散らばる。
「よく味わって食べてください。留置場からすぐそこの食堂さんで注文したんです。美味しいでしょう?」
アルケミーの頭をぐりぐりと机にめり込ませる。
「き、貴様!よくも!」
なんて力だ。起き上がることができない。
「まず、お名前から訊きましょうか」
「アルケミー・フォーミュラだ!」
「ご両親は違うと言ってましたが?」
「それでも俺はアルケミー・フォーミュラだ!」
穏やかな表情から一転、警察官が無表情になる。
「嘘を吐かないでください」
机ごとアルケミーを投げ飛ばし、取調室の壁にめり込ませる。
「うぐあああああ!」
腕の骨が折れた。しびれて動けん。
「偽名ですね。身内に成り済まして家に入りやすいようにするための」
「違う!俺は本人だ!」
「まだ言いますか。仕方ありませんね」
警察官がアルケミーを椅子に縛りつけヘッドホンをかける。
「一体何を!?う!ぐああああ!」
頭の中に大音量のクラシック音楽が流れ出す。
「早めにゲロった方が身のためですよ」
「ううう!ぐぬあああああ!んぎいいい!」
無理矢理自白させる気か。その手には乗らんぞ。
「うおおおおおおおおお!」
「忍耐強いですね。これならどうです」
アルケミーのみぞおちに蹴りを入れる。
「うぐ!ぐああああ!がは!」
「定時で上がりたいんです。早く空き巣だと認めてください」
「ぬあああああ!ああああ!」
取り調べは実に八時間続いた。
その日の取り調べが終わり、衰弱し切ったアルケミーが牢屋に投げられる。
「ではまた明日」
警察官が去り、留置場が閉じられる。
畜生。ここに居ては命を落とすぞ。脱走するか……。いや、脱走したら空き巣であると認めたことになる。一体どうすれば……。
「君」
同じ牢屋の男がアルケミーに声をかける。
「ひょっとして無実なのにここに入れられたのか?」
「そうだが……」
「ここを出たいと思わないか?」
アルケミーの運命や如何に。




