01 『桜田 蒔緒』 序章
一目惚れ、というものは実際に存在する。
私が自分で体験したのだから間違いない。
でも、よく言われている雷に打たれたような、とかそんな衝撃みたいなものは別に感じなかった。
ただ、彼に初めて会ったその瞬間に「ああ、この人だ」という静かな確信があっただけだ。
それまで私は、自分の事を恋愛事に関心の薄い人間なのだと思っていた。
惚れた腫れたの類いに一喜一憂している人の事を、正直、冷めた目で見ていた。更にぶっちゃけてしまえば、少し馬鹿にさえしていた。
しかし私は出会ってしまった。彼に、恋に。出会ってしまったのだ。
そして私は思い知る。
結局私は、何も知らなかっただけなのだという事を。
要するに一番の馬鹿は、私だったのだという事を。
その時私は、運命の人に巡り会ったのだと思った。それだけが重要な事柄で、その他の事は全て取るに足らない問題だと思った。
例えば、彼が姉の恋人である事だとか。
例えば、彼が家に来たのは姉との結婚の許しを得る為だったとか。
例えば、姉のお腹には、既に、彼の子供がいる事だとか。
そんな事はとても、とても些細な問題であると思ってしまったのだ。
◇◇◇◇◇◇
恋をするというのは幸せな事である。これは、概ね賛同を得られる意見だと思う。
然るに、私の今の状況は幸せであるとは言い難い。
何故ならば、全く彼に会うことが出来ていないからである。それどころか、完全に一切の接触を断たれてしまっている。
私立愛至苑女学院。
全寮制と言えば聞こえはいいが、外出どころか、外部との連絡でさえもいちいち許可を得なければならない、学校の皮を被った牢獄。
恋する乙女である私にとって地獄に等しい責め苦。
それが今の私のいる場所。置かれている現状だ。




