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「...当然、そんなものはありません」

なるほど、さすが見事な鉄仮面。

学院商人の長ともなればポーカーフェイスくらいはお手の物、ということなんだろう。

でも。

ついでにサービス精神の方も確かめておきたいと思う。

「ちなみに、なんですが」

私は『お買い物リスト』を広げて良子先輩の前に差し出した。

「これ、全部でおいくら位になりますか?」


先輩は半眼になってリストを一瞥して、「見なかったことにしておきます」とだけ言った。

私は聞きたかった答えが聞けたのでにっこりと笑顔を作って先輩に感謝の意を示した。


◇◇◇◇◇


翌日の昼休み。

私は中庭のベンチで友人たちとお昼ご飯を共にしていた。

膝に乗せたお弁当箱の蓋を開けると、彩り見事な中身が姿を表した。

左右から覗き込んだ友人たちから「おお」という感嘆の声が上がる。

「本当に美味しそうなの作るわよね」

私の右側に座っている七瀬ちゃんが焼きそばパンを齧りながら私のお弁当を眺めている。

私は軽く胸を張る。

「当然。殿方を落とすにはまず胃袋から掴め。古典ながら王道です」

言いながら唐揚げを一つ頬張る。うん、いい出来だ。


『彼』にも私のお弁当は毎日食べてもらっていた。

『彼』のカバンに入った姉が作ったお弁当と私の作ったお弁当を入れ替えていたので『彼』はずっと姉のお弁当を食べているつもりだったみたいだけど。

ある日こっそり『彼』に耳打ちしてお弁当の感想を聞いたら、何故か次の日から玄関で姉が直接『彼』にお弁当を手渡す形になってしまい、入れ替える隙が無くなってしまった。

入れ替えた姉のお弁当は私がちゃんとお昼に食べていたから、誰も損していない完璧なシステムだったのに。


「凄いねぇ。私も料理はするけど、毎日ちゃんと作るのは無理かなぁ」

左に座る月子ちゃんが冷凍食品多めのお弁当をつついている。

「私も自分の為だけだったら面倒だと思っちゃうよ。でもこれは実益も兼ねてるから」

そう言って卵焼きを指す。これは特に自信作。形、色、焼き加減。全てが完璧に出来たそれを一切れずつ二人に差し出す。

「ありがと」「いいの?いただきまーす」

それぞれが卵焼きを頬張る

「うま!」「ほんと、おいしー」

さもありなん。私はフフンと胸を張る。

私の日々の研鑽の結果だ。この完璧な味のバランスは一服盛ったとしても一切の違和感が出ないように作ってある。


「...は?」「ん???」


もぐもぐと口を動かしていた二人の動きがピタリと止まった。

「何?どうしたの?」

私が首を傾げると、

「いや何か...不穏なワードが聞こえた気がして...」

「聞き間違い...かな?え?ほんとはなんて言ったの?」


私は二人が何を言っているのかよく分からずしばらく考えて

「...ああ!違う違う!誤解だよ!」

慌ててパタパタと手を振る

「そうね!そうよね!そんな訳無いわよね!?」

「びっくりしたぁ...もう...驚かせないでよぉ」

胸を撫で下ろす二人に向かって

「ちゃんと市販の、合法のやつ使ってるから。大丈夫なやつだから」

と安心させるように笑って見せる。


「何も大丈夫じゃないわよ!!!」

七瀬ちゃんが胸ぐらを掴んでくる。

「どうしよう、もう飲み込んじゃったよぉ」

月子ちゃんが慌ててペットボトルのお茶をがぶ飲みし始めた。

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