虫の知らせ!友を救え
ジラスの支配により世紀末と化した異世界で戦い続けるアルケミーは、エルオー大陸の南に位置する国、トロの首都ゲイルにて人身売買されていた少女たちを救出。トラックを使い首都ゲイルを後にした。
アルケミーの運転するトラックは砂漠地帯を走っていた。
「あの……。私たち、どこに連れて行かれるんですか?」
助手席には、売られた少女たちの中で最年長である十七歳の少女が座っている。
「いいところだ」
少女の問いかけに運転席のアルケミーが答える。
「いい、ところ……ですか」
少女の顔が青ざめる。
「文字通りのいいところだ。安心して」
「あ、はい」
アルケミーの言葉に安堵し、自然と笑顔になる。
砂漠地帯を抜け、草木豊かな森林地帯に入る。三十分ほど走り続けると開けた野原に出た。野原には木造平屋の住宅が一軒だけぽつんと建っている。
「着いた」
アルケミーがトラックを停めると、住宅から子供たちがやって来た。
「あの子たちは?」
助手席の少女が問いかける。
「君たちと同じように行き場を失った子供たちだ。そして、あの家は俺の友が運営する孤児院だ」
トラックから降りたアルケミーたちに子供たちが駆け寄ってくる。
「アルケミーの兄ちゃん!あのお姉ちゃんたちはだあれ?」
「お前たちの新しい家族だ」
「わーい!家族が増えたー!」
「おねーちゃん!いっしょにあそぼー!」
「え、えっと……」
戸惑いの表情を見せる少女たち前に一人の男がやって来る。右足が不自由なのか、男は杖をついている。
「君たちはもう家族だ。ここにあるのは優しさ。傷つけるものは何も無い。だから、安心して遊んでくれ」
「ほら、一緒に遊ぼ!」
「……うん!」
少女たちは年相応の笑顔を取り戻し、子供たちと遊び始める。
その微笑ましい様子をしばらく眺めたのち、アルケミーは男の方に顔を向ける。
「一週間ぶりだな。ディラン」
「ああ」
「立ち話もなんだ。中で話そうか」
「恩に着る」
アルケミーとディランは敷地を見渡せる客間に移動した。
「最近の町の様子はどうだ?」
「余裕を失った人々ばかりだ。些細なことで暴力が起きて人が死ぬ。死体はもう見飽きた」
「そうか。そんなにひどいのか。……あっ。すまない。他人事みたいなことを……」
「あれからずっとここに居て外へ出てないなら、知らないのも無理はない。だから、気にしないし咎めるつもりもない」
「……そうか」
「義足の具合はどうだ?」
「あ、ああ。昼間は問題無いが夜になると痛むことが増えた」
「前にやった鎮痛剤は?」
「効きにくくなってきた」
「そんなこともあろうかと別のを持ってきた。飲んでみてくれ」
「ありがとう。アルケミー。しかし、見たことのないパッケージだが一体どこで調達を?」
「ジラスの拠点を潰した際に薬品庫から盗ってきた。前やったのは薬局で買った市販のものだが、これは軍のだ。効き目は多少違うはずだ。もし、一度飲んで合わないと思ったら前のを飲んでくれ」
「分かった。ありがとう」
「さて、そろそろ行くとするか」
アルケミーが椅子から立ち上がる。
「もう行くのか?」
「ああ。今こうしている間にも人々が虐げられている。俺の手で救える命があるなら一人でも多く救いたい」
「そうか。達者でな。アルケミー」
「お前もな。ディラン。また一週間後に会おう」
孤児院を出たアルケミーはトラックの荷台から少女の遺体を運び出し、孤児院の東にある草原へと向かった。
ここがいいか。
色とりどりの花が咲く場所に遺体を静かに降ろし、アルケミーは正座し右手で遺体の胸に触れる。
ヴィルバス直伝。秘技散華転昇。
遺体は一瞬で灰と化した。そして、風に舞った灰は蝶となり、雲一つ無い大空へと飛んでいった。
どうか安らかに眠ってくれ。
黙祷を終え、アルケミーは草原を立ち去った。
一週間後。
アルケミーはディランの孤児院へ向かうため座漠を歩いていた。
あれは。
アルケミーの前方を蝶が飛んでいた。
もしかして一週間前の……。でも、どうしてここに。
蝶の動きを目で追っていると、遠くの森から黒煙が立ち上っているのが見えた。
直後、蝶が力尽きて砂の上に落ちる。
あの森の向こうには孤児院が……。まさか!?
虫の知らせを受けて走り出す。砂漠地帯を抜けて森林地帯に突っ込み、草木を掻き分けて野原に出ると燃えている孤児院が目に入った。
「お!来たぜ!」
火炎放射器を持ったジラスの兵士たちが盛り上がる。
「お前たち!何故ここに!?」
「この前、宿屋で派手にやっただろ。そのお返しよ!」
「やられてばっかしなのは不公平だからな!これで引き分けだ!」
「子供たちは!?ディランは!?」
「明け方にガソリンをまいて火を着けた!睡眠中に永眠さ!」
「来るのが遅すぎたんだよ!」
「貴様らあああああ!よくも!よくもおおおおおおおおーっ!」
怒りのあまり無意識で発生させた音障壁が兵士たちを吹き飛ばす。
「な、何だ!?今の!?」
「大声で吹っ飛ばされたぞ!」
「人間じゃねえ!バケモンだ!」
「こ、殺せ!殺せーっ!」
「人外は焼却だあ!」
兵士たちは二千度の炎をアルケミーに浴びせる。
「化け物は……お前たちだああああああああああああーっ!」
強力な音障壁で炎を跳ね返して兵士たちを焼き尽くす。
「うひゃあ!」
「あ、熱い!助けてえ!」
「かあちゃーん!」
断末魔の悲鳴と共に炭と化した兵士たちが崩れ落ちたのを確認し、燃え続ける孤児院を見る。
ヴィルバス直伝。秘技脱水鎮火。
全身の水分を体表から一気に放出させて消火する。
一人でもいい!生きている者は居ないのか!
黒焦げになった孤児院に足を踏み入れ、中を捜索するとすぐに遺体が見つかった。全身が焼けて真っ黒で誰なのか分からない。しかし、その背格好には見覚えがあった。
ディラン……。
友の亡骸を仰向けにして両手を腹の上で組ませる。
その時、遺体が倒れていた床が開き、床下から子供たちが出てきた。
「アルケミーの兄ちゃん!父ちゃんを知らない!?」
「いっしょにはいろうっていったのに、はいらなかったの!」
「お願い!お父さんを探して!」
「……ディランなら、そこだ」
「うそだ!……うそだ。うそだよ……」
「お父さーん!」
「どうして……。どうしてなのよ!」
「父ちゃん!父ちゃーん!」
子供たちと一緒に逃げなかったのは……。恐らく、床と床下扉の境目から一酸化炭素が入らないように塞ごうとしたから……。ディランは子供たちを守るために命を燃やしたんだ……。そして、それは俺のせいだ。また俺は友を死なせてしまった……。
フェスタムの死以来、アルケミーは久しぶりに泣いた。




