夕谷笑太と乙葉わかな
「36でした」
教卓に腕を組んでどっしりと立つ2-3担任教師である横川敦士に伝える。
そういや腕を組むという行為は拒絶と防衛を示すという話を聞いたことがある。
また、インディアナ大学のサンドラ・スミス・ハネン博士によるとそれは冷淡な人という印象を与えやすいらしい。
しかし実際はというと、横川先生は熱血教師で冷淡とは真逆の人間だ。実に暑苦しい。坊主ではないが髪は短く整えられ、いつも赤いジャージを着ている。もうお分かりの通り体育教師だ。クラスでは、優しく厳しい信頼に厚い教師だと思われている。俺は好きではない。こいつに言われて腹が立ったのは「俺はお前の友達だ、一人じゃないからな」だ。昼休みに教室で弁当を1人で食べてた俺を見ていたのだろう。配慮して誰もいないところで言われたのがなんかイラついた。漫画みたいに屋上が開けていたらすぐに屋上で食べてやる。まぁ、屋上で食べれるならみんなが向かいそうだから結局同じか。俺は漫画の主人公みたいに特別じゃないし、自分だけに優しい世界に生きていない。良くも悪くも平等な世界に生きている。
黒板の「36」の四角に、俺の名前、夕谷笑太が書かれたことを確認して席に戻った。
次々とくじを引いていく者がいる中、俺はというとおでこを机に押しつけ30秒前の自分を恨んでいた。いつの間にか最後の1人がくじを引き終えていた。
「それでは、席を移動しなさい。」
横川の野太い低い声が教室に響いた。俺はいち早く36であろう席に着き、1ヶ月後に行われるはずの席替えを希望に、5月を穏便に乗り切ることを誓った。
「最悪」
そう言って俺の前の30の席に腰を下ろした女の子は
このクラスで俺が話したことのある数少ない人物であった。
そう、こいつこそが俺の高校生活を孤高生活にした
1年の時から同じクラスの 乙葉わかな(おとはわかな)である。