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02 彼氏彼女と見せ掛けて主に彼女だけの事情

 脱出経路の確保。及び隠蔽方法の確立。

 これからの学院生活に於いて、私がまず何よりも最優先に取り組まなければならない課題がこれである。

 この問題をクリアしないことには、私が彼と接触できる機会が極端に制限されてしまうはめになる。

 何しろ両親からは、少なくとも一年間は帰省を許さない、などという、余りにも厳しくとてつもなく理不尽な制限を課せられているのだ。

 破れば、今度こそ(・・・・)勘当も辞さない、というお達し付きで。中学校を卒業したばかりの娘に対して無慈悲に過ぎる扱いだと思う。

 

「貴女、一体何をしでかしてそんな事になってるの」

 私が艱難辛苦を打ち破るべく決意を固めていると、寮の同室の先輩があきれた様子で話しかけてきた。

「私としては、極々普通に家族としての親愛の情を示していただけのつもりだったんですけど」


 彼が私の実家で同居する、という話を聞いた時には心の中で喝采を挙げたものだ。

 私はこれ幸いとばかりに、一日でも早く、新しい家族と打ち解けようとする健気な義妹として、とても、かなり、物凄く積極的に彼との親睦を深めていった。

 そんな幸せな日々を過ごしていたある日、私は彼の態度に若干の違和感を感じるようになった。

 これは今でも勘違いというか気のせいというかとにかく絶対にそんなことはあり得ないと思っているのだけど、何と言うか、何となく、彼に、避けられているような気がしたのだ。


 そして、同じ時期に両親や姉から、私の彼に対して表す親愛の情が過剰なのではないか、という意見が出始めた。

 具体的には、日常的に彼に接触する程の距離にいたり、何かというと彼に抱きついてみたり、彼が家にいる間常に彼を追いかけて離れようとしなかったり、彼の使った後の小物を自室に持ち込んで保管していたり、ちょくちょく彼の飲みかけのカップの残りを飲んでみたり、といったような、一般的な仲の良い家族間であれば、当たり前に、自然に、行われているような常識的な行動について「あれ?何かちょっとおかしいんじゃないの?」という声が挙がり始めたのだ。

 当然私は必死になって弁明した。それは、誤解に基づく主観による偏見であり、私の行動に邪なる想いなど一切含まれていない、と涙ながらに訴えた。

 この抗弁により、どうにか判断は一時保留、暫く様子を見よう、という感じで、問題を先送りさせる事に成功した。姉だけは腑に落ちない様子ではあったけれど。

 そしてその日の晩、お風呂に入っている彼の背中を流してあげようと浴室に突入した所を取り押さえられ、即、執り行われた家族会議の結果、私の言い分は全て却下されて、私は実家から隔離されるという事が決定してしまった。

 全く持って納得がいかない。一体何がいけなかったと言うのだろうか。

 強いて理由を探すとするなら、バスタオル一枚で浴室に入ったというのは少し大胆に攻めすぎたのかもしれない。少し妥協して水着を着用するべきだっただろうか?

 ともあれ、そんな些細な理由で私と彼は引き離されることになってしまったのである。


 と、いうような私が愛至苑に入学する事になった顛末を聞いた先輩は、何とも形容がし難い表情で私を見ていた。

 成程。理不尽な事態に見舞われた人間に同情する人ってああいう表情になるんだなあ。


「いや、純粋にただひたすら呆れてるんだけども」

「ですよね?私の家族って物事を過剰に捉え過ぎる所があると思うんです」

「…これが突っ込んだら負け、っていうやつなのかしら」

 先輩は天を仰ぐように天井を見上げた。

「まあ、そんな理由なら暫く大人しくしていた方がいいんじゃないの?」

 溜息を吐きながら視線を私に戻した先輩がそんな事を言ってくるが。


 そうはいかない。私が先輩に対して事情を包み隠さず喋ったのは運命と戦う為だ。

 三年華組。『購買部』部長、田中良子(たなかよしこ)先輩。

 学院有数の権力者である彼女の協力を得る事が出来れば、私の脱出計画の大いに助けになる筈だ。

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