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購買部。
愛至苑女学院における最大のマーケットであり、学院内に流通する商品の通り引きの約8割はこの購買部を介して行われている。
『食品、日用雑貨から衣料、服飾品、果ては重機に至るまで。
豊富な品揃え、お値打ち価格、真心のこもった対応で皆様の学院生活をお支え致します』
分厚いカタログをパラパラと捲りながら掲載されている商品を流し見する。
看板に偽りなし。学院生や教職員たちの生活と物欲をこれでもかと言わんばかりに支えまくっている過剰商品数。
まさに学院の生命線を担っている重要組織、そこの総元締めが良子先輩という訳だ。
つまり、この世(愛至苑)の全ての富と権力を握る超権力者であり。
「ねえ」
札束風呂に浸かり美女を侍らせ勝ちまくりモテまくりの成功者であり。
「ちょっと」
お札に火をつけ明かりにして更に札束の扇で仰いで「どうだ明るくなったろう」と...
「おい」
最後の一言は私の脳天に落とされたチョップと同時だった。
女性の細腕から繰り出されたとは思えない割と本気で強力な一撃に私は頭を押さえて悶絶する。
「あなたが人聞きの悪いことばっかり言うからでしょう」
良子先輩も手を振りながら痛みに顔を顰めていたけど。
私は頭を擦りながら、どんな手練手管を用いて良子先輩を籠絡しようかと考えを巡らせた。
なにせ相手は、地位もお金も人望も持ち合わせ、更に言うなら中々の美貌。全てを手に入れたパーフェクト生命体だ。
ちょっとやそっとの物を差し出した位では洟も引っ掛けないだろう。
と、なれば。訴えかけるべきはやはり情。
何としてでも『可愛い後輩ポジション』に収まって、損得抜きに協力を得られる立場になるのがベストだ。
「それ全部聞こえてるんだけど。本気ならせめて思った事を口に出す癖は改めたほうがいいと思うわよ」
「正直は美徳だと言うのが亡き祖母からの教えです」
私は胸に手を当てる。
「まさに金言。私の座右の銘です」
「その教えを経て形成されるのが貴女の人格ってもうなにかのバグじゃないかと思うんだけど」
良子先輩が頭痛に耐えるかのようにこめかみを揉む。
「まあ先輩。頭痛ですか?気苦労の耐えないお仕事をされて大変ですよね」
私の心からの気遣いを何故か先輩は片手でシッシッと追い払うような仕草をした。
疲れていると人からの好意を素直に受け取れないってよくあることだよね。
『彼』も照れ隠しで私の親愛表現を受け取ってくれなかった事があるからよくわかる。
「あのね、桜田さん」
「そんな先輩、他人行儀な。ぜひ蒔緒と呼んで下さい」
良子先輩はほんの数秒考える仕草を見せたが、すぐに何だか諦めたような表情になって頭を小さく振ると
「あのね、蒔緒さん」と言い直す。
「購買部や私にそんなような風評があるのは、まあ、承知しているけど」
「購買部での活動はあくまでも『部活動』よ」
「部員たちは基本的にお給料なんて受け取っていないし、売上の殆どは部費として計上して活動資金に充てられているのよ」
「私も部長としての裁量権はあるけど、何でも思い通りに出来る、なんて無茶な権利は当然持ってません」
言い含めるような口調で良子先輩が言ってくるが、そんな建前を素直に信じるほどお人好しではない。
「だから貴女が私にどんな期待をしているのか知らないけど...」
だから私は良子先輩が全部言い切る前に
「それは『御禁制品』もですか?」と言葉を被せた。




